「好きです」なんてやっぱり言えない

「……海」

 駆け上がってくる階段の音に、隼は足を止めた。その音の持ち主が誰なのか、分かってしまったからだ。
 すぐに自分の部屋に入ってしまえば海と鉢合わせることは無い。逃げてしまおうとする気持ちに気付いた隼は、自分を律するように足音が止まるのを待った。今はそうするべきだと思った。

「っはぁ、はぁ……」
「やぁ、おかえり海」
「っえ、あ、隼」

 まだ息の整っていない海は隼の姿を捉えて、困惑した様子を見せる。しかしそれはほんの一瞬で、すぐに笑顔で「ただいま」と返した。
 距離は2メートル程度だろうか。近いようで遠い距離感に隼は動くことが出来ない。

「え、っと……また、後で」

 海は突然の事に混乱しているようで、会話の繋がらない言葉を口にして隼の横を通り過ぎようとする。
 海が隼の真横に来た瞬間、隼は無意識に海の腕を掴んだ。

「っ」

 強い力に海の足は止まる。ついでに隼の思考も止まっていた。
 隼の頭の中では『告白』の二文字が馬鹿みたいにぐるぐると廻っている。

「海に、言いたいことがあるんだ」
「俺、に?」
「そう。……あのね、」
















「……海に紅茶、淹れてほしいな」
「それだけ?」
「うん」
「ああ、いいよ。隼の部屋に行けばいいか?」
「うん。待ってるね」
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