「好きです」なんてやっぱり言えない
「はい、隼さん。紅茶入りました」
「ありがとう、夜」
プロセラ共有ルームはいつものように紅茶の香りが漂う。微笑む隼と夜の横で、陽は小さくため息をついた。
「陽、せっかくの紅茶が美味しくなくなっちゃうよ」
「うるさい。つーか、誰のせいだと思ってんだよ。俺は部屋に帰りたいんだけど」
「なら、帰ればいいじゃない。夜を置いて」
「それが出来ないからここにいるんだろうが!」
「よ、陽。俺一人でも大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないだろ。お前、これから隼が話す内容きちんと返せんの?」
陽の指摘に夜は黙り込む。まさしくそれが肯定の意思で、夜は陽の分の紅茶を入れた後で陽の隣に座った。二人の前には元凶が優雅に紅茶を口にしている。
隼は始との仕事、陽と夜は授業が終わり寮に戻ってきた。たまたまタイミングが合ってしまい、隼に「聞いてほしいことがあるんだ」と二人は魔王様に捕まってしまった。
わざわざ陽と夜を捕まえたということは、話題の内容も何となく想像がつく。風呂と書かれたグループトークの内容もその想像を裏付けるものだ。
「海はさ、」
ティーカップから口を離した隼は唐突に、何の前触れもなく話し始める。
「僕と距離を置こうとしているんだよね」
「……は?」
意味がわからないと表情で訴える陽をスルーし、隼はなおも話を続ける。
「まぁ、あの鈍感な海のことだし、僕の思いに気付いてたりはしないだろうけど。
それでも本能で察しているのかもね。僕がやばい人間だって」
「海じゃなくてもお前がやばい奴ってことぐらい知ってるわ」
「おや、そう?」
「あはは……。でも、隼さんどうして海さんに避けられてるって思ったんですか?」
脱線しかけてた話を夜が引き戻す。隼は一つ頷いて、最近の海について愚痴に近い話をし始めた。
隼の話し出しは唐突なものだったが、考え自体は決して唐突では無い。たとえば今日、撮影が延期になってしまった海は、常ならまっすぐ寮に戻ってくるはずだ。それがプロセラで作ったグループトークには『一緒にダンスレッスンしてもいいか?』と年少組に声をかけていた。隼がもうすぐ仕事を終えて寮に戻ってくるのを知っていたはずなのに。
もしかしたら、本当にダンスレッスンをする必要性を感じて声をかけた可能性もある。それならば隼の心は傷つかない。
信じたい気持ちもあって、けれど最近の海は明らかに隼を避けていたからその可能性は早々に消去した。
ある日は抱きつこうとする隼を不自然な流れで躱した。またある日は隼と目が合った瞬間に視線を逸らした。さらにある日は隼に聞けばすぐに済むような事をわざわざグループの違う始の元まで行って尋ねていた。
大抵の事は何とかなると笑っている隼も、これはさすがに笑えなかった。
「あからさまなくせに、僕にはバレてないと思ってるんだよ」
隼から話しかければ海は答えてくれる。仕事上は何の問題も無い。
でも仕事以外では上手く海と噛み合うことが出来なくて。隼は海と自分の繋がりが実は脆くて不安定なものなのだと実感した。
「……それってさ、」
隼の話を全て聞いた陽が、軽い調子で口を開いた。
「結局隼が告白すれば全部終わるんじゃね?」
「……よ~う? 話聞いてくれてた?」
「聞いた。だから言ってんじゃん。ぐちぐち悩んでる意味がわかんねーんだけど」
陽の言葉はそのまま夜の気持ちでもあったようで、夜も「俺も告白した方がいいと思います」と陽よりは真面目な調子で返した。
隼が欲しかった答えでは無い。でもそれが正解なことも分かっている。
「陽も夜も、ひどいこと言うねぇ」
そう言って隼はティーカップに残っていた紅茶を飲み干す。もうこれ以上会話を続けないよう立ち上がった。
「……少し、自分の部屋にこもるね。二人とも話を聞いてくれてありがとう」
「ありがとう、夜」
プロセラ共有ルームはいつものように紅茶の香りが漂う。微笑む隼と夜の横で、陽は小さくため息をついた。
「陽、せっかくの紅茶が美味しくなくなっちゃうよ」
「うるさい。つーか、誰のせいだと思ってんだよ。俺は部屋に帰りたいんだけど」
「なら、帰ればいいじゃない。夜を置いて」
「それが出来ないからここにいるんだろうが!」
「よ、陽。俺一人でも大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないだろ。お前、これから隼が話す内容きちんと返せんの?」
陽の指摘に夜は黙り込む。まさしくそれが肯定の意思で、夜は陽の分の紅茶を入れた後で陽の隣に座った。二人の前には元凶が優雅に紅茶を口にしている。
隼は始との仕事、陽と夜は授業が終わり寮に戻ってきた。たまたまタイミングが合ってしまい、隼に「聞いてほしいことがあるんだ」と二人は魔王様に捕まってしまった。
わざわざ陽と夜を捕まえたということは、話題の内容も何となく想像がつく。風呂と書かれたグループトークの内容もその想像を裏付けるものだ。
「海はさ、」
ティーカップから口を離した隼は唐突に、何の前触れもなく話し始める。
「僕と距離を置こうとしているんだよね」
「……は?」
意味がわからないと表情で訴える陽をスルーし、隼はなおも話を続ける。
「まぁ、あの鈍感な海のことだし、僕の思いに気付いてたりはしないだろうけど。
それでも本能で察しているのかもね。僕がやばい人間だって」
「海じゃなくてもお前がやばい奴ってことぐらい知ってるわ」
「おや、そう?」
「あはは……。でも、隼さんどうして海さんに避けられてるって思ったんですか?」
脱線しかけてた話を夜が引き戻す。隼は一つ頷いて、最近の海について愚痴に近い話をし始めた。
隼の話し出しは唐突なものだったが、考え自体は決して唐突では無い。たとえば今日、撮影が延期になってしまった海は、常ならまっすぐ寮に戻ってくるはずだ。それがプロセラで作ったグループトークには『一緒にダンスレッスンしてもいいか?』と年少組に声をかけていた。隼がもうすぐ仕事を終えて寮に戻ってくるのを知っていたはずなのに。
もしかしたら、本当にダンスレッスンをする必要性を感じて声をかけた可能性もある。それならば隼の心は傷つかない。
信じたい気持ちもあって、けれど最近の海は明らかに隼を避けていたからその可能性は早々に消去した。
ある日は抱きつこうとする隼を不自然な流れで躱した。またある日は隼と目が合った瞬間に視線を逸らした。さらにある日は隼に聞けばすぐに済むような事をわざわざグループの違う始の元まで行って尋ねていた。
大抵の事は何とかなると笑っている隼も、これはさすがに笑えなかった。
「あからさまなくせに、僕にはバレてないと思ってるんだよ」
隼から話しかければ海は答えてくれる。仕事上は何の問題も無い。
でも仕事以外では上手く海と噛み合うことが出来なくて。隼は海と自分の繋がりが実は脆くて不安定なものなのだと実感した。
「……それってさ、」
隼の話を全て聞いた陽が、軽い調子で口を開いた。
「結局隼が告白すれば全部終わるんじゃね?」
「……よ~う? 話聞いてくれてた?」
「聞いた。だから言ってんじゃん。ぐちぐち悩んでる意味がわかんねーんだけど」
陽の言葉はそのまま夜の気持ちでもあったようで、夜も「俺も告白した方がいいと思います」と陽よりは真面目な調子で返した。
隼が欲しかった答えでは無い。でもそれが正解なことも分かっている。
「陽も夜も、ひどいこと言うねぇ」
そう言って隼はティーカップに残っていた紅茶を飲み干す。もうこれ以上会話を続けないよう立ち上がった。
「……少し、自分の部屋にこもるね。二人とも話を聞いてくれてありがとう」