キラキラ(4月)
幼馴染で相方の葵はいつもキラキラした王子様だ。
でも、そんな葵のキラキラが消えている時がたまにある。
「葵さ~ん?」
声をかけると、キラキラの消えた葵がちらりと俺に視線を向ける。
「なに、新」
「いつまでしょぼくれてんの」
「……だって、皆いないと思わなかったんだよ……」
葵の言う皆、とはグラビやプロセラの事ではなくツキノ寮に居るアニマルズのことだ。魔界生物も居るアニマルズは時々まるっと寮から居なくなる。今日は偶然その日だったらしい。仕事で疲れた葵はアニマルセラピー、トリミングで癒されようとしたみたいだが、それが上手くいかなくてずっとしょぼくれている。
キラキラしていない葵はとても俺の心を掻き回す。ざわざわする理由は分からなくて、それでも何かしなきゃと髪の毛をくしゃくしゃに乱れさせた。
「葵」
「何、ってどうしたの新」
「トリミングしてくれ」
一瞬驚いた表情をした葵は、すぐに笑いだして「いいよ」とブラシを手に取った。その顔はもうさっきまでとは違って、いつものキラキラした葵だ。良かった、と言いかけて何が良かったのか分からず口を閉じる。
ブラシを持った葵は鼻歌を歌いながら楽しそうに俺の髪を梳く。疲れ顔の葵王子は一気にどこかへ行ってしまったようだ。
「……こうしてると、昔を思い出すよね」
唐突に葵の呟きが聞こえて、「ん?」と問い返す。葵はふふっと笑って話し始めた。
「昔はさ、新の寝癖いつも俺が直してたじゃない」
「あ~確かに。あの頃からトリミング王子は健在だったな」
寝癖がついたままでも気にせず学校に行こうとする俺を止めて、葵は俺の髪を整えてくれていた。
あの頃も今も変わらず葵の手つきは優しい。その気持ちよさに昔は葵にブラッシングされてると、うとうとしてたっけ。
懐かしく思うと同時に今の俺もだんだんとうとうとしてくる。夢と現実の境界が曖昧になっていく。
「新~?」
「ん~」
「もう、寝ないでよ?」
「まだ寝てない」
微睡みの中で葵の声が聞こえて、現実へと引き戻された。「はい、終わり」と葵の手が俺の髪から離れる。少しだけ、寂しい。
残っている温もりを確かめるように髪に触れると、自分の髪とは思えないくらいさらさらの指通りになっていた。さすがトリミング王子。
「どう? お気に召した?」
「うん。すげーな葵」
「ふふっ、ありがとう」
キラキラ、星のようにきらめいた葵の笑顔。目の前で輝いて、あまりの眩しさに何も考えられなくなる。
あぁ、俺はずっとこの光を求めて、それで、ずっと、
「好き、だなぁ」
ぽろり、こぼれ落ちた言葉を拾って理解するには随分時間がかかった。今、俺は何を言ったんだろう。
「あら、た……? えっと、急にどうしたの?」
びっくりする葵の顔が俺の頭を冷静にさせた。
間違いなく、俺は葵に好きだと言った。でも『何が』かは言ってない。『葵にブラッシングされるのが好き』と答えても嘘にはならない。
それでいいんだろうか。俺は後悔しないんだろうか。
「新?」
葵の声が俺の思考を鈍らせる。俺だって自分が何やってるのかよく分かんないよ。
「なぁ、葵」
先の事なんて何一つ考えていない。ブラッシングされたことで昔を思い出し、ついでに気づかないようにしていた感情に気づいてしまった。
もう無視なんて出来ない。進むしかない。
「今から真面目な話するけどいい?」
「う、うん。いいよ」
大きく息を吸って、息と一緒に吐きだす。
「俺、葵にブラッシングされるの好き」
「ありがとう」
「うん。けど、それだけじゃなくて」
「え?」
「俺は葵の笑顔が好き。キラキラしてて綺麗な笑顔」
「え、っ」
男の幼馴染から言われる台詞とすればなかなか気持ち悪い気がする。けど、葵に引いている様子は見えない。
期待しちゃってもいいのかな?いいよね?
「まぁつまり、俺は葵のことそういう意味で好きって事だ」
言った。遂に言ってしまった。
小さい頃からずっと葵の事が好きだった。ただ、自覚出来てなくて、何故か今このタイミングでそうなのだと気が付いた。
自覚して2,3分しか経っていないのに告白した俺に、葵は何度も「えっ」や「待って」と繰り返している。その頬は苺のように赤くて、もしかしてと期待した心臓が大きく跳ねる。
「あら、た」
「なに?」
「その、えっと、何て言えばいいか分からないんだけど」
いつも金色の葵のキラキラが今はピンク色に見える、気がする。
ごくんと唾をのむ音が聞こえて柄にもなく自分が緊張していることを分からされる。
「俺、新のこと」
――パチンと弾けるキラキラに導かれるように、俺は勢いよく葵を抱きしめた。
でも、そんな葵のキラキラが消えている時がたまにある。
「葵さ~ん?」
声をかけると、キラキラの消えた葵がちらりと俺に視線を向ける。
「なに、新」
「いつまでしょぼくれてんの」
「……だって、皆いないと思わなかったんだよ……」
葵の言う皆、とはグラビやプロセラの事ではなくツキノ寮に居るアニマルズのことだ。魔界生物も居るアニマルズは時々まるっと寮から居なくなる。今日は偶然その日だったらしい。仕事で疲れた葵はアニマルセラピー、トリミングで癒されようとしたみたいだが、それが上手くいかなくてずっとしょぼくれている。
キラキラしていない葵はとても俺の心を掻き回す。ざわざわする理由は分からなくて、それでも何かしなきゃと髪の毛をくしゃくしゃに乱れさせた。
「葵」
「何、ってどうしたの新」
「トリミングしてくれ」
一瞬驚いた表情をした葵は、すぐに笑いだして「いいよ」とブラシを手に取った。その顔はもうさっきまでとは違って、いつものキラキラした葵だ。良かった、と言いかけて何が良かったのか分からず口を閉じる。
ブラシを持った葵は鼻歌を歌いながら楽しそうに俺の髪を梳く。疲れ顔の葵王子は一気にどこかへ行ってしまったようだ。
「……こうしてると、昔を思い出すよね」
唐突に葵の呟きが聞こえて、「ん?」と問い返す。葵はふふっと笑って話し始めた。
「昔はさ、新の寝癖いつも俺が直してたじゃない」
「あ~確かに。あの頃からトリミング王子は健在だったな」
寝癖がついたままでも気にせず学校に行こうとする俺を止めて、葵は俺の髪を整えてくれていた。
あの頃も今も変わらず葵の手つきは優しい。その気持ちよさに昔は葵にブラッシングされてると、うとうとしてたっけ。
懐かしく思うと同時に今の俺もだんだんとうとうとしてくる。夢と現実の境界が曖昧になっていく。
「新~?」
「ん~」
「もう、寝ないでよ?」
「まだ寝てない」
微睡みの中で葵の声が聞こえて、現実へと引き戻された。「はい、終わり」と葵の手が俺の髪から離れる。少しだけ、寂しい。
残っている温もりを確かめるように髪に触れると、自分の髪とは思えないくらいさらさらの指通りになっていた。さすがトリミング王子。
「どう? お気に召した?」
「うん。すげーな葵」
「ふふっ、ありがとう」
キラキラ、星のようにきらめいた葵の笑顔。目の前で輝いて、あまりの眩しさに何も考えられなくなる。
あぁ、俺はずっとこの光を求めて、それで、ずっと、
「好き、だなぁ」
ぽろり、こぼれ落ちた言葉を拾って理解するには随分時間がかかった。今、俺は何を言ったんだろう。
「あら、た……? えっと、急にどうしたの?」
びっくりする葵の顔が俺の頭を冷静にさせた。
間違いなく、俺は葵に好きだと言った。でも『何が』かは言ってない。『葵にブラッシングされるのが好き』と答えても嘘にはならない。
それでいいんだろうか。俺は後悔しないんだろうか。
「新?」
葵の声が俺の思考を鈍らせる。俺だって自分が何やってるのかよく分かんないよ。
「なぁ、葵」
先の事なんて何一つ考えていない。ブラッシングされたことで昔を思い出し、ついでに気づかないようにしていた感情に気づいてしまった。
もう無視なんて出来ない。進むしかない。
「今から真面目な話するけどいい?」
「う、うん。いいよ」
大きく息を吸って、息と一緒に吐きだす。
「俺、葵にブラッシングされるの好き」
「ありがとう」
「うん。けど、それだけじゃなくて」
「え?」
「俺は葵の笑顔が好き。キラキラしてて綺麗な笑顔」
「え、っ」
男の幼馴染から言われる台詞とすればなかなか気持ち悪い気がする。けど、葵に引いている様子は見えない。
期待しちゃってもいいのかな?いいよね?
「まぁつまり、俺は葵のことそういう意味で好きって事だ」
言った。遂に言ってしまった。
小さい頃からずっと葵の事が好きだった。ただ、自覚出来てなくて、何故か今このタイミングでそうなのだと気が付いた。
自覚して2,3分しか経っていないのに告白した俺に、葵は何度も「えっ」や「待って」と繰り返している。その頬は苺のように赤くて、もしかしてと期待した心臓が大きく跳ねる。
「あら、た」
「なに?」
「その、えっと、何て言えばいいか分からないんだけど」
いつも金色の葵のキラキラが今はピンク色に見える、気がする。
ごくんと唾をのむ音が聞こえて柄にもなく自分が緊張していることを分からされる。
「俺、新のこと」
――パチンと弾けるキラキラに導かれるように、俺は勢いよく葵を抱きしめた。