11月と7月の両片思い戦争

 俺はつい二日前の話なんだけど、状況は郁と似てたかな。
 でも、俺の場合は海に用事があって、海の部屋に向かってた。用事つってもそんな大したことじゃなかったんだけどさ。
 時間は夜の8時くらいだったかな? その時間なら海も部屋にいるだろうって思ってドアをノックしたんだ。
 ……けど、海は出てこなかった。いないのかなって思いながらドアノブを押したらドアが開いてさ……。

「海? いる~?」

 部屋の中は電気がついてなかった。もしかしたら鍵のかけ忘れかとも思ったんだけど、寝室の方の扉が少し開いていて、そこから光が少し漏れてた。
それで、寝てるんだと思って一旦は帰ろうとしたんだけど、俺も暇だったしちょっとしたいたずら心で寝室の方に見に行ったんだ。
……その表情で大体察しはついてることは分かる。その通り、海もいたし、隼もいた。
 けど、問題なのは、

「は、っ、隼っ?! お前何やってんの?!」

 そのまま表現するのはちょっとあれなんだけど……まぁ、簡単に言うと隼が海の服を脱がせてた。
 ちょ、郁そんな怒るなって。俺もあんま言いたくないんだから。上しか脱がされてなかったのが不幸中の幸いかな。
 え、海の様子? あいつは寝てたよ。

「あぁ、陽か」
「陽か、じゃなくて! 隼この状況何?」
「海の胸にキスしてた」

 はいはいはい。全然意味わからない。
 もちろん俺はすぐにツッコんだ。けど、隼には全く効かなくて、あいつは自由に自分の行為の説明を始めた。

「ねぇ、陽知ってる? キスする場所ってちゃんと意味があるんだよ」
「はぁ?」
「胸は所有……僕のモノって意味」

 他にもって言いながら隼は海の首筋にキスをした。こんなに好きにさせられて起きない海はすげえなって思った。

「ここは執着。あと耳は誘惑」

 隼が海の耳にキスしたところで俺は止めた。パニックになってたからすぐ止められなかったのはしょうがないと思って。
 色々気になることはあったけど、まず俺は海について隼に尋ねた。

「海は全然起きないけど、何で……?」
「海? あぁ、たぶん、ロケ帰りで疲れてるんじゃないかな」

 どうやら隼の謎のおまじないでは無いらしい。それに関しては安心した。けど、同時にこいつ服脱がされても起きないって中々やばいんじゃないかと思った。
 次に俺は本題であるキスについて尋ねた。

「何で海の体にキスしてんの?」
「それは……おまじない、だよ」

 こっちかーって心の中で叫んだ。皆そうだと思うけど、隼のおまじないは何でもありだから要注意事項なわけじゃん。

「おまじないってどういうやつ?」
「体中にキスして、最後唇にキスをすれば海は僕の事を好きになるっておまじない」
「……はぁ」

 どういう仕組みなのか分からないけど、いつも指を鳴らすだけのくせにまどろっこしいことやってんなとは思った。もちろん、隼本人には言ってないけど。
 つか、そのおまじないやる前からもう成功してるからな。だって両思いだからあいつら。

「早く最後までしたほうがいいんじゃね?」
「そうだね。海が起きる前にしないと」

 その会話をした時点で帰っても良かったんだけど、何となくそのまま隼の行動を眺めてた。
 髪に瞼に頬に、って顔中にキスした後、やっと隼は海の口に近づいて行った。年長二人のキスシーン、片方寝てるけど、何か複雑だなって思って見る前に帰ろうとしたらさ。
 ……何が起きたと思う? ……お、涙正解。

「ん~……?」

 起きたんだな、海が。嘘みたいなタイミングで。

「ふわぁ……」

 あくびをする海はすぐに目を開けた。隼は体を退くタイミングを失ってそのまま固まった。距離は数センチかな、ちょっとでも事故が起きれば触れるぐらいの距離。
 隼もだけど、海もびっくりして固まってた。そりゃそうだよな、だって起きたら至近距離に隼がいるんだもん。

「っ、え……?」
「おはよう、海」

 あそこでおはようって言った隼はさすがだった。海は意味わかってない顔で、それでもおはようって返してた。

「あれ、隼が起こしてくれたのか……? ていうか、今何時だ?」
「さぁ? 陽、今何時か分かる?」
「陽? 陽もいるのか?」

 まさかそこで話を振られるとは思ってなかったよな。でも、驚いてる年長組を見てたら、何か俺の方はすごい冷静になってた。
 海の部屋の時計で確認して時間を言って、「海に用事があったんだけど、取り込み中みたいだしまた今度話すわ」って言って海の部屋を後にした。
 あれはさすがに、二人きりにした方が進展するかなと思ってさ。


*****


「なるほど、確かに僕の話と繋がってるみたいだね」
「だろ?」

 話を聞いていた夜と郁も同意するように頷く。隼がキスという方法をとったのはおそらく涙との会話が要因だろう。
 さて、話がすべて出そろったところで、この話し合いを取り仕切っている陽が軽く机を叩いた。

「で、全員の話が出そろったわけだけど……やっぱり、まだダメみたいだな」

 第3回にもかかわらず進展の無い年長組に対して、四人はそれぞれに苦い顔をしたりため息をついたりしている。
 第1回が開催されるより前から、四人は隼と海の事を見守って来た。両思いなのにかみ合わない二人をやきもきしながら応援してきたのだ。数か月前からいい加減くっつけようと情報を持ち寄っている。
 だが、一向に進展しない。まだこの戦いは終わりそうになさそうだ。

「とりあえず、今度あいつらを二人きりにするか?」
「二人きりにしたところで告白するとは思えないんだけど」
「じゃあ、こういうのは?」
「あ、それいいですね!」

 お茶と大福を囲みながら四人の話し合いはなおも続くのであった。
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