11月と7月の両片思い戦争

 僕はこの前、隼と一緒の撮影があったんだ。その時、機材の不具合で一時間くらい暇が出来たの。
 特にすることも無いしなって思ってたら、隼が突然

「海とキスしたいんだけどどうしたらいいかな?」

 って僕に聞いてきて……っていっくんどうしたの?
 ……あぁ、僕なら大丈夫だよ。隼のそういうのには慣れてるし。で、聞かれたからには答えないといけないなって思ったんだ。
 でも僕は海の事そんな風に思ったことは一度も無いから、全然答えが出なくて聞いてみたんだ。

「何で隼は海にキスしたいの?」

 え? うん、本当に聞いたよ。そんな驚くことでもないと思うけど。

「それはもちろん、海の事が好きだからだよ」

 そう言う隼の顔は、プリンよりもずっと甘い顔をしてた。甘くて蕩けそうな顔。

「なるほど」
「まぁ、海なら頼めば普通にさせてくれそうな気もするんだけどねぇ……やっぱり、気持ちが通じ合ってこそだしね」

 隼にしてはちょっと弱気な発言だなって思った。……え、そうでもない?
 そっか……でも僕は隼らしくないなって思ったから、アドバイスしたんだ。

「じゃあ、海をその気にさせればいいんじゃない?」

 気持ちの方は何の問題も無いから、とは言ってないけど、そんな感じのことを言ったよ。
 そしたら、隼はすっごくいい笑顔で

「そっか! そうだよね!」

 って。それから何か調べ始めたから僕はそのまま放置した。あ、撮影終わった後お礼にって隼がプリンくれた。


*****


「僕はこれで終わり」

 涙の話を聞き終わった郁と夜はそれぞれ苦笑いを浮かべる。涙の語り口調から、隼がどんな風な表情をしていたのかは容易に想像がついた。
 ただ、陽だけは全てが繋がったように「そういうことか」と悩みが晴れた顔で呟いた。

「どうしたの、陽?」
「いや、俺が今からする話は涙の話と繋がってるんだよ。謎な部分があったんだけど、今ので解けたわ」

 陽は長くなりそうな話の前に、お茶を一口飲んで話し始めた。
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