So Cute!
夢心地の中、ぺちぺちと何かが頬に当たる感触がする。小さい、まるで子供の手のような……。
「ん……?」
「かい、おきて」
名前を呼ばれ、ゆっくりと目を開ける。
視界に映ったのは、俺の顔を覗き込んでいる、真っ白な髪に大きな抹茶色の瞳。見覚えはあるが、いつもの姿とは一致しない。
「……え、っと、隼……?」
「うん。おはよう、かい」
「おは、よう……」
可愛らしい笑顔で挨拶され、現状を理解できていないまま挨拶を返す。
本人が認めたということは、目の前にいるのは間違いなく隼なのだろう。ただ、その姿はどう見ても4,5歳だ。昨日、寝る前までは成人男性だったはずなのだが。
「なんで、そんな事になったんだ……?」
思い浮かんだ疑問をそのまま口にすると、小さな隼は困ったように笑った。
「おまじない、かけちがえたみたいなんだよね。ほんとうははじめのおさないすがたがみたかったんだけど」
子供だからか、少し舌足らずな喋り方で隼は説明する。どうやら、幼くなったのは見た目だけで中身は元の大人のままのようだ。どこかの名探偵の姿が思い浮かんだが、すぐに頭を振ってその姿を消した。
「お前なぁ、始に何しようとしてんだ。自業自得だぞ」
「だぁってぇ、ちょっとみたかったんだもん」
拗ねたように唇を尖らせる隼。いつもならツッコミの意味で軽く頭を叩くところだが。
……可愛い。正直めちゃくちゃ可愛い。中身は変わっていないと分かっていても、その姿はお菓子をねだる子供のようだ。
ツッコミのために伸ばした手で、そのまま隼の頭を撫でる。大人の時よりも柔らかく、まるで雲を触っているような気持ちになる。
「……かい?」
「っ、こ、これはいつまで続くんだ?」
「めいわくかけないように、いちじかんでとけるようにしてあるよ」
小さな人差し指を俺の目の前に突き出す。溢れ出す愛おしさを堰き止めるのは、そろそろ限界だった。
「分かった。一時間だな」
言うが早いか、俺は両手で隼の髪の毛をわしゃわしゃと撫で始めた。
白い雲のような髪が一瞬でぐしゃぐしゃになる。隼の小さな手が俺を止めるように服を引っ張った。
「かい」
「悪い、可愛くてつい」
満足した俺が手を離すと、隼は怒ったように目を細める。
だが、その姿もめちゃくちゃ可愛い。どんな表情してても可愛い。子供ってすごいな。
あまりの可愛さに緩んだ表情で隼を見ていると、隼ははぁと大きく息を吐いた。
「かわいいっていわれるのもいいけど、かいのほうがかわいいからね?」
「何言ってんだ。お前今めちゃくちゃ可愛いんだから!」
「……かいが、そんなにこどもずきだとはしらなかったよ。めんどうみはいいし、すきなんだろうなとはおもってたけど」
隼はそう言った後、急に何か思いついたように含みのある笑みを浮かべた。
その顔も可愛くて、これは写真に収めるべきだと枕元に置いてあった携帯電話を取ろうとすると、視界がぐるり回転した。
俺の目にはさっきと同じ笑顔の隼が映る。
「ねぇ、かい」
「ん?」
「きょうはやすみだし、もっとかいといちゃいちゃしたいなぁ……?」
小さな手が俺の輪郭を捉える。そのまま顔を近づけ、唇を重ね合わせた。
……のだが、もちろん隼の体は子どもだから綺麗に唇が重ね合わさることは無く。ちゅっと当たった可愛らしい唇に思わず笑うと、隼は悔しそうに何度もキスをしてくる。
それでも官能的というよりはやっぱり愛らしいのほうが近い。ようやく諦めたのか唇を離した隼は、体を広げてぎゅっと俺に抱き着いてきた。
「かい~」
「はいはい。どうしたんだ?」
「じぶんのおまじないなのに、このすがたのせいでうまくきすもできない」
「いいんじゃないか、可愛いし。一時間と言わず、ずっとこのままでもいいけどなぁ」
隼の体を抱きしめながら、ぽつり本音が漏れる。
俺の本音が気に食わなかったのか、隼は俺の服をめくり指で腹筋のあたりをなぞりはじめた。
「ぼくは、かいとえっちがしたいんだけど」
妖艶にとまではいかないがにやりと隼は笑う。俺は隼の顔へと手を伸ばし、その額に軽くでこぴんを食らわせた。
「いたっ」
「子どもがそんなこと言っちゃダメだろ」
「かい……ぼく、なかみはおとなだよ」
さすがに俺もわかっている。だけど、その容姿で言われるとどうしても違和感が生まれてしまうのだ。
宥めるように隼の髪を撫でながら、優しく自分の体から引きはがす。そのまま起き上がって俺の隣に座らせると、隼の表情は不満に歪んだ。
「あ~なんでまちがっちゃったんだろ……」
こうなってしまった原因について思案を巡らせる隼の頬を、指で軽くつつく。ぷにっとした感触はいつまでも触っていられるぐらいに気持ちいい。
改めて見ると、隼の姿は以前撮影のために用意した幼児期の写真そのままだ。写真からでも十分育ちの良さとお坊ちゃま感は出ていたが、実物は3割増しでそれを実感する。始もそうだったのだろうが、こんな小さい頃から大人に囲まれて社交場に顔を出している姿が容易に想像つく。自分の幼い頃を思い返してみると、同世代の子と外で走り回っていた記憶しかない。
今は見た目だけで中身は大人の隼だが、もしこの頃の隼に出会っていたら何か彼の人生に影響を与えることが出来たんじゃないか、なんて。
「かい?」
隼を見つめたまま考え事に耽る俺を不審に思ったのか、隼は首を傾げて俺を見ていた。
「あ、いや、ちょっと考え事してた」
「ふぅん。……なにをかんがえていたかは、きかないことにするよ」
ふわっと微笑んだ姿は子どもなのに、何故か心臓を掴まれるような色気があった。
こんなに小さくても、隼は隼なんだと強く意識してしまう。顔の中心からじわじわと熱が集まってくる。
「……ふふ、かぁい。どうしたの? かお、あかいよ?」
再度隼の手が俺の輪郭に触れる。
さっきと違うのは、ただぺたりと触ってくるだけだ。柔らかい手が俺の顔を確かめるように、顔中を両手で優しく触れていく。
もうバレているんだろうけど、照れを隠すように後ろ手で携帯電話を探して、カメラを隼の方に向けた。至近距離でシャッター音が鳴る。
不意打ちに少し驚いた表情をした隼がにこりと笑う。もう一度ボタンを押せば、今度は笑顔の隼が画面いっぱいに映った。
「っ、可愛い」
「ほんとう、すきだねぇ」
隼が楽しそうに笑ったその瞬間、突然強い光が放たれた。
目の前が真っ白になり反射的に目を閉じる。眩しさに驚きながら目をゆっくりと開けると、先程と変わらない部屋と俺と変わらない背丈の男が笑っていた。
「……えーっと、戻った?」
「うん、そうみたいだね」
「え、ちょっと待って。まだ一時間経って無いよな……?」
どれだけ多く見積もっても30分程度しか経っていないはずだ。俺が起きてから一時間も経っていたのならば、どこかでタイムトリップしたとしか思えない。
俺が混乱していると、もう大人になってしまった隼がくすくすと笑う。子供の頃のような可愛らしさは感じない。
「実は、海を起こす前から子供になってたんだ。だから海を起こしてから正確な時間は僕にもわからなくて」
「何だよそれ……もっと早く起こしてくれ……」
「さすがに僕も混乱してたからね。事態を飲み込むまで海を起こさない方がいいかなって」
「いや、まぁそりゃそれが正しいんだろうけど」
もう少し子供の隼を楽しんでいたかった。外に出るのは叶わないとしても、アニマルズと戯れる子供の隼とかも見てみたかったのに。
そんなことを考えていると、隼の顔が近づいてくる。顔を押さえる手はいつもの隼で、さっきは大きさの違った唇も今度は綺麗に合わさった。
「んっ」
可愛らしさなんて欠片もない、本能のまま求めあうキス。でも何故か安心した。
「……海」
唇を離した隼が妖艶に微笑む。
言葉の続きはもう分かっている。携帯電話をサイドボードに置いて、隼の腕を引きながらゆっくりベッドに身を委ねた。
「ん……?」
「かい、おきて」
名前を呼ばれ、ゆっくりと目を開ける。
視界に映ったのは、俺の顔を覗き込んでいる、真っ白な髪に大きな抹茶色の瞳。見覚えはあるが、いつもの姿とは一致しない。
「……え、っと、隼……?」
「うん。おはよう、かい」
「おは、よう……」
可愛らしい笑顔で挨拶され、現状を理解できていないまま挨拶を返す。
本人が認めたということは、目の前にいるのは間違いなく隼なのだろう。ただ、その姿はどう見ても4,5歳だ。昨日、寝る前までは成人男性だったはずなのだが。
「なんで、そんな事になったんだ……?」
思い浮かんだ疑問をそのまま口にすると、小さな隼は困ったように笑った。
「おまじない、かけちがえたみたいなんだよね。ほんとうははじめのおさないすがたがみたかったんだけど」
子供だからか、少し舌足らずな喋り方で隼は説明する。どうやら、幼くなったのは見た目だけで中身は元の大人のままのようだ。どこかの名探偵の姿が思い浮かんだが、すぐに頭を振ってその姿を消した。
「お前なぁ、始に何しようとしてんだ。自業自得だぞ」
「だぁってぇ、ちょっとみたかったんだもん」
拗ねたように唇を尖らせる隼。いつもならツッコミの意味で軽く頭を叩くところだが。
……可愛い。正直めちゃくちゃ可愛い。中身は変わっていないと分かっていても、その姿はお菓子をねだる子供のようだ。
ツッコミのために伸ばした手で、そのまま隼の頭を撫でる。大人の時よりも柔らかく、まるで雲を触っているような気持ちになる。
「……かい?」
「っ、こ、これはいつまで続くんだ?」
「めいわくかけないように、いちじかんでとけるようにしてあるよ」
小さな人差し指を俺の目の前に突き出す。溢れ出す愛おしさを堰き止めるのは、そろそろ限界だった。
「分かった。一時間だな」
言うが早いか、俺は両手で隼の髪の毛をわしゃわしゃと撫で始めた。
白い雲のような髪が一瞬でぐしゃぐしゃになる。隼の小さな手が俺を止めるように服を引っ張った。
「かい」
「悪い、可愛くてつい」
満足した俺が手を離すと、隼は怒ったように目を細める。
だが、その姿もめちゃくちゃ可愛い。どんな表情してても可愛い。子供ってすごいな。
あまりの可愛さに緩んだ表情で隼を見ていると、隼ははぁと大きく息を吐いた。
「かわいいっていわれるのもいいけど、かいのほうがかわいいからね?」
「何言ってんだ。お前今めちゃくちゃ可愛いんだから!」
「……かいが、そんなにこどもずきだとはしらなかったよ。めんどうみはいいし、すきなんだろうなとはおもってたけど」
隼はそう言った後、急に何か思いついたように含みのある笑みを浮かべた。
その顔も可愛くて、これは写真に収めるべきだと枕元に置いてあった携帯電話を取ろうとすると、視界がぐるり回転した。
俺の目にはさっきと同じ笑顔の隼が映る。
「ねぇ、かい」
「ん?」
「きょうはやすみだし、もっとかいといちゃいちゃしたいなぁ……?」
小さな手が俺の輪郭を捉える。そのまま顔を近づけ、唇を重ね合わせた。
……のだが、もちろん隼の体は子どもだから綺麗に唇が重ね合わさることは無く。ちゅっと当たった可愛らしい唇に思わず笑うと、隼は悔しそうに何度もキスをしてくる。
それでも官能的というよりはやっぱり愛らしいのほうが近い。ようやく諦めたのか唇を離した隼は、体を広げてぎゅっと俺に抱き着いてきた。
「かい~」
「はいはい。どうしたんだ?」
「じぶんのおまじないなのに、このすがたのせいでうまくきすもできない」
「いいんじゃないか、可愛いし。一時間と言わず、ずっとこのままでもいいけどなぁ」
隼の体を抱きしめながら、ぽつり本音が漏れる。
俺の本音が気に食わなかったのか、隼は俺の服をめくり指で腹筋のあたりをなぞりはじめた。
「ぼくは、かいとえっちがしたいんだけど」
妖艶にとまではいかないがにやりと隼は笑う。俺は隼の顔へと手を伸ばし、その額に軽くでこぴんを食らわせた。
「いたっ」
「子どもがそんなこと言っちゃダメだろ」
「かい……ぼく、なかみはおとなだよ」
さすがに俺もわかっている。だけど、その容姿で言われるとどうしても違和感が生まれてしまうのだ。
宥めるように隼の髪を撫でながら、優しく自分の体から引きはがす。そのまま起き上がって俺の隣に座らせると、隼の表情は不満に歪んだ。
「あ~なんでまちがっちゃったんだろ……」
こうなってしまった原因について思案を巡らせる隼の頬を、指で軽くつつく。ぷにっとした感触はいつまでも触っていられるぐらいに気持ちいい。
改めて見ると、隼の姿は以前撮影のために用意した幼児期の写真そのままだ。写真からでも十分育ちの良さとお坊ちゃま感は出ていたが、実物は3割増しでそれを実感する。始もそうだったのだろうが、こんな小さい頃から大人に囲まれて社交場に顔を出している姿が容易に想像つく。自分の幼い頃を思い返してみると、同世代の子と外で走り回っていた記憶しかない。
今は見た目だけで中身は大人の隼だが、もしこの頃の隼に出会っていたら何か彼の人生に影響を与えることが出来たんじゃないか、なんて。
「かい?」
隼を見つめたまま考え事に耽る俺を不審に思ったのか、隼は首を傾げて俺を見ていた。
「あ、いや、ちょっと考え事してた」
「ふぅん。……なにをかんがえていたかは、きかないことにするよ」
ふわっと微笑んだ姿は子どもなのに、何故か心臓を掴まれるような色気があった。
こんなに小さくても、隼は隼なんだと強く意識してしまう。顔の中心からじわじわと熱が集まってくる。
「……ふふ、かぁい。どうしたの? かお、あかいよ?」
再度隼の手が俺の輪郭に触れる。
さっきと違うのは、ただぺたりと触ってくるだけだ。柔らかい手が俺の顔を確かめるように、顔中を両手で優しく触れていく。
もうバレているんだろうけど、照れを隠すように後ろ手で携帯電話を探して、カメラを隼の方に向けた。至近距離でシャッター音が鳴る。
不意打ちに少し驚いた表情をした隼がにこりと笑う。もう一度ボタンを押せば、今度は笑顔の隼が画面いっぱいに映った。
「っ、可愛い」
「ほんとう、すきだねぇ」
隼が楽しそうに笑ったその瞬間、突然強い光が放たれた。
目の前が真っ白になり反射的に目を閉じる。眩しさに驚きながら目をゆっくりと開けると、先程と変わらない部屋と俺と変わらない背丈の男が笑っていた。
「……えーっと、戻った?」
「うん、そうみたいだね」
「え、ちょっと待って。まだ一時間経って無いよな……?」
どれだけ多く見積もっても30分程度しか経っていないはずだ。俺が起きてから一時間も経っていたのならば、どこかでタイムトリップしたとしか思えない。
俺が混乱していると、もう大人になってしまった隼がくすくすと笑う。子供の頃のような可愛らしさは感じない。
「実は、海を起こす前から子供になってたんだ。だから海を起こしてから正確な時間は僕にもわからなくて」
「何だよそれ……もっと早く起こしてくれ……」
「さすがに僕も混乱してたからね。事態を飲み込むまで海を起こさない方がいいかなって」
「いや、まぁそりゃそれが正しいんだろうけど」
もう少し子供の隼を楽しんでいたかった。外に出るのは叶わないとしても、アニマルズと戯れる子供の隼とかも見てみたかったのに。
そんなことを考えていると、隼の顔が近づいてくる。顔を押さえる手はいつもの隼で、さっきは大きさの違った唇も今度は綺麗に合わさった。
「んっ」
可愛らしさなんて欠片もない、本能のまま求めあうキス。でも何故か安心した。
「……海」
唇を離した隼が妖艶に微笑む。
言葉の続きはもう分かっている。携帯電話をサイドボードに置いて、隼の腕を引きながらゆっくりベッドに身を委ねた。
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