24日目:指輪よりも愛がいい(黒海)
仕事を終えて帰宅すると、合い鍵を使って先に家に入っていた恋人の靴を見つけた。
さっきまで感じていた疲れもどこかへ行って、鼻唄を歌いながら部屋の扉を開ける。
「お帰りなさい、大さん」
恋人モードで微笑む彼に抱きつこうと近づいて、足を止める。
海が座るソファの前に置いてあるテーブルの上には朝開封してそのままにしていた封筒が置かれていた。元に戻したはずの中身が出されているのは、おそらく海も見たからだろう。
「えっと、それ見たのか?」
「あぁ……すみません。お見合い写真かと思ったら気になって」
海は悪くない。不用意に置いておいた自分の責任だ。
送り返そうと思って机の上に出していたのがあだになってしまった。
「いいんだ。明日送り返すから」
「……お見合い、受けないんですか?」
海の言葉に片付けようと伸ばした手が止まる。
聞き間違いか? いや、さすがにそれはない。だとすれば、海はどういう気持ちで今の言葉を喋ったのだろう。そこは普通、恋人がお見合いを受けないことに安心するのでは……?
伸ばした手を引っ込め、海の顔を見る。彼らしくない、作った笑顔をしていた。
「海」
名前を呼ぶと目をそらされた。顎を掴んでこちらに顔を向けさせる。
「本気で言ってるのか?」
海の言葉で動揺した自分を隠すため、言葉が少し強くなってしまった。
海は視線をさまよわせた後、ぽつりぽつり言葉を紡ぎ始める。
「俺じゃ、大さんと結婚出来ませんし。子供も産めないし」
「俺はそんなの望んでない」
「でも、大さんのお母さんは望んでる」
そんなことはないと、否定してあげればよかったのにできなかった。
海の言う通り、30も半ばに差し掛かった息子の結婚について母は随分と心配している。そんな母に対して同性の恋人がいるとは未だに言えていない。
海を好きな気持ちは本当なのに、後ろめたさを感じている自分がふがいない。
「すまん。けど、お見合いは受けないから」
まるで浮気を許してと請う男のようだと思いながら、海の体を抱きしめた。
当たり前だが、大きいし硬い。女性らしさなんてどこにもないのに、俺は一回り近く年下の恋人から離れられないのだ。
そんな思いがちゃんと通じるようにと、ぎゅうっと強く抱きしめる。
「大丈夫ですよ、大さん。信じてますから」
海は俺の耳元でふふっと笑って、俺の背中に腕を回した。
今、海がどんな顔をしているのかは分からない。けれど、言葉とは裏腹にこの体を離してしまえばどこかへ消えて行ってしまいそうだと思った。
さっきまで感じていた疲れもどこかへ行って、鼻唄を歌いながら部屋の扉を開ける。
「お帰りなさい、大さん」
恋人モードで微笑む彼に抱きつこうと近づいて、足を止める。
海が座るソファの前に置いてあるテーブルの上には朝開封してそのままにしていた封筒が置かれていた。元に戻したはずの中身が出されているのは、おそらく海も見たからだろう。
「えっと、それ見たのか?」
「あぁ……すみません。お見合い写真かと思ったら気になって」
海は悪くない。不用意に置いておいた自分の責任だ。
送り返そうと思って机の上に出していたのがあだになってしまった。
「いいんだ。明日送り返すから」
「……お見合い、受けないんですか?」
海の言葉に片付けようと伸ばした手が止まる。
聞き間違いか? いや、さすがにそれはない。だとすれば、海はどういう気持ちで今の言葉を喋ったのだろう。そこは普通、恋人がお見合いを受けないことに安心するのでは……?
伸ばした手を引っ込め、海の顔を見る。彼らしくない、作った笑顔をしていた。
「海」
名前を呼ぶと目をそらされた。顎を掴んでこちらに顔を向けさせる。
「本気で言ってるのか?」
海の言葉で動揺した自分を隠すため、言葉が少し強くなってしまった。
海は視線をさまよわせた後、ぽつりぽつり言葉を紡ぎ始める。
「俺じゃ、大さんと結婚出来ませんし。子供も産めないし」
「俺はそんなの望んでない」
「でも、大さんのお母さんは望んでる」
そんなことはないと、否定してあげればよかったのにできなかった。
海の言う通り、30も半ばに差し掛かった息子の結婚について母は随分と心配している。そんな母に対して同性の恋人がいるとは未だに言えていない。
海を好きな気持ちは本当なのに、後ろめたさを感じている自分がふがいない。
「すまん。けど、お見合いは受けないから」
まるで浮気を許してと請う男のようだと思いながら、海の体を抱きしめた。
当たり前だが、大きいし硬い。女性らしさなんてどこにもないのに、俺は一回り近く年下の恋人から離れられないのだ。
そんな思いがちゃんと通じるようにと、ぎゅうっと強く抱きしめる。
「大丈夫ですよ、大さん。信じてますから」
海は俺の耳元でふふっと笑って、俺の背中に腕を回した。
今、海がどんな顔をしているのかは分からない。けれど、言葉とは裏腹にこの体を離してしまえばどこかへ消えて行ってしまいそうだと思った。