23日目:まぁ、お前の方が可愛いのですが(始海)

「ただいま~」
「あぁ、海。おかえり」

 仕事から帰宅し、プロセラの共有ルームに顔を出した海を出迎えてくれたのは、プロセラの誰かではなく黒の王様だった。

「あれ、始がこっちにいるの珍しいな?」

 プロセラの共有ルームにグラビのリーダーである始が一人きりでいるのは珍しい。大体彼がこちらにいる場合、白の魔王様が放っておくはずがないのだ。
 そんな海の考えを読んだのか、始はその答えを口にした。

「郁の勉強を見てたんだよ。どうしても分からないところがあったらしくてな」
「それでわざわざこっちに?」
「グラビの方は葵と夜が料理をしていて、あまり気を遣わせたくなかったんだ」
「なるほど」

 年下に甘い始らしい理由に、海はくすりと笑った。
 しかし、海にはまだ気になることがあった。共有ルームに郁の姿はない。海の記憶が正しければ郁は生放送のラジオのためにラジオ局に向かっている頃のはず。
 では何故、始はまだここに居るのだろうか。海がその疑問を投げかけると、始は軽く微笑んで自身の膝の上へと視線を落とした。

「こいつが、気持ちよさそうに寝ているから」
「あぁ、お嬢か。気づかなかった」

 海の立っている場所からは確認しづらいが、少し移動すると始の膝の上に白く小さな体が丸まっているのが見える。
 始は年下だけでなく動物にも甘い。海はまたくすっと笑った。

「ほんと、お嬢気持ちよさそうだな~」

 海は始に近づき、その膝の上で気持ちよさそうに眠る白田を優しく撫でる。
 海に触れられても白田は全く起きる様子はない。

「始といえば黒田のイメージがあるから、お嬢との組み合わせは意外かも」
「そうか?」
「うん。でも、なんかいいな」

 海は白田から始の顔へと視線を移して穏やかに微笑む。

「始と白田、可愛い」

 いつものおおらかに笑うのとは違う、気の抜けた海の笑顔に始は危うく立ち上がって抱きしめそうになった。
 膝の上のお姫様のことを思い、何とかとどまった始は出来るだけ体を動かさないように海の方へ手を伸ばす。

「始?」
「……本当に、お前は……」

 始がソファに座り、海は白田に合わせて姿勢を低くしているから、海の頭の位置は始より低い。
 そんな海の髪に触れ、始は髪から輪郭へと指をなぞっていく。
 上半身を乗り出す形になっているせいか、徐々に始の服が白田の耳に近づく。ちらりと服が掠めた瞬間、文字通り脱兎のごとく白田は始の膝の上から去っていった。

「あっ、お嬢逃げちゃった」
「海」
「は、はい」
「俺に集中しろ」

 海の顎に手をかけ、キスをする。唇が触れるだけの軽いキスだったが、海は頬を赤くさせた。

「……お前の方が可愛い」
「え?」
「ほら、俺の部屋に行くぞ海」
「あ、え、ちょっ」

 海を立たせて先に進む始に、慌てて海も付いて行く。
 この先は……誰も知らない、二人だけの時間だ。
1/1ページ
スキ