17日目:ずるいのはどっちだ(黒海)
海がそれを見つけたのは、恐らく偶然だ。
新曲を同時に発売するSix GravityとProcellarumの年長組と呼ばれる、始と春、隼と海、そして四人の対談というしっかりとした特集記事を音楽雑誌が組んでくれ、今日はその撮影と取材だ。海は隼との撮影を終えたところで、二人で他愛も無い会話をしながら控室へと戻るところだった。
そしてここには他のメンバーが学校もしくはオフだからか、珍しくマネズが二人揃って撮影の方に来ていた。
「あれ、大と奏だね」
隣に居る隼がぽつりと呟く。海にもその姿は見えていた。
隼と海の視界に映る二人は、何の話をしているのか楽し気に笑っていた。どうやらこちらには気づいていないらしい。
ライバルユニットのマネージャー同士ではあるが、黒月と月城は仲がいい。歳も近いし同業者で、目指しているところは一緒なのだから、ライバルと言うよりは戦友という感じなのだろう。
「……海」
「何だ」
「顔、怖いよ。間違っても他の人には見せられないね」
くすりと隼は笑った。そして、足がすくんでそれ以上動けない海に付き合ってくれている。
「違うって、分かってるんだけどな」
「仕方がない事なんじゃないかな。それが好きって事だと思うよ」
あぁ、そうかもしれない。隼の言葉は時々海に冷静さをもたらしてくれる。
海がマネージャーである黒月と恋人関係にあることは、ほとんどの人間が知らないことだ。黒月がどこまで話しているのか知らないが、少なくとも海は隼にしか伝えていない。
もしかしたら月城も知らないのだろうか。ならばあれだけ距離が近くても特に何も思わないだろう。
握りこぶしに力が入る。その感情は間違いなく“嫉妬”だ。
「なぁ、隼」
「うん?」
「手伝ってくれないか」
海の言っている意味を理解した隼は困ったように笑う。
しかし断ることはせずに、隼は海の腰に手を回した。そして自らの方に引き寄せ、未だ気づかない二人に近づく。
「やぁ、楽しそうだね」
あろうことか自ら声をかける隼に、海は何も言わずに二人の反応を見た。
一瞬驚いた表情をした月城は、すぐに笑って「お疲れ様です」と返事をする。
海が見たかった黒月の反応は無だ。無表情のまま、隼と海を見つめている。
「お疲れさん。対談までまだ少し時間があるから、ゆっくりして来い」
そう言った後に笑う黒月の姿は、完璧なマネージャーだ。いつだって黒月は海より大人な対応をする。
残念に思う気持ちを隠して、二人の横を通り過ぎる。控室に入るとすぐに隼は海から離れた。もう偽る必要はない。
つい出そうになるため息を飲み込み、海は置きっぱなしにしていた携帯電話のボタンを押す。
そこには新規メッセージの通知が一件、しかも一分前だ。海が慣れた手つきでメッセージアプリを開くと、さっき顔を合わせたはずの恋人からだった。
『今日、家に来い』
あぁ、なんてことだろう。思わず海の口元は緩む。
たった一言だけで海の気持ちをこんなに上げられるのはきっと黒月だけだ。
「隼! 上手くいった!」
「……そう。それはよかった」
隼は微笑んで、備え付けのお菓子に手を伸ばす。そのお菓子を口に含む前に、先程の見返りを求めるように海に「紅茶を買ってきてくれないかな?」と魔王らしくお願いをしたのだった。
*****
仕事を終えて、海は黒月と一緒に寮ではなく黒月の家に向かった。
玄関に入ってすぐ黒月に引っ張られた海は、そのまま寝室まで行きベッドに押し倒される。
「海」
「大さん、どうしたんですか」
海は二人きりの時だけ、黒月の事を名前で呼ぶ。もっと言えば、それが二人の恋人モードの合図だ。
「お前な、俺をどんだけ慌てさせるつもりだよ」
「慌ててるように見えませんでしたけど」
「心の中はすっごい荒れてたんだよ。大人だから我慢したけど」
そう言って黒月は海の唇に噛みつくようにキスをした。
隼に腰に手を回す、というのをしてもらってから海はずっとわざとらしく隼との距離感を縮めていた。もちろん、黒月の前でだけだが。
もっと見てほしい。もっと意識してほしい。そんな風に海は黒月を無言で煽っていた。
その結果が今のキスなら海の希望は概ね叶った。
「……っ、大人はずるいですね」
唇を離した海は、くすりと笑った。唇は先程のキスで、妖艶に艶めいている。
黒月はごくりと唾を飲み込んだ。まだまだ子供だと思ってた男が、大人の色気で黒月を振り回している。
それに飲み込まれないように、黒月も余裕のあるように笑ってみせた。
「ずるいのは、どっちだよ」
吐き捨てるように言って、黒月はまた海の唇に自らの唇を重ねた。
新曲を同時に発売するSix GravityとProcellarumの年長組と呼ばれる、始と春、隼と海、そして四人の対談というしっかりとした特集記事を音楽雑誌が組んでくれ、今日はその撮影と取材だ。海は隼との撮影を終えたところで、二人で他愛も無い会話をしながら控室へと戻るところだった。
そしてここには他のメンバーが学校もしくはオフだからか、珍しくマネズが二人揃って撮影の方に来ていた。
「あれ、大と奏だね」
隣に居る隼がぽつりと呟く。海にもその姿は見えていた。
隼と海の視界に映る二人は、何の話をしているのか楽し気に笑っていた。どうやらこちらには気づいていないらしい。
ライバルユニットのマネージャー同士ではあるが、黒月と月城は仲がいい。歳も近いし同業者で、目指しているところは一緒なのだから、ライバルと言うよりは戦友という感じなのだろう。
「……海」
「何だ」
「顔、怖いよ。間違っても他の人には見せられないね」
くすりと隼は笑った。そして、足がすくんでそれ以上動けない海に付き合ってくれている。
「違うって、分かってるんだけどな」
「仕方がない事なんじゃないかな。それが好きって事だと思うよ」
あぁ、そうかもしれない。隼の言葉は時々海に冷静さをもたらしてくれる。
海がマネージャーである黒月と恋人関係にあることは、ほとんどの人間が知らないことだ。黒月がどこまで話しているのか知らないが、少なくとも海は隼にしか伝えていない。
もしかしたら月城も知らないのだろうか。ならばあれだけ距離が近くても特に何も思わないだろう。
握りこぶしに力が入る。その感情は間違いなく“嫉妬”だ。
「なぁ、隼」
「うん?」
「手伝ってくれないか」
海の言っている意味を理解した隼は困ったように笑う。
しかし断ることはせずに、隼は海の腰に手を回した。そして自らの方に引き寄せ、未だ気づかない二人に近づく。
「やぁ、楽しそうだね」
あろうことか自ら声をかける隼に、海は何も言わずに二人の反応を見た。
一瞬驚いた表情をした月城は、すぐに笑って「お疲れ様です」と返事をする。
海が見たかった黒月の反応は無だ。無表情のまま、隼と海を見つめている。
「お疲れさん。対談までまだ少し時間があるから、ゆっくりして来い」
そう言った後に笑う黒月の姿は、完璧なマネージャーだ。いつだって黒月は海より大人な対応をする。
残念に思う気持ちを隠して、二人の横を通り過ぎる。控室に入るとすぐに隼は海から離れた。もう偽る必要はない。
つい出そうになるため息を飲み込み、海は置きっぱなしにしていた携帯電話のボタンを押す。
そこには新規メッセージの通知が一件、しかも一分前だ。海が慣れた手つきでメッセージアプリを開くと、さっき顔を合わせたはずの恋人からだった。
『今日、家に来い』
あぁ、なんてことだろう。思わず海の口元は緩む。
たった一言だけで海の気持ちをこんなに上げられるのはきっと黒月だけだ。
「隼! 上手くいった!」
「……そう。それはよかった」
隼は微笑んで、備え付けのお菓子に手を伸ばす。そのお菓子を口に含む前に、先程の見返りを求めるように海に「紅茶を買ってきてくれないかな?」と魔王らしくお願いをしたのだった。
*****
仕事を終えて、海は黒月と一緒に寮ではなく黒月の家に向かった。
玄関に入ってすぐ黒月に引っ張られた海は、そのまま寝室まで行きベッドに押し倒される。
「海」
「大さん、どうしたんですか」
海は二人きりの時だけ、黒月の事を名前で呼ぶ。もっと言えば、それが二人の恋人モードの合図だ。
「お前な、俺をどんだけ慌てさせるつもりだよ」
「慌ててるように見えませんでしたけど」
「心の中はすっごい荒れてたんだよ。大人だから我慢したけど」
そう言って黒月は海の唇に噛みつくようにキスをした。
隼に腰に手を回す、というのをしてもらってから海はずっとわざとらしく隼との距離感を縮めていた。もちろん、黒月の前でだけだが。
もっと見てほしい。もっと意識してほしい。そんな風に海は黒月を無言で煽っていた。
その結果が今のキスなら海の希望は概ね叶った。
「……っ、大人はずるいですね」
唇を離した海は、くすりと笑った。唇は先程のキスで、妖艶に艶めいている。
黒月はごくりと唾を飲み込んだ。まだまだ子供だと思ってた男が、大人の色気で黒月を振り回している。
それに飲み込まれないように、黒月も余裕のあるように笑ってみせた。
「ずるいのは、どっちだよ」
吐き捨てるように言って、黒月はまた海の唇に自らの唇を重ねた。