27日目:その口で何人の女を口説いたの?(陽海)
知る人ぞ知る高級バーで、女が一人カクテルを飲んでいる。真っ赤な爪に隙のない化粧、美しく着飾った姿はどことなく軽薄そうな印象を与える。
陽は軽く口角を上げ、女に近づいた。
「こんばんは、お姉さん」
声をかけられた女は陽の方へ振り向く。瞬間女の目が欲情で染まった。
「隣、いい?」
「……ええ、どうぞ」
陽は女の隣に座り、カクテルを注文する。
バーテンダーが仕事に取り掛かったのを確認してから、ふぅと小さくため息をつき女の方を見た。
「お姉さんは一人? 綺麗だからつい声かけちゃったんだけど」
「一人よ、ドタキャンされちゃって。貴方は?」
「俺も。フラれちゃったんだ」
悲しそうに笑う陽に、女は同調したのか眉尻をさげた。
陽は机の上に置かれている女の手に自分の手を重ねる。そして、縋るような目で彼女を見つめた。
「よかったら、今夜俺を慰めてくれない……?」
少し斜め下から泣きそうな目で女を見る陽は、念押しで「ダメかな……?」と問う。
女が縦に首を振るのに、そこまで時間はかからなかった。
*****
「あ~海、あいつ黒だったよ。ばっちり証拠もゲットしたから」
『そうか、お疲れさん。……帰ってきたら、ご褒美だな』
「マジ? やった、すぐ帰る」
電話代わりの通信機を切って、陽は上着を羽織る。ベッドの上では着飾ったものを全て剥がされて眠る醜い女の姿があった。
この部屋にもう陽の痕跡はない。髪の毛の一本も落ちてはいない。
陽は女を一瞥して、興味なさげに部屋を出て行った。
陽が家に戻ると、ちょうど幼馴染が自室から出てくるところだった。鉢合わせした陽に、顔を顰める姿はあまり可愛げが無い。
「お帰り、陽。すっごい香水臭いよ」
「ただいま、夜。俺が香水臭いのは仕事を頑張った勲章みたいなもんだから」
「はいはい。……海さんなら部屋にいると思うよ」
「サンキュー」
何も言わずとも陽の考えていることが分かる夜に感謝しながら、陽は廊下をずんずんと進んでいく。
一番奥から一つ手前の部屋、そこがチームのナンバーツー、ボスの右腕の男の部屋だ。
陽は三回ノックをして、間髪入れずにその扉を開けた。
「おかえり」
「ただいま」
資料らしきものに目を通す海に陽は遠慮することなく近づく。そして座っている海の背後から海を抱きしめた。
「海、ご褒美ちょうだい」
「ああ。そうだな」
紙をめくる手を止め、器用に後ろを向いた海は陽の頭へと手を伸ばす。
海の指が陽の赤い髪の毛をすり抜けていく。
「いいこ、いいこ」
完全に子ども扱いだが、不思議と陽は嫌悪感を抱いてはいなかった。だが、陽が欲しかったのはこれではない。
拗ねたように唇を尖らせた陽は、さらに海に密着し海の耳元へと自分の顔を寄せた。
「俺は、海が欲しいんだけど」
言葉の最後に陽は海の耳に息を吹きかける。海はくすぐったそうに身をよじらせた。
「それで、何人の女を口説いたんだ?」
「こんなこと言うの、海だけだし」
そう言って陽は海の頬に口づけた。
海はくすりと妖艶に笑い、先程の陽と同じように陽の耳元へと顔を近づける。
「俺を好きにしていいよ」
気づけば海の体はベッドの上へと投げ出されていた。海の上ではぎらついた目をした陽が舌なめずりをしている。その姿はさながら飢えた狼のようだ。
今にも噛みつかんとする陽は、海へ顔を近づけ大きく息を吐く。
「お前こそ、どんだけの男誘惑してんだよ」
「ははっ。こんな風に煽るのは陽だけだぞ」
海の言葉に満足そうに笑った陽は、噛みつくように海の唇に自分の唇を重ねた。
陽は軽く口角を上げ、女に近づいた。
「こんばんは、お姉さん」
声をかけられた女は陽の方へ振り向く。瞬間女の目が欲情で染まった。
「隣、いい?」
「……ええ、どうぞ」
陽は女の隣に座り、カクテルを注文する。
バーテンダーが仕事に取り掛かったのを確認してから、ふぅと小さくため息をつき女の方を見た。
「お姉さんは一人? 綺麗だからつい声かけちゃったんだけど」
「一人よ、ドタキャンされちゃって。貴方は?」
「俺も。フラれちゃったんだ」
悲しそうに笑う陽に、女は同調したのか眉尻をさげた。
陽は机の上に置かれている女の手に自分の手を重ねる。そして、縋るような目で彼女を見つめた。
「よかったら、今夜俺を慰めてくれない……?」
少し斜め下から泣きそうな目で女を見る陽は、念押しで「ダメかな……?」と問う。
女が縦に首を振るのに、そこまで時間はかからなかった。
*****
「あ~海、あいつ黒だったよ。ばっちり証拠もゲットしたから」
『そうか、お疲れさん。……帰ってきたら、ご褒美だな』
「マジ? やった、すぐ帰る」
電話代わりの通信機を切って、陽は上着を羽織る。ベッドの上では着飾ったものを全て剥がされて眠る醜い女の姿があった。
この部屋にもう陽の痕跡はない。髪の毛の一本も落ちてはいない。
陽は女を一瞥して、興味なさげに部屋を出て行った。
陽が家に戻ると、ちょうど幼馴染が自室から出てくるところだった。鉢合わせした陽に、顔を顰める姿はあまり可愛げが無い。
「お帰り、陽。すっごい香水臭いよ」
「ただいま、夜。俺が香水臭いのは仕事を頑張った勲章みたいなもんだから」
「はいはい。……海さんなら部屋にいると思うよ」
「サンキュー」
何も言わずとも陽の考えていることが分かる夜に感謝しながら、陽は廊下をずんずんと進んでいく。
一番奥から一つ手前の部屋、そこがチームのナンバーツー、ボスの右腕の男の部屋だ。
陽は三回ノックをして、間髪入れずにその扉を開けた。
「おかえり」
「ただいま」
資料らしきものに目を通す海に陽は遠慮することなく近づく。そして座っている海の背後から海を抱きしめた。
「海、ご褒美ちょうだい」
「ああ。そうだな」
紙をめくる手を止め、器用に後ろを向いた海は陽の頭へと手を伸ばす。
海の指が陽の赤い髪の毛をすり抜けていく。
「いいこ、いいこ」
完全に子ども扱いだが、不思議と陽は嫌悪感を抱いてはいなかった。だが、陽が欲しかったのはこれではない。
拗ねたように唇を尖らせた陽は、さらに海に密着し海の耳元へと自分の顔を寄せた。
「俺は、海が欲しいんだけど」
言葉の最後に陽は海の耳に息を吹きかける。海はくすぐったそうに身をよじらせた。
「それで、何人の女を口説いたんだ?」
「こんなこと言うの、海だけだし」
そう言って陽は海の頬に口づけた。
海はくすりと妖艶に笑い、先程の陽と同じように陽の耳元へと顔を近づける。
「俺を好きにしていいよ」
気づけば海の体はベッドの上へと投げ出されていた。海の上ではぎらついた目をした陽が舌なめずりをしている。その姿はさながら飢えた狼のようだ。
今にも噛みつかんとする陽は、海へ顔を近づけ大きく息を吐く。
「お前こそ、どんだけの男誘惑してんだよ」
「ははっ。こんな風に煽るのは陽だけだぞ」
海の言葉に満足そうに笑った陽は、噛みつくように海の唇に自分の唇を重ねた。