15日目:ほら、早く言わなくていいの?(隼海)

 7月15日、海の誕生日。
 皆で誕生日パーティーをして、残る時間はあとわずか。
 ようやく解散になってすぐ、隼は今日の主役の腕を引っ張った。他のメンバーはあえてそのことにふれないように、それぞれが片付けや会話をしている。
 年長二人を優しく見守ってくれる年下組に感謝しながら、共有ルームを抜け出し隼の部屋へと向かう。

「隼、何かあるのか?」
「ふふふ、内緒」

 部屋の扉を開け、隼が先に入り続けて海も部屋に入った。
 何か仕掛けがあるのかと海は部屋を見渡すが、いつも通りの隼の部屋だ。
 きょろきょろとする海を見て、隼はくすりと笑いながら海の顔を真っすぐ捉えた。

「改めて、お誕生日おめでとう、海」
「おう、サンキュー」
「あと少しだけど、海を独り占めさせてね」

 隼の言葉に、海は照れたように笑う。
 それから、いつものように二人で大きなソファに座った。しかし、すぐに隼はまた立ち上がり、海の目の前に立つ。

「海」
「うん?」
「君にプレゼントがあるんだ」
「プレゼントなら、さっき貰ったけど……?」
「僕がそれだけで終わると思った?」

 そう言って笑う隼の笑顔は何か企んでいる時の表情だった。これ以上何があるのかと身構える海の前に隼は跪く。

「え……? 隼?」

 突然のことに戸惑う海の目の前で、隼は俯かせていた顔をあげる。
 にこりと笑って、どこからか小さな箱を取り出し、掌の上に載せた。

「開けてみて」

 言われるがまま海はその箱を開く。その中にはシルバーリングが一つ、きらりと輝いていた。

「隼、これ……」
「僕と結婚してくれませんか?」

 日本の法律じゃ出来ないだろうとか、こんなタイミングでどうしてプロポーズなのかとか、海の頭の中にはぐるぐると隼へのツッコミがめぐっている。
 けれども、それ以上に素直な気持ちが海の口をついて出た。

「俺で、いいの?」
「もちろん」

 隼は指輪を箱から出して、海の薬指にはめる。
 サイズを合わせた指輪は引っかかることなく、海の薬指に収まる。シルバーリングの中心には青い宝石が埋め込まれていた。

「ねぇ、海の口からちゃんと返事が聞きたいんだけどなぁ」

 こんな時でも、隼は余裕の表情だ。サプライズを仕掛けた側だからだろうか。海の思考はそんな風に混乱していた。
 自分の指にはめられた指輪を、海は右手でなぞる。

「……隼」
「うん」
「ずっと、俺のそばにいてください」

 それは、言われっぱなしは悔しいと思った、海なりの逆プロポーズだった。
 海の言葉を聞いた隼は一瞬目を丸くした後、唐突に笑いだす。

「あ~本当海は最高だね」

 隼は立ち上がって海に抱きつく。衝撃で、海はよろめきソファの空いている方に倒れこんだ。

「ちょ、隼。びっくりするだろ」
「それはこっちの台詞だよ。海にプロポーズされるなんて」
「先にしたのはお前だからな」

 二人で目を合わせ、楽しそうにくすくすと笑う。時間はもう0時を過ぎていた。
 仕事は午後から、ならばもう少し二人でいられる。
 ソファから起き上がりそのままベッドに二人してなだれ込んだ。ふかふかのベッドは成人男性二人でも優しく包み込んでくれる。

「海、早く言わなくていいの?」
「言わせたいだけだろ、それ」
「だって、海の口から聞きたいんだもん」

 にやにやと笑う隼に海は小さくため息をつく。しかし、その表情から嫌がってないのは明らかだった。
 海は腕を隼の方へ伸ばして、微笑む。

「隼を俺にちょーだい」

 それはもう少し続く、二人だけの誕生日パーティーの合図だ。
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