14日目:変化球は得意じゃないんだ(陽海)

 海がロケから帰ってきた。
 三日ぶりとはいえ、プロセラが久しぶりに6人揃った食卓はとても楽しかったし、海の土産話も面白かった。
 ただ、その内容があまり入ってこなかったのは、三日前の自分がたてた誓いのせいだ。

「っはぁ~」

 一人、部屋に戻って盛大なため息をつく。こんな時に限ってマゼランは俺の部屋にいなかった。
 誰か話を聞いてほしいが、そもそも相談できるような内容でもない。
 今のところ唯一知っているのは新だが、あいつに借りを作るのは癪だ。

「あーなんで俺あんなこと言っちゃったんだろ」

 覚悟しといて、なんて自分の覚悟すらできてないくせに。
 自分の人生を顧みれば、今まで告白なんてしてきたことが無かった。気になる女の子からは向こうから告白してくれたし、軽いノリで「付き合っちゃう?」って言えば向こうは大概頷いてくれた。
 だから、こんな風に悩んだことなど初めての経験なのだ。

「誰か、助けてくれねーかな……」

 他力本願を口にして、机の上に突っ伏する。
 ぐだぐだと悩む俺の耳に、部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。

「っと、はいは~い」

 がちゃりと扉を開けば、そこにはずっと頭の中を占めていた人の姿。

「よっ」
「……海」
「入ってもいいか?」

 海は笑顔で問いかけてくる。俺は頷いて、彼を部屋に通した。
 あぁ、やっぱりマゼランを連れてくればよかったかも。今海と二人きりなのは非常にまずい。

「海、どうしたんだ? こんな時間に」
「どうした、って……お前だろ? なんか俺に言うことがあるって言ってなかったか」

 頭のどこかで、海が忘れていることに賭けてたが、やはりそんなことはなかった。
 どう返せばいいのだろう。ぐるぐる考える頭は答えを出せないでいる。

「陽?」

 首を傾げる海の姿を見て、可愛いなんて思ってしまう自分を心の中で殴りつけながら、へらりと作り笑いをする。

「とりあえず、座りなよ」

 何も思いついていないが、自分を落ち着けさせるため冷蔵庫からお茶を取り出す。
 グラスに注いで海の前にも出すと、すぐに海は口をつけた。
 薄い唇からお茶が流れ込み、喉を通っていく、それすら官能的に見えるなんて、自分は末期なのだろうか。
 と、お茶を飲んだ海がにやりとこちらを見て笑う。

「陽、見すぎ」

 何を、とは言えなかった。
 海といえば、いつも明るく笑っていて。今みたいな妖艶な笑みを浮かべることが出来るなんて知らなかった。
 ますます、彼にはまってしまう。

「なぁ、覚悟してるから早く言ってほしいんだが」

 2歳年上の彼は、どうやら俺が思っているほど鈍感ではないらしい。
 ごくり、緊張でつばを飲み込む。心臓の音がうるさくて、海の声以外何も聞こえない。

「あのさ、」
「うん」
「っ、と」

 口から心臓が飛び出てしまいそうだ。さっきお茶を飲んだばかりなのに、もう口の中がからからに乾いている。
 体中で緊張を表している俺に、海は優しい顔で微笑む。

「陽、俺変化球は得意じゃないんだ。だから、直球で頼む」

 あぁ、本当敵わない。

「っ、好き。俺、海のこと好きなんだ」
「ああ」

 やっと言ってくれた、なんて言って笑う海は、今まで見た表情の中で一番綺麗だった。
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