12日目:絡んだ糸は解けてしまった(プロセラ海)
生きていく上で、タイミングというものは実に重要なものである。
海はそのことを今ひしひしと実感していた。
「どうすっかな……」
一人、部屋の中で頭をかきながら呟く。海の悩みを聞いてくれるのは部屋の傍らにある青いウサギのぬいぐるみだけだ。
というのも、今海の頭を悩ませている事情は、誰かに話せるような代物ではなかった。
海は現在絶頂のモテ期が来ていた。この数日で同時に五人から告白されたのである。
それだけなら、海をここまで悩ませたりはしない。問題はその相手だ。
最初に告白してきたのは、同じグループのメンバーである郁だ。
その次は陽。陽に告白されたその日中に夜にも告白された。
その次が涙。そして、今日。
まさかと思っていたが、リーダーの隼からも告白されてしまった。
アイドルという職業柄、誰かから告白されてもその思いに応えるつもりは無かったが、相手もアイドルでしかも同じグループなら、きちんと誠意をもって返事をしないと後で気まずくなってしまう。
「や、そもそも告白断る時点で気まずいんだけどな……」
自分で自分にツッコミを入れるが、誰も聞いていないからただ空しいだけだった。
一番初めの郁に告白されたとき、海はドッキリだと思って騙されたフリをした。そして後にカメラらしいものを探したが、残念ながら見つからなかった。
それから怒涛の告白ラッシュで海はカメラを探す気力を失ってしまった。
これが何かの企画なのか、それとも本当に偶然タイミングが重なったのか海には分からない。出来れば前者であってほしいと強く思っている。
「あーでもなんだって俺なんだよ」
そもそもアイドルに告白ドッキリなんて仕掛ける企画があるのだろうか。しかも同性に。
「無いよなぁ、やっぱ」
とすれば、認めるのは怖いが偶然の可能性の方が高そうだ。海は今日何度目かのため息を大きくついた。
何もプロセラのメンバーのことが嫌いなわけでは無い。むしろ大好きだし、これから先どれほどアイドルを続けられるか分からないが、何があってもこのメンバーで走り抜けたいと思っている。
けれども、それはあくまで仲間としての話。恋愛としての好意を向けられるなんて思ってもみなかった。
「何で……皆同じだと思ってたんだけどな……」
六人の見ている方向は一緒だと海はこの間まで信じて疑わなかった。でも今、分かったのは海だけがそう思ってたということだ。
他の五人は、それぞれが海に告白をしたことを恐らく知らない。
きっと、海が何も言わなければこれからも知らないままだろう。それならば、
「仕方、ないよな」
本当はその選択だけはしたくなかった。でもこのままでは、海が大切にしていた場所はぐちゃぐちゃになってしまう。
吐きそうになる気持ちを抑え、携帯電話の画面に触れた。
「っは」
カーテンの間から微かに太陽の光が差し込む。汗でべたべたの手で携帯電話の電源を入れると、アラームをかけた時間より少し早い時間が表示されていた。
「夢、か」
海は自分の手を見つめ、握ったり開いたりを何度か繰り返す。感覚は本物だった。
先ほどまで見ていた夢は、お世辞にもいいものとは言えなかった。誰も幸せにならない、海自身もつらい夢だ。
だからこそ、夢であったことにひどく安堵した。
「ま、あんなこと現実であるわけないか」
海は笑って、ベッドから起き上がる。せっかく早起きしたのだから、少しぐらいランニングするのもいいだろう。
そう思い部屋から出て階段を下りると、ランニング帰りの郁と遭遇した。郁は海を見つけ、嬉しそうに笑っている。
「おはようございます、海さん」
「おはよう」
郁はいつも通りのさわやかな笑顔だ。
だが、海の心臓はドキドキとうるさく高鳴る。先程見ていた夢を引きずっているようだ。
いつもと違う様子の海を不審に思ったのか、郁は首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「え? あ、いや、なんでもないぞ。俺も走ってこようかな」
「いいですね。あ、俺も少し付き合いましょうか?」
「いいよ。お前今帰ってきたとこだろ?」
海は笑顔を取り繕って郁の前から去ろうとする。何故か、これ以上郁の顔を見ていると危険な気がしたのだ。
すれ違う瞬間、郁は海の腕を掴む。その手は郁に似合わず、とても冷たかった。
「海さん」
郁の声に、海の見ていた夢がフラッシュバックする。
確か夢の中の郁はこんな声で海を呼んでいた。そしてその続きの言葉を海は知っている。
「好きです」
これは、悪夢のはじまりだ。
海はそのことを今ひしひしと実感していた。
「どうすっかな……」
一人、部屋の中で頭をかきながら呟く。海の悩みを聞いてくれるのは部屋の傍らにある青いウサギのぬいぐるみだけだ。
というのも、今海の頭を悩ませている事情は、誰かに話せるような代物ではなかった。
海は現在絶頂のモテ期が来ていた。この数日で同時に五人から告白されたのである。
それだけなら、海をここまで悩ませたりはしない。問題はその相手だ。
最初に告白してきたのは、同じグループのメンバーである郁だ。
その次は陽。陽に告白されたその日中に夜にも告白された。
その次が涙。そして、今日。
まさかと思っていたが、リーダーの隼からも告白されてしまった。
アイドルという職業柄、誰かから告白されてもその思いに応えるつもりは無かったが、相手もアイドルでしかも同じグループなら、きちんと誠意をもって返事をしないと後で気まずくなってしまう。
「や、そもそも告白断る時点で気まずいんだけどな……」
自分で自分にツッコミを入れるが、誰も聞いていないからただ空しいだけだった。
一番初めの郁に告白されたとき、海はドッキリだと思って騙されたフリをした。そして後にカメラらしいものを探したが、残念ながら見つからなかった。
それから怒涛の告白ラッシュで海はカメラを探す気力を失ってしまった。
これが何かの企画なのか、それとも本当に偶然タイミングが重なったのか海には分からない。出来れば前者であってほしいと強く思っている。
「あーでもなんだって俺なんだよ」
そもそもアイドルに告白ドッキリなんて仕掛ける企画があるのだろうか。しかも同性に。
「無いよなぁ、やっぱ」
とすれば、認めるのは怖いが偶然の可能性の方が高そうだ。海は今日何度目かのため息を大きくついた。
何もプロセラのメンバーのことが嫌いなわけでは無い。むしろ大好きだし、これから先どれほどアイドルを続けられるか分からないが、何があってもこのメンバーで走り抜けたいと思っている。
けれども、それはあくまで仲間としての話。恋愛としての好意を向けられるなんて思ってもみなかった。
「何で……皆同じだと思ってたんだけどな……」
六人の見ている方向は一緒だと海はこの間まで信じて疑わなかった。でも今、分かったのは海だけがそう思ってたということだ。
他の五人は、それぞれが海に告白をしたことを恐らく知らない。
きっと、海が何も言わなければこれからも知らないままだろう。それならば、
「仕方、ないよな」
本当はその選択だけはしたくなかった。でもこのままでは、海が大切にしていた場所はぐちゃぐちゃになってしまう。
吐きそうになる気持ちを抑え、携帯電話の画面に触れた。
「っは」
カーテンの間から微かに太陽の光が差し込む。汗でべたべたの手で携帯電話の電源を入れると、アラームをかけた時間より少し早い時間が表示されていた。
「夢、か」
海は自分の手を見つめ、握ったり開いたりを何度か繰り返す。感覚は本物だった。
先ほどまで見ていた夢は、お世辞にもいいものとは言えなかった。誰も幸せにならない、海自身もつらい夢だ。
だからこそ、夢であったことにひどく安堵した。
「ま、あんなこと現実であるわけないか」
海は笑って、ベッドから起き上がる。せっかく早起きしたのだから、少しぐらいランニングするのもいいだろう。
そう思い部屋から出て階段を下りると、ランニング帰りの郁と遭遇した。郁は海を見つけ、嬉しそうに笑っている。
「おはようございます、海さん」
「おはよう」
郁はいつも通りのさわやかな笑顔だ。
だが、海の心臓はドキドキとうるさく高鳴る。先程見ていた夢を引きずっているようだ。
いつもと違う様子の海を不審に思ったのか、郁は首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「え? あ、いや、なんでもないぞ。俺も走ってこようかな」
「いいですね。あ、俺も少し付き合いましょうか?」
「いいよ。お前今帰ってきたとこだろ?」
海は笑顔を取り繕って郁の前から去ろうとする。何故か、これ以上郁の顔を見ていると危険な気がしたのだ。
すれ違う瞬間、郁は海の腕を掴む。その手は郁に似合わず、とても冷たかった。
「海さん」
郁の声に、海の見ていた夢がフラッシュバックする。
確か夢の中の郁はこんな声で海を呼んでいた。そしてその続きの言葉を海は知っている。
「好きです」
これは、悪夢のはじまりだ。