お題
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
それは、蝉の鳴き声が響く真夏の時期………
事件は突然訪れました。
「ねぇちょっと!これりんの彼氏じゃない?」
お昼休み。雪ちゃんと机をくっ付けてお弁当を食べていると、クラスメートのゆんちゃんが慌てた様子でやって来た。
食後のマスカットを食べようとしていた私は、突然目の前に広げられた雑誌にぱちくりと瞬きをする。
『?えと…雑誌?』
「これよこれ!"夏のお洒落ヘアー男子特集"!」
ゆんちゃんが指差したところを見れば、男の人達が様々な髪型で写っていた。
その中でも大きく取り上げられ、一層輝く人がいてー……
『!?し、白石さんだ……っ』
何故か雑誌に載っている白石さんに、驚いてマスカットがポロリと指の隙間から落ちていく。
私が混乱している間に、「えー凄いじゃない!」と雪ちゃんが興味津々に雑誌を手に取った。
雪「白石さんかっこいい〜!りんも見てみなよ!」
『ゆ、雪ちゃん…!』
雪ちゃんにつられるようにその雑誌を見ると、白石さんの髪にはゆるくパーマが掛かり、いつもと違う前髪の分け方をしているようだった。
雪「何々?"センターパートベースで、ゆるいスパイラルパーマで、動きを出したスタイリング"………良くわからないけど兎に角かっこいいことだけはわかるわ」
『(じゅ、呪文?)』
ぐるぐる目を回していると、「いつからヘアモデルやってたのよ??」とゆんちゃんに両肩を掴まれていた。
一番状況を理解していない私は、『へ、へあもでる…』とおうむ返しをすることしか出来ない。
雪「りんだって駅前で良く声掛けられるじゃない。そういうので白石さんもやって貰ったんじゃないの?」
『!そっか……美容師さん』
いつも帰り道は急いでいるから(部活のマネージャーや買い物など)しっかり聞けなかったけれど、美容師さんのカットモデルのお誘いなのかな…?
私は自分を納得させながらもう一度雑誌を見てみると……そこに書かれていた美容室の名前に、ハッとある人を思い浮かべた。
『ゆんちゃんちょっと雑誌借りるね…っ』
「え!りん?」
雪「何処行くの??」
友達の声を背中に受けながら、私は駆け足で中庭に向かった。
***
『赤也先輩!あの雑誌何ですか…!?』
数秒後……私は自分でも驚くほどの大声で、電話で喋っていた。
その相手である赤也先輩は、《落ち着けって!…今度はりんか》と何処か疲れている様子だった。
『?"今度は"って?』
《いや、さっき白石さんからも電話あってさ。もう昼休み中ずーっと責められてたんだよ……》
《だから昼飯食べながらでいい?》とパンの袋を開ける音が聞こえて、私はそれでも聞いてくれるんだ…と思わず微笑んでしまった。
『(は!笑ってる場合じゃない…っ)あの、白石さんが行った美容室って、赤也先輩の行き付けのところですよね?』
前に、白石さんが「切原くんから美容室教えてもらったんやで」と嬉しそうに名刺を見せてくれたことがあった。
雑誌に載っていた店名と同じだったから、赤也先輩が何か知ってるのかと思って。
先輩はもぐもぐと口を動かしながら、《そうそう》と答えた。
《この間、練習試合の帰りに白石さんと美容室行ってさ。そしたらそこの店長がやけに白石さんのこと気に入っちゃって》
『そ、そうなんですね』
《SNSに載せたいってお願いされて、白石さんも顔隠してくれるなら…ってなったんだけどさ、》
『なったんだけど…?』
次の言葉を待っていると、自然とゴクリと喉が鳴る。
冷房の効いた教室から中庭に移動したらじわじわと暑く、汗をかいているのがわかった。
《何かの手違いで雑誌に載る写真と交ざったみたいでー……こんなことに》
『!手違いすぎます…っ!』
ショックのあまり勢い良くツッコミを入れてしまった。
だって、いくら間違いでもこの雑誌に写っている白石さんはあまりにかっこよくて、こんな写真が全国に知れ渡ってしまったら………
『絶対絶対、白石さんのファンが増えちゃう……』
そんなのもう、悲しすぎる。
心の不安を思わず口にしてしまった私は、キーンコーンカーンコーンと電話の向こうで予鈴が鳴ったことに気付いた。
『あの、赤也先輩、お昼休みにありがとうございましたっ』
《え?おいりん…っ》
何か言いたそうだった先輩の言葉を待たずに、プッと通話を切ってしまった。
私はその後の授業が何も頭に残らないほど、雑誌に載った白石さんのことをモヤモヤと考え続けていたのだった。
***
『(タイムセール負けちゃった……)』
今日の夜ご飯は肉入り夏野菜カレーにしようとしていたのに、お肉のタイムセール争奪戦に負けてしまった。
おもちゃのように何度も弾き飛ばされてしまった私の格好はボロボロで、『うう…』と悔しさから瞳に涙が溜まっていく。
スーパーの袋を持ちながら家路に向かっていると、鞄の中で携帯のバイブが鳴った。
私は赤也先輩かな?と思ってそれを取り出した瞬間、驚いて落としそうになった。
『(……白石さんっ)』
表示された名前を見ただけで、心臓がドキドキとうるさい。
私は『すーはーっ』と深呼吸してから、じわじわと熱くなっていく体温を感じながら電話に出た。
『も、もしもし』
《あ、りんちゃん?今大丈夫か?》
『大丈夫です!』と元気良く答えてしまうと、《良かった》とクスクス笑う白石さん。
『……あの雑誌』《……あの雑誌のことなんやけど》
声が重なってしまい、お互いの"え?"と驚く反応さえも同じで。
『ど、どうぞ…』と即座に譲ると、白石さんのコホンッと緊張した咳払いが聞こえた。
《その……さっき切原くんから、りんちゃんが雑誌見て怒ってたって聞いて》
『ふぇ!?』
何処かしょんぼりした白石さんの声音に、私は慌てて首を横に振った。
『えと、怒ってるというか………落ち込んでます』
《落ち込んで…》と白石さんは納得したように呟いてから、《なぁ、ビデオ通話にしてええ?》と提案する。
普段なら恥ずかしくて断ってしまう私だけど、今は何だか白石さんの顔が見たくて、『…はい』と頷いていた。
すぐにパッと携帯画面にその姿が映ると、きゅう…と胸が締め付けられた気がした。
『わ、私………』
《うん》
『雑誌に載ってる白石さんを見た時、すごくかっこいいなって思ったんですけど、ずっとモヤモヤしてて、』
こんな醜い気持ちを知られたら、嫌われてしまうかもしれない。
それでも、私を真剣に見つめる白石さんの表情と雑誌の白石さんの表情が重なって見えて、どうしようもなくて。
『……っ白石さんのあの顔は、私だけが知ってたかったんです………』
テニスをしてる時の真剣な顔付きとは、また違う。
何処か熱を含んだ瞳を向けて、気付いたら距離が縮まっていて、余裕がなさそうで。
それでも精一杯優しくしようとしてくれて。
『りんちゃん』って少し低い甘い声で囁いてくれる。
『他の子が知るのは………………………………やだ』
ぎゅっと目を瞑りながら我儘な本音を伝えてしまった。
私は白石さんの顔を見るのが怖くて、ゆっくり画面に視線を戻すと………暫く放心していた白石さんは、ドゴォ!と突然自分の頬を殴り出した。
『えええ!白石さん!?』
《…………………っっ堪忍な………己の汚れた欲望に打ち勝つ為に活を入れ直したわ………》
『ど、どーして活を?』
《くぅ…》と苦しそうに胸に手を当てながらもまた頬を殴ろうとするから、『白石さん…っ』と慌てて呼び止めた。
《あの写真撮られた時な…………りんちゃんのこと考えてたんや》
『え?』
私のこと…?と首を傾げる私を、何処か恥ずかしそうに見据える白石さん。
《何や"色気のある髪型"っちゅーのがテーマやったらしくて、店長さんにもっと彼女を想うようにって言われて、》
《そしたらあんな表情になってしもーて…》と話しながら、白石さんは自分の掌で顔を覆っていた。
画面越しでも、その耳元が赤く染まっていることに気付いてしまう。
《っそれをりんちゃん本人に見られたことが、一番恥ずかしいんや………》
その言葉を聞いて、私の顔もカァアアと赤く染まっていった。
私は自分ばかり不安がって嫉妬していたけど、白石さんは私のことだけを考えてくれていた。
『嬉しいです………』
あの表情は、まだ私だけのものって思っていても良いのかな…?
さっきの自分の発言が恥ずかしくて、もう逃げ出したい…ともじもじと赤面していると、《ははっ》と白石さんは楽しそうに笑っていた。
『な、何ですか?』
《いや、俺って…自分が思うよりりんちゃんに好かれとるんやなぁ》
『!?だ、だってあんな写真嫌に決まってます…///』
《うん、ごめんな。俺かてりんちゃんの可愛さが世界中に知られたら嫌やわ》
《日本中でも無理。いや…近所でも絶対アカン。俺以外アカン》とぶつぶつ心配し始める白石さんに、私の膨らんでいた頬は萎んでいく。
嬉しくて思わず微笑んでいると、気付いた白石さんは何故か顔を赤く染めた。
《もー……何で俺ら遠距離なんやろ、》
『??』
《今すぐりんちゃんを抱き締めたくて堪らんのに…………》
《そんで……キスしたい》と苦しそうに呟いた白石さんに、私は驚いて『き…!?』と変な声を上げてしまった。
ボボッと一気に熱くなる頬に手を添えていると、画面越しでも伝わるくらいの熱視線を感じて。
『(どうしよう、どうしよう……)』
こんなに全身を熱くさせて、痛いくらい胸を締め付ける白石さんのこの表情が………私は大好きみたい。
せめてその甘い視線から目を逸らさぬように、私も真っ直ぐに白石さんを見つめ返した。
『……あっそしたら、次に会った時にいつもよりたくさん(キス)するっていうのは、どうでしょう?』
《!!??……………………………ぜひ、そうして下さい…………》
『?はい!』
大胆発言をしたことに気付いていない私は、白石さんが身悶えている理由が良くわからなかった。
『でも…キスの予約って可笑しいですかね?』
《………………っ》
『楽しみが増える気がして……やっぱり、駄目でしょうか…?』
《………も、アカンわ…………可愛すぎてもたへん……………っっ》
そのままバターンという大きな音が聞こえて、『し、白石さんー!?』と画面を通してオロオロするしかない私。
暫くして学校帰りの謙也さん達に無事助けてもらった白石さんは、何故か血だらけだった。(※鼻血です)
その日、私はずっと白石さんのことを心配しながらも、何処か幸せな気持ちで満たされていたのでした。
(やっぱり雑誌は記念に買っておこう)
***
本編の『my darling』の少し前のお話です。
白石さんの髪型はパーマではなく、ゆるくヘアアイロンで巻いただけでした。(なのですぐに戻りました)
赤也と絡ませるのは楽しいですね(∩ˊ꒳ˋ∩)・*
彼が通っている美容室は、「エンジェル」なのか「バーバーモジャ」なのか。。。
6/6ページ