バレンタインの奇跡
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
小「フォンダンショコラ1つ、ティラミス2つに、カブリエル型チョコ1つ~」
『はいっ』
健「こっちはドンドンドド丼1つに、エクスタシーザーサラダ2つや」
謙「りょーかい!」
夜になり、カフェは一層人で溢れていた。
厨房はというと…お菓子系はりんの担当、ご飯系は謙也が担当して回していた。
両方のサポートをしている財前は、りんの作ったケーキを念入りにチェックする。
『どう…?』
財「ん、ええやろ」
『ほんと!?』
普段厳しい幼馴染みの了承を得ると、りんはぱぁあと顔を輝かせた。
小「いやぁん☆厨房が明るくなってええわ~」
健「ほんまにな」
男(一部を除く)だらけのカフェが、りんのお陰で優しくなった気がする。
小春と小石川が一生懸命作る彼女に癒されていると、メニューを抱えた白石が戻ってきた。
小「蔵リンも嬉しいんやないの?可愛い後輩と一緒に働けて」
白「何が?」
小「りんちゃんのことぉ。ほんまにええ子やないの~」
白「せやな」
まるで愛しい者を見つめるような瞳をしているのに、淡々と話す白石に小春は納得がいかず。
「ようお店に来るってことは、好きな人でもいるのかしら」と煽るような疑問を投げ掛けた。
小「誰やろ~?健ちゃんかしらぁ」
健「へ!俺??」
りんをええ子やなと秘かに思っていた小石川は、ドキドキし出す。
だが、「それはありえへんね」と小春にバッサリ訂正されてしまい、「ありえへんのかい!!」と直ぐ様ツッコんだ。
小「やっぱり……光ちゃんかしら」
僅かだが白石の眉がピクリと動いたのを、小春は見逃さなかった。
小「いっつも仲ええし、光ちゃんってクールなのにりんちゃんの前ではよう笑うやん?せやから、やっぱ両想いやと思うわ」
"両想い"
白石は胸の奥がえぐられるような感覚に襲われた。
ガラス越しから厨房を見つめると、チョコレートをかき混ぜながら財前と話しているりんの姿。
教わりながら作っているのだろうか、2人の距離はとても近い。
白「……せやな」
白石はぽつり呟くと、持ち場に戻っていった。
「白石くん、白石くんってば」
ハッと気付いた白石は、グラスにジュースを注いでいたのを慌てて止めた。
どうやら間一髪で、真っ白なテーブルクロスに染みが付くのを防げたみたいだ。
カフェのオープンした当初から来てくれていた女性が、不安そうに見上げてくる。
「体調悪いん?私薬持っとるよ」
白「や、大丈夫です。ぼーっとしとってすみませんでした」
「せやったらええけど…無理せんでね」
社会人でもある彼女は、いつも白石がネーミングした料理を頼んでくれる。
注文をとる時に少し話す位だが、気配りの出来る優しい女性という印象だった。
「今日会社で配った余りなんやけど、良かったら白石くんにもあげるわ」
そう言って、小さなチョコレートの入った包みを取り出す。
白石が断る間もなく、それを腰に巻いたエプロンの中に入れた。
「仕事が終わったら食べて?白石くんが怒られてクビになったら嫌やもん」
ね、と悪戯っぽく笑った女性に、思わず白石も笑みが溢れる。
そのまま他愛ない会話をしていた時、ガシャンと何かが割れる音がした。
小「きゃ、りんちゃん大丈夫!?」
『……あ』
テーブルに飾ってある花の花瓶が、床に落ちて割れていた。
何故か白石を見ていたりんは、小春の声に顔を下に向けて慌てて破片を集め始めた。
『も、申し訳ございません…!』
白「りんちゃん、素手で触ると危ないでっ」
『すみませ……っ!』
ツンとした痛みを感じ、見ると人差し指から血が流れていた。
白「アカン、早よ手当てせな!」
白石はりんの手をとると、有無を言わさず連れ出した。
白「…よし、完了」
カフェの奥にある休憩室で、白石はりんの手当てをしていた。
パイプ椅子に座り、向かい合っていた彼女は指に巻かれた絆創膏を見つめる。
『迷惑掛けてごめんなさい…』
白「いえいえ、りんちゃんが大したことなくてほんまに良かった」
微笑むと、りんは傷付いたような顔をした。
その表情に白石の胸も痛くなり、いつもの花が咲いたような笑顔が見たくなって。
りんの、一番好きな話をしようと思った。
白「…財前、ちゃんと教えてくれてるか?」
ずっと前から知っていた。
自分の好きな人は、別の人を好きだということ。
りんはきょとんと目を丸くさせた後、ふにゃっと力のない笑みを向けた。
『はい。でもひーくん、ケーキ作りになるととっても厳しくって、』
『いっぱい怒られちゃいました』と頬を緩める姿に、白石は思わず瞳を細めた。
これでいい。りんにとって優しい先輩でいられるなら、このままの関係でいい。
白「そろそろ戻ろか」
『は、はい』
2人が席を立とうとした時、お互いのエプロンからぽろっと何かが落ちた。
『っあ…』
赤い色のリボンで可愛らしくラッピングされた包み。
りんは慌ててそれを拾うと、後ろ手に隠しながらそっと白石を見上げた。
『やっぱり、先輩モテるんですね』
また力なく笑うりんに、白石もゆっくり落ちたチョコを拾う。
白「そんなことないで。別に本命がおる子も多いし」
『!そんなことなくないです…!』
さっきとはうって変わって力いっぱい叫ぶりん。
その瞳が余りにも必死なので、白石は何も言えず目を丸くする。
『先輩のことが本当に好きな子は、絶対絶対います!私も……っ』
私も大好きです、と言ってくれるのだろうか。
優しい先輩でいいなんて嘘だ。
誰よりも、一人の男として見て欲しいのに。
白「…本当はな、ずっと、本命の子からチョコ貰いたかったんや」
本命…と聞いて、りんの視線が自分の持つチョコにあることがわかった。
白石はポケットに仕舞うのではなく、拾ったそれを机の上に置く。
白「今も、そのチョコが俺のやったらいいのにって……思ってまう」
自分を真っ直ぐに見つめてくれるりんを、ぎゅっと抱き締めていた。
『せ、先輩!?///』と腕の中でパニックになるりんが離れてしまわないように、強く強く。
白「財前にあげんといて…」
俺だけに。俺だけを。
白「俺は、こんなにりんちゃんを好きやのに」
初めて腕の中におさめた彼女はとても小さくて、自分の鼓動がトクトクと優しい音を奏でていく。
ずっと伝えられなかった年月が嘘のように、すんなり出てくる言葉。
白「俺にちょうだい」
『っし、白石せんぱ』
白「りんちゃんは、俺のこと嫌い?」
『~~…っ///』
精一杯身を縮める姿が可愛くて、離したくなくて。
少し意地悪な質問をしてみると、すぐにふるふると首を横に振ってくれた。
『………っ反対、です』
白「え?」
『だ………だい、すきっ』
…………幻聴?
あまりの衝撃に白石はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
想い人の口から、ずっと聞きたくて望んでいた言葉が聞こえるなんて。
呆然とする白石の腕からするりと抜けたりんは、距離をとってからそっと見上げた。
『私、このチョコ、ずっと白石先輩にあげようと思ってました』
白「……え」
『でも、先輩女の子からたくさん貰ってたから…渡せなくて、』
白「ほんま?」
頭の中がぐるぐる回って、その意味をすぐに理解出来ない。
つまり、つまり、
白「俺のこと好きやったん?」
顔を真っ赤にして、りんはコクリと頷いた。
今までの勘違いは何だったのだろうかと恥ずかしくなり、全身の力が抜けていく。
謙「白石ー!店混んできたで」
謙也の声に反応した2人は、お互いに夢心地のまま歩き出す。
白「(…何や、)」
こんなに簡単なことだったのに。
勝手に勘違いして傷付いて、随分遠回りしてしまった。
白石は店内で接客をしながら、厨房でケーキ作りに励むりんを見つめる。
オーダーを伝えにいった時、自然と目が合う。
恥ずかしそうにはにかむから、白石はたまらずにもう一度抱き締めてしまった。
小「きゃー!蔵リン!?」
小春や女性客の悲鳴が聞こえようとも、財前から冷ややかな視線を向けられようとも、気にならなかった。
ただ、胸の中にすっぽりとおさまった彼女が……愛しくて仕方ない。
『せ、先輩…っ皆見てますっ!///』
白「うん」
『怒られちゃいますよ…!』
白「うん」
何とか脱出しようとしていたりんだが、白石の返答に諦めたのか…やがて大人しくなった。
白「もう我慢せんからな」
毎年、憂鬱だったバレンタインデー。
女の子達の襲撃に合うからではなくて、たった一人の女の子から、チョコレートを貰えなかったから。
白「俺と付き合うてください」
目を閉じながらぎゅっと抱き締めると、遠慮がちに背中に腕が回された。
『……はいっ』
胸の中がぽかぽかと優しい温かさで包まれていく。
白石は黒い縁の眼鏡を外すと、可愛らしく微笑むりんに顔を近付けた。
『あ、あの、白石先輩…?』
慌てて距離をとろうとするりんの腰を引き寄せれば、周りの黄色い声が大きくなる。
すっかり彼女にメロメロな白石は、離す気などなくて……
白「我慢せん言うたやろ?」
『!でも、こ、こんなとこでっ///』
更にぐっと顔を近付ける白石に、りんの顔は沸騰しそうなほど赤く染まっていく。
甘い甘いチョコレートの香りに包まれながら、白石はそっと目を瞑った。
***
この後、無事本命チョコを渡しました。
白石さんはりんちゃん以外のチョコは食べてません。←
りんちゃんは高校のテニス部のマネージャーで、白石と謙也の後輩。
現在、白石→大学1年、謙也→大学1年
財前→高校2年、りんちゃん→高校2年
あとのメンバーは、カフェで働く仲間です。オーナーはオサムちゃん (笑)
白石先輩、ひーくん呼びが新鮮で書いてて楽しかったです(^^)v
長々と読んで頂きありがとうございました*
白石の眼鏡姿、万歳\(^p^)/
おまけ→
