赤ずきんと狼王子
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幕の外では演劇部の出し物を観ようと、広い体育館にたくさんの人が密集していた。
「ねー聞いた?今年の劇の主役はりんちゃんなんだって」
「あの子可愛いもんねー私女だけど、りんちゃんなら付き合いたいもん」
「あは、確かに!寧ろお嫁さんにしたいよ」
前の席に座る女子生徒の会話に、ピクリと眉が動いた者がいた。
白「(…付き合う?俺のりんちゃんと?)」
"俺"のを少し強調し、顔には表れていないものの…全身からゾワッと黒いオーラが漂う。
…さて、白石のこのどす黒いオーラの原因をたどってみよう。
ここに来るまで何人もの女性に逆ナンされたのは今に始まったことではないので、関係ないとする。
広すぎる校舎をさ迷いりんの教室の前にやっとたどり着いて、
運命か偶然か…彼女が目の前にいて。
白「りんちゃん!」
自分の元へ来てくれることが嬉しくて思わず叫んでしまうと、りんは頬を赤らめながらも、ふわり微笑んだ。
可愛すぎる笑顔に胸がキュウウと締め付けられ、早く抱きしめて頭をずっと撫でていたい衝動にかられる。
そんな愛しい想いが爆発しそうになっていたのに…
あの演劇部と、あの男。
「ほら要先生も!」
「は?俺も?何で」
要とか言う野郎は(←※先生)確か初めからりんの隣にいた。
まさかあんな若い男性教員がいたとは……
財「…部長、心の声だだ漏れっスわ」
隣から一定音の低い声で話し掛けられ、白石はやっと現世界に戻ってきた。
財「嫉妬するんもわかりますけど、少しは抑えて下さいよ」
どうやら1番の原因はここにあったらしい。
白「…財前。ほんまは俺1人が行くつもりやったとこを、仕方なく連れてきてやったんやで?」
財「別に部長だけが誘われたわけやないし。勝手について来たのは部長やないですか」
白「あんなぁ…人の彼女に勝手に会おうとするんやないで」
財「別になんもしないっスわ。部長やないんですから」
白「……………」
ハタから見れば美少年同士が会話しているように見えるので、話し声が聞こえていない女子生徒は目をハート型にさせていた。
しかし、当の本人達は睨み合い真っ黒いオーラを漂わせる。
謙「おーい、ジュース買うて来たでー!」
花を撒き散らすような笑顔で走って来た謙也は、底知れぬオーラにハッと気付いた。
白石は一見柔らかな笑顔を向けているように見えて、その目は決して笑っていない。
財前も無表情ながら、深く眉間に皺を寄せていた。
謙「(な、何でこない険悪なムードになっとんねん…)」
四天宝寺の皆が(白石に気を遣い)行けないと断った時、この2人だけで行くことに謙也はこうなるだろうと予想していたが…
ついてきて良かったと心から思い、未だ睨み合う2人の間に座った。
やがて、パッと会場が暗くなり琥珀が幕の間から出てきた。
琥「皆様、大変長らくお待たせ致しました!
演劇部主催による、
"狼王子と魔法の口付け"
最後まで楽しんでいって下さいね!」
ワァァと客席から歓声の声が上がり、だんだんと閉じられていた幕が上がってゆく。
綺麗な森の絵を背景にして、本格的に作られたお花や動物のセット。
それらに囲まれて、誰かが眠っていた。
『(こ、これで良いのかな…?)』
胸の位置で祈るように手を組み、瞳を閉じているりん。
黄色のドレスを見にまとってただ眠っているだけなのに、まるで1枚の絵画のよう。
白「(天使や…)」
眠っている顔がこんなにも可愛いなんて犯罪レベルではないか。
先程のオーラと一変して頬を緩める白石。
そんな彼の変化を財前は横目で見るが、何も言わず前に視線を戻した。
劇は順調に進み、いよいよ物語の終盤に差し掛かる。
ずっと目を瞑っているだけだったりんも、ドキッと心臓が跳ねた。
琥「………誰か、この麗しく可哀想な姫に口付ける者はいないか?」
ナレターの声は「いないか?」と何故か強調するように話してくる。
暫くポカンとしていた観客は、やがて彼女等が求めているものに気付いた。
王子役が女性というのは、女子校だからと納得出来る。
だが演劇部…琥珀はそのままでいくつもりはなかった。
折角主役のお姫様が、学園のアイドル"癒しのりんちゃん"なのだ。
琥「……さぁ!この可愛らしく愛らしい姫にキスを!!」
「「「おおおお!」」」
最早ナレーター口調を忘れて、力強く片手を上げる琥珀に会場は次々と挙手し出した。
女子生徒までもが手を上げていて、何が目的なのかわからなくなっている。
謙「何これ!?終盤にこの展開か?」
白「…なかなかやるやん」
お笑いにうるさい四天宝寺は、文化祭の劇も勿論ボケとツッコミで成り立っていた。
しかし今まで物語がきちんと進行していたのに、まさかの展開。
関西人の2人はやるなぁと素直に感心していた。
謙「財前もそう思う……て、」
財「…………」
謙&白「「((早!!))」」
無表情だが真っ直ぐに手を上げる後輩の姿に、揃って顔を向けた。
『(ど、どうしよう…)』
一方のりんは、いきなりの展開に頭が混乱していた。
当初のシナリオでは、王子役の女子生徒にキスをするフリをしてもらうことになっていたのだ。
それが突然変わって、しかも誰になるかわからないなんて…
ぐるぐる混乱する頭でも、1つだけわかることは、
『(…やだ、)』
知らない人が相手なこともだが、りんにとってそうゆうことは…すべて白石とだけ。
最初のキスも、次のキスも、その次も……ずっと好きな人がいい、白石がいい。
彼の顔を思い浮かべながら、思わずギュッと目を瞑った。
琥「……………………!!見付けた、王子はあなたよ!!」