桜の下で 前編
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ひらり、桜の花弁が舞う。
そっと手を伸ばして、桜色のそれを優しく包み込んだ。
庭には小さな桜の木があり、毎年この季節になるとりんは何かと縁側にいた。
毎年カルピンと二人きりだったけど、今年は…
白「はは、くすぐったいって」
ちらりと、隣に座る人物を見上げる。
カルピンを膝に乗せ戯れている姿に、思わずキュンと胸が締め付けられる気がした。
桜の花弁が白石を包み込むように落ちて来て、思わずぼおっと見惚れてしまう。
『(白石さんって…桜が似合うなぁ)』
そう染々と思っていると、ふと顔を上げた白石と目が合った。
りんはドキンと肩を揺らす。
白「ん?」
『あ、えと…ごめんなさい、何だかカルピンと遊んで貰って…っ』
慌てて目を逸らし、カルピンに視線を映す。
もうすっかり彼に懐いているカルピンは、広い膝の上で完全に寛いでいた。
白「いや、ええよ。俺猫好きやから」
「かわええなお前」とカルピンの顎を撫でる。
ほぁら~と鳴き、気持ちよさそうに目を細める姿を見ていたら、りんは何故だか羨ましくなった。
自分も猫になりたいと一瞬でも思ってしまった思考を、慌てて首を振り消し去る。
『せっかく東京に来て頂いたのにどこも行けなくて…ごめんなさい』
りんは部活があるので、二人で一緒に過ごせる時間も少なかった。
白石は近くのビジネスホテルに泊まっていて、明日で帰ることになっていた。
思わずしゅんと落ち込むりんの頭に、そっと手が置かれる。
顔を上げれば、微笑む白石と目が合った。
白「しょうがあらへんよ。…それに、俺はりんちゃんとこうして一緒におるだけで嬉しいから」
優しく頭を撫でられ、おまけに特上の笑顔付きで。
これだけでドキドキと鼓動が忙しく鳴りだし、私もですとは絶対に言えないと思うりん。
『う、家で泊まってくれていいんですよ…?』
ピタリ、撫でていた手の動きが急に止まった。
ビジネスホテルはお金もかかるし、家に泊まった方が安く済むしと、りんはりんなりに考えていた。
『(白石さんとも…一緒にいられるのに)』
だが、りんがそう提案する度、必ずきっぱりと断わられるのだ。
実は昨夜、そのことで父の南次郎と珍しく言い合いになった。
‐昨夜‐
南「駄目!絶対駄目だ!!」
『どうして?一晩だけだよっ』
夕食中、りんの一言に南次郎が頑なに拒絶し、事態は大袈裟になっていた。
倫「あらいいじゃないの。連れて来なさいよりん。お母さんも久しぶりに会いたいわ」
『本当?「駄目だ!!」
怒鳴る南次郎に苦笑する菜々子。
リョーマはお味噌汁を啜りながら、煩いと眉を寄せていた。
『う…どうして…?』
頭から拒絶され、うるっと大きな瞳を潤ませるりん。
南「……っっ」
娘溺愛中の南次郎は、その瞳に負けそうになるが……いかんせんと、ぐっと耐える。
南「あのなりん…男はな、皆狼なんだぞ」
急に落ち着いた声音になり、肩を掴んでわからせるように言う。
その真剣な顔を見つめ、りんはキョトンと目を丸くした。
『狼じゃないよ?白石さんは人間だよっ』
リョ「………」
南「………」
場は急に静まり返り、南次郎は何も言わずに、肩に置いていた手を静かに戻したのだった。
『(狼って…何処を見てそんな風に言うんだろう)』
狼と言うよりはうさぎに似てると思うんだけどなぁと、りんは一人頷く。
白「りんちゃん、あんな…意味わかって言ってるん?」
『?意味ですか?』
白「(やっぱわかってへんわ)」
頭にたくさん?マークを浮かべる姿に、白石は思わず溜め息を吐いた。
だが、首を傾げる姿はとても可愛らしくて、ふっと口元を緩め再び頭に手を乗せる。
白「…明日、お花見行かへん?」
『ほぇ、お花見ですか?』
白「うん。桜満開らしいから」
今も十分お花見をしているようなものなのだが、白石の表情を見れば言えなかった。
それに明日は丁度部活も休みで、自分のことを考えて言ってくれてるんだとりんは察した。
『わ、私…いい場所知ってますよ』
白「ほんま?」
嬉しそうに笑った顔を見て、又もやドキンと鼓動が鳴る。
顔を赤く染めながらコクコク頷き、りんもふわり笑った。
『お弁当…作って来ますね』