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*りんside*
タクシーで空港へ向かうだろうと思っていた私は、電車で行くと言ったお兄ちゃんに少し驚いた。
お兄ちゃん曰く「足のリハビリに丁度良い」らしく、慣れ親しんだ場所を噛み締めるように、私達は並んで駅に向かっていた。
『ふふ、』と思わず笑ってしまう私に、「何?」と眉を寄せるお兄ちゃん。
『ううん。ただ、お兄ちゃんは私を甘やかしすぎだと思う』
リョ「…それりんが言うんだ」
「俺の台詞なんだけど」と長い溜め息を吐くから、何のことかわからずに首を傾げた。
予め遅い時間の飛行機を取ってくれるあたり、お兄ちゃんは私が黄昏ることをわかっていたんだと思う。
そんな優しくて甘いお兄ちゃんを見上げながら歩いていたら、あっという間に駅に着いてしまった。
リョ「……一つ後の電車でも間に合うけど、もう乗る?」
『う、うんっ』
お兄ちゃんの足を気遣って、自然に(←と思っている)階段ではなくエスカレーターへ促す。
『(お兄ちゃんは"完治した"って言ってるけど…)』
本当は直前まで病院のリハビリに通っていたし、アメリカに着いてからもスポーツ医の指導を受けることを知っていた。
先輩達には心配を掛けないように、何でもないように振る舞っていたことも……
『(……お兄ちゃんが無茶しないように、私がしっかりしなきゃ)』
お兄ちゃんの優しさに甘えてる場合じゃない。
私は新たな決意を固めながらホームに着いた時、携帯のバイブが鳴ったことに気付いた。
鳴り止まないそれを不思議に思って鞄から取り出せば、表示された名前にドクンと鼓動が大きく高鳴る。
暫く固まっていると、「……俺、やっぱ先に行ってるから」とお兄ちゃんが電車に乗った。
『っえ……え?お兄ちゃん、』
リョ「りんは次の電車でゆっくり来れば?」
「空港で待ち合わせな」と私の頭をぽんと撫でたお兄ちゃんは、小さく微笑む。
大きな発車ベルの音と共にドアが閉まり、その姿は見えなくなってしまった。
ずっと鳴り続ける携帯に視線を落とし、『……も、もしもし』と震える手を押さえながら片耳に当てた。
《!りんちゃん…!今何処におるん?》
『白石さん、何で電話……』
《そんなん、黙って行ってまうからやろ…っ》
こんな状況でも、白石さんに久しぶりに名前を呼ばれたことが嬉しくて……胸がきゅんと締め付けられた。
《ええから、今何処におるんっ?》と焦った声はちゃんと聞こえている筈なのに、溜まっていく涙が視界の邪魔をする。
その異変に気付いたのか、《…りんちゃん?》と心配した声に変わっていた。
『………私、白石さんに……伝えたいことがあったんです、』
反対側のホームを見つめた私の瞳からは、ポロポロと涙が溢れ落ちる。
人混みに紛れて必死に私の姿を探している白石さんは、もう二度と見れないかもしれないから。
『ありがとう。私を見付けてくれて』
私と出会ってくれて。私を好きになってくれて。
私に、恋を教えてくれて。
幸せを、たくさんくれて。
『ありがとう…………っ』
とても、とても、
『(………大好き)』
全身が白石さんを愛おしいって叫んでる、離れたくないって叫んでる。
今だって、こんなに涙が溢れるくらい、あなたを想ってる。
『(でも…………もう決めたから、)』
鳴り響くベルの音を聞きながら、私はその姿を最後まで瞳に焼き付けたくて、そっと見続けた。
白石さんは何かに気付いたように顔を上げて、ホーム越しに視線が合わさる。
《………りんちゃん、》
目を見開く白石さんに、私は瞳に涙を溜めながら微笑んだ。
白石さんがいる方にも、私が乗る方にも、電車が近付く音がする。
それは2人の別れを意味しているようで、私は心が押し潰れそうだった。
白「………っりんちゃん!!」
その声に弾かれるように白石さんを見ると、目の前を電車が通り過ぎていく。
何処からか早咲きの桜が舞っていて、本当は桜が咲く前に出発したかったことを思い出した。
『(……さよなら、白石さん)』
美しい桜に別れを告げるように電車に乗り込むと、ホームの向こう側に、その姿はもうなかった。
***
*白石side*
《ありがとう。私を見付けてくれて》
人の声が飛び交う場所で、優しいその言葉がはっきりと俺の耳に届いた。
プルルルル…と電車のベルの音がやけに大きく響き渡ると、俺は反射的に顔を上げた。
ホームの向こう側で佇んでこちらを見ていたりんちゃんは………瞳に涙を溜めた顔で、柔らかく微笑んだ。
白「(………何で、)」
何で、そんな顔で笑うん?
それは俺を大好きだと伝えてくれる時の表情と似ていて、息を呑んだ。
その手を握れなかったのは俺なのに、そんな顔で、そんな台詞だけで終わらせへんで欲しいと願ってしまう。
白「………っりんちゃん!!」
精一杯の大声で呼び止めた俺に、りんちゃんが顔を上げたのと電車が通り過ぎたのは同時やった。
人目も気にせず俺は階段を駆け上がり、反対側のホームへ向かう。
そこに着いた時には………遠ざかっていく電車だけが残され、りんちゃんの姿はもうなかった。
それからは歩いとるのか何処へ向かっとるのかわからなくて、やがてポスッと誰かにぶつかった。
白「…………………謙也?」
謙「……心配しすぎて胃が痛くてなぁ。親に頼み込んで、俺も来てもーたわ」
ニッといつものように明るく笑う謙也を見とったら、身体中から熱いものが込み上げてくる。
情けない顔を見られないように、掌で顔を覆って隠した。
白「すまん、胸貸して………」
そこに頭を付けながら、俺はりんちゃんのことばかりを思い出していた。
謙「何やお前の涙……高く売れそうやな」
「………あほか」と呟いた俺の声が震えていたのも、謙也はきっと気付かないふりをしてくれるだろう。
瞼の裏では呆れるくらい彼女が消えてくれなくて。
桜の花弁が何処からか飛んできては、俺の前を通り過ぎていった。
