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*リョーマside*
俺の世界はテニスが中心に回っている。
そんな世界の中で、りんは水分のように当たり前に存在していて、なくなることなんて想像も出来なくて。
でも、りんには大切な人がいて、その人にも同じように大切に想われている。
だから、俺が"一緒にいたい"ことは…………一生言わないと誓っていた。
リョ「(………誓った筈だったのに、)」
はぁ、と思わず溜め息が溢れる。
俺は1人で座りながら、小さな湖が陽の光に反射され輝いている光景を見つめていた。
輝いているものを見ると、大きな瞳からポロポロと透明の涙が溢れていくのを思い出す。
『ありがとう……お兄ちゃん』と何度も繰り返していた言葉は、どっちの意味だったのか。
リョ「(…………嬉し涙?)」
優しい妹のことだから、もしかしたら困り涙なのかもしれない。
柄にもなく女々しいことを考え出してしまい、俺はくしゃりと自分の髪の毛を触った。
リョ「(…………もう一回聞くのは…流石に無理)」
あんなに恥ずかしい台詞を良く言えたものだと、今更叫びたくなる。
それにしても良く親父が許したな…と、俺は数日前の出来事を思い出していた。
リョ「高校からアメリカに戻ろうと思ってる。多分、一生」
りんがお風呂に入ってる間、俺はリビングで寛いでいた両親に"その事実"を淡々と告げた。
縁側で眠っていた親父は、顔に載せていたエロ本を慌ててキャッチし、母さんに至っては注いでいたお茶を溢していた。
リョ「…狼狽えすぎじゃない?」
南「いや逆に何でそんな冷静なんだ!?一生のこと今言う??」
リョ「(りんに聞こえない時って今しかないじゃん)」
親父はゴホンッとわざとらしい咳をしながら、「いいからそこに座りなさい」とエロ本を隠しつつもテーブルに促した。
母さんは何事もなかったかのようにお茶を注ぎ直している。
リョ「推薦で行くしお金のことは心配いらないから」
倫「前みたいに寮に住むの?」
リョ「いや、LAの家から通えるからまた住めたらと思って」
幼少期、家族でロサンゼルスに住んでいた時の家は親父が知人に貸していた。
その知人は春から引っ越すらしく、丁度空きが出たらしい。
俺にとって重要なのは、"何処"でプロになるかじゃない。"誰"と戦えるかだ。
それを知っている両親は特に反対することもなく、「リョーマがそう言うなら」とすんなり納得してくれた。
リョ「………それで、改めてお願いがあるんだけど、」
南&倫「「お願い?」」
「リョーマが頼み事なんて珍しい」と母さんは興味深そうに目を丸くした。
リョ「(っ何て言えば良いんだ………)」
どんな言葉を並べても、まるで"お嬢さんを下さい"と結婚を申し立てる男になりそうで、言葉に詰まってしまう。
親父はそんな俺を見つめ、「まだまだ青少年だな」とニヤリと口角を上げた。
リョ「は?何それ「リョーマ。我儘言ったって、お前は良い兄貴だよ」
瞳を細めて柔らかく微笑む親父を見て、俺は何故か泣きそうになった。
リョ「あのさ……………」
生まれて初めて、"兄"の俺じゃなく、俺自身の願いを口に出した気がした。
リョ「(…親父って意外と鋭いんだよな)」
普段はどうしようもないスケベエロ親父なのに、いざと言う時は急に父親らしくなるから困る。
俺はぼんやりと湖を眺めていると、『あ!お兄ちゃんいたー』とソプラノの声と共に、たたたっと軽やかな足音が近付いて来た。
「りん」と反射的に呼べば、にっこりと嬉しそうに微笑まれる。
『お兄ちゃんの学校も早く終わる日だったんだね』
『足が痛くて早退したのかと思ったよ…』と僅かに顔を俯かせるりんに、「そんなわけないじゃん」とわざと素っ気なく返してしまう。
本当に足は順調に回復してるし、腕に至っては完治していた。
りんは俺に対して心配性すぎなんだよな…と、ここまでくると呆れる。(←若干嬉しくもある)
リョ「…今日のお弁当にスプーン付けたのってりん?」
『うんっ片手だと食べにくいかなーと思って』
リョ「堀尾にすごい笑われた」
『ふぇ、何で??』と驚きながらも堀尾に怒るりんに、俺は良い気味だと心の中で思っていた。
『お兄ちゃん、今日のお弁当どうだった?』
リョ「…まぁ、美味しかった」
『お兄ちゃん、この間の返事して良い?』
リョ「…まぁ…………っ!?」
日常会話の流れで聞かれるから、俺は驚いて心臓が飛び跳ねる。
りんを見ると、穏やかな表情をしながらも真っ直ぐに俺を見据えていた。
『私、お兄ちゃんと一緒にアメリカに行く』
その声は、何処までも純粋で、澄んでいて。
『これからもお兄ちゃんの傍で、お兄ちゃんがテニスで活躍するところを見たい』
リョ「……………」
『私ね、お兄ちゃんがいないと……息も出来ないみたいなんだ』
『駄目かな…?』と俺の返事を不安そうに待つ妹に、早く答えてやりたいのに。
あまりにも眩しく笑うから、俺はすぐに言葉が出てこなかった。
気付いたら、つぅ…と一筋の温かい涙が、俺の頬を伝っていた。
リョ「………っ」
『お兄ちゃん…?』
傍にいたい、ずっと笑っていてほしい。りんの名前を、毎日呼びたい。
リョ「っなんだよ……これ……」
俺にとって……この気持ちは、恋よりもずっと大きくて。
名前のない、たった一つの宝物のような存在なんだ。
『……………っ』
ポロポロと何故か止まらない涙を拭っていると、りんは慌てた様子で座り、俺を正面から抱き締めた。
リョ「………………ねぇ、息苦しいんだけど」
ぎゅーっと音が鳴りそうなくらい力強く抱き締めるから、俺は潰れかけていた。
『っお兄ちゃんなら、絶対こうしてくれるから』
リョ「………………」
いつの間にか涙は止まっていて、「ありがとう」と小さく呟いた俺に……今度はりんが泣き崩れた。
背中に冷たい雫が落ちるのを感じながら、俺はこの日を一生忘れないと今度こそ誓った。
***
菊「それじゃあ、おチビの怪我完治記念とーーーおチビーズの渡米お別れ会に、乾杯!!!」
"かわむらすし"にて、カチンッとグラスとグラスが重なる音が鳴り響く。
菊丸先輩は最後の方は涙声になっていて、やはり「む〜〜おチビどういうことだよ〜〜!」と抱き付いてきた。
菊「100歩譲っておチビが海外行くのはわかるけどさ、何でりんも一緒なわけ!?」
桃「そうだそうだ!りんは置いていけよ!」
海「けっ……………………シスコンが」
リョ「(……海堂先輩まで)」
これって俺の怪我完治記念のお祝いじゃなかったっけ?と疑いたくなるほど、先輩達に身体を揺さぶられる。
大「よさないか皆!越前は完治といっても病み上がりなんだぞ?」
河「まぁまぁ、折角なんだし、寿司食べてお祝いしようよ」
ドーン!と効果音が鳴る勢いで大量の寿司を握ってくれる河村先輩に、全員目を輝かせた。
俺も遠慮せずウニやイクラを頬張っていると、「越前、今の内にサインをくれないか?」と乾先輩が何処からか色紙を取り出した。
菊「もー乾ー!サインなら、ここに本物がいるじゃん!」
桃「そーっスよ!ね、手塚部長!」
「「「「よ!手塚国光選手!」」」」と拍手されているのは、つい最近ドイツでプロ入りを果たした手塚部長だった。
リョ「………部長、絶対追い抜くんで」
手「越前………油断せずに行こう」
不「(この2人全然変わらないなぁ)」
バチバチと火花を散らしていた俺は、不二先輩が楽しそうにシャッターを切っていることなど知らなかった。
