門出
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
*りんside*
『やだ。お兄ちゃんと一緒に遠足行くのっ!』
小学生の遠足は、サンタモニカに行く予定だった。
私は何日も前から楽しみにしていて、お兄ちゃんとクリスと一緒にたくさん計画をしていたのに。
ベッドの中で赤い頬を膨らませる私に、お母さんとお兄ちゃんは同時に溜め息を吐いた。
倫「無理よ。こんなにお熱があるのに行けるわけないでしょ?」
『!だって、ずっと楽しみだったんだもん…』
倫「わかってるけど、今日は1日寝てなさい」
お母さんは無理矢理、布団を首元まで掛けて部屋を出て行く。
私はむーっと熱を持った頬を膨らませていると、お兄ちゃんが小さな溜め息を吐いた。
リョ「母さんの言う通りだよ。こんなに熱あるんだから」
前髪を退けて当ててくれる掌が、冷んやりと感じて気持ち良い。
『あのね、お兄ちゃん……お願いがあるの』と、私は力の入らない声でお兄ちゃんを見つめた。
手を差し出す私に気付いて、合わせて掌を開いてくれるお兄ちゃん。
『この指輪ね、りんの代わりに連れて行って欲しい…』
ビーズの指輪を見て、お兄ちゃんは何かを察したみたいだった。
自分の指にはめようとしているのをじっとベッドの中から観察していると、お兄ちゃんはさっと服のポケットにしまった。
リョ「……わかったよ。だからりんは早く治せよ」
『!うん、ありがとうお兄ちゃんっ』
勢い良くベッドから起き上がろうとした私は、ふら〜とそのまま倒れてしまう。
「!?母さん、りんが…!」と珍しく慌てた様子のお兄ちゃんの声を聞きながらも、私は何処か幸せな気持ちだった。
『(…………………眩しい)』
ふと、真っ暗な世界に小さな光を見付け、その眩しさに目を細めていると………「りん、」と幼い姿のお兄ちゃんに名前を呼ばれた。
リョ「………っごめん、指輪なくした……」
薄らと瞼を開けた視界の先に、息を切らしたお兄ちゃんが立っていた。
リョ「すごい探したけど、見付からなかった……」
「ごめん」と眉を下げながら謝るお兄ちゃんに届くように、私はもっと近くに来るように手招きした。
『……りんね、お兄ちゃんと一緒に遠足に行く夢を見たの。クリスと3人でいっぱい遊んで、たくさん笑ってた』
私が我儘を言っちゃったから、お兄ちゃんはちゃんと楽しめたかな?と、それだけが不安だった。
『だから、今日1日すごく幸せだったんだ。持っててくれてありがとう、お兄ちゃん』
探してくれてありがとう。
私はまだぼんやりと熱を持ったまま微笑むと、お兄ちゃんの大きな瞳が僅かに潤んだ気がした。
ケホッと咳をしながらも『お兄ちゃん…?』と不安になって起き上がろうとすると、唇に別の熱が優しく触れた。
驚いて目を丸くする私から離れていき、顔を背けるお兄ちゃん。
リョ「………っ誓いのキス。指輪の代わり」
小さく呟いた声を聞いて、ポポポッと熱が上がっていくような気がした。
リョ「なくしてごめんって意味だから」
『…うん!お兄ちゃん大好き///』
リョ「〜〜〜っ」
「知ってる…」といつものように返すお兄ちゃんの顔も、赤く熱を持っているような気がした。
翌日……お兄ちゃんに風邪をうつした理由を何も覚えていない私は、家族が拍子抜けするほどすっかり元気になっていた。
***
眩しい光を追い掛け続けていると、自然と瞼が上がった。
『(夢………だったの?)』
夢だけど、きっと本当にあったんだ。
確信しながらそっとベッドの上で上半身だけ起こすと、自分の部屋にいることを知った。
「すー…」と綺麗な寝息の音に隣を見ると、椅子に座りながら眠っているお兄ちゃんがいた。
『!お兄ちゃん、』
あれから……病院に行って、不眠症気味だったからその薬も貰って、私は数日ぶりにぐっすり眠ってしまったみたい。
先生に「過呼吸の原因はストレスも大きい」と言われて、胸がきゅうっと痛くなったのを覚えている。
『(…お兄ちゃん、ずっと傍にいてくれたのかな?)』
じっといつもより幼い寝顔を思わず観察していると、急に目を開けたお兄ちゃんと視線が合う。
リョ「…………………りん。起きたの?」
『う、うん。今起きたところっ』
欠伸をするお兄ちゃんを見ながら、やっぱりずっと一緒にいてくれたのかな…?という予感が強くなった。
ぐうう〜と鳴り響くお腹の音に、「…ふっ」と笑われて顔が赤く染まっていく。
リョ「母さんがお粥作ってくれてたけど、持ってこようか?」
『お願いします…///』
数分後……お兄ちゃんが熱いお粥に息を吹きかけてくれるから、私は期待しながら口を開けて待っていた。
「……何してんの」と呆れたような声を聞いても、『???』と首を傾げるばかりで。
『えと、食べさしてくれるのかな?って思って…』
リョ「そんなわけないじゃん。1人で食べれるでしょ」
『!?ええっ』
ガン!とショックを受けて涙目になる私に、容赦なくレンゲを渡してくるお兄ちゃん。
私は『そんな…』としゅんと落ち込みながらも、自分で食べることにした。(※当たり前です)
『……お兄ちゃん、いっぱい心配かけてごめんね』
リョ「別に。慣れてるし」
『(な、慣れてるんだ…!)』
そうだよね、幼い頃からずっとだもん……。
どんどん頭が下がっていくと、お兄ちゃんが「ほら」とレンゲでお粥を掬って口元に差し出してくれる。
私は途端にぱああっと目を輝かせて、迷いなくパクッと口に含んだ。
『お兄ちゃん、美味しいよっ』
リョ「俺が作ったわけじゃないけどね…」
暫くそうしていると、お兄ちゃんの瞳がふと寂しそうに揺れたのがわかった。
公園で、お兄ちゃんが話してくれたことが頭を過ぎる。
『(私は大丈夫だよ、ずっと応援してるから)』
だから、笑顔で"いってらっしゃい"って言わなくちゃ。
早く、早く………言わなくちゃ。
胸が締め付けられるように痛くて、また息苦しさを感じ始めた時………お兄ちゃんの掌が、私の震える手を包み込むように握っていた。
リョ「あのさ、りん……………俺と一緒にアメリカで暮らさない?」
一瞬、何を言われたのかわからなくて、私は『え?』と言葉を返すのが精一杯だった。
ただ、重なった掌をぎゅっと強く握ってくれるから、いつの間にか息苦しさが消えていた。
リョ「まだ出願も間に合う筈だから『え、えと…それって、お兄ちゃんと同じ高校に通うってこと?』
「うん。俺と同じ」とお兄ちゃんが即答するから、私はやっぱりまだ夢の中にいるんじゃないかなと思った。
お兄ちゃんは言いにくそうにしながらも、真っ直ぐに私を見つめていた。
リョ「俺と一緒に………生きて欲しい」
『………………っ』
お兄ちゃんの大きな金色の瞳は濁りがないから、私の姿がはっきりと映ってしまう。
涙で視界が滲まないように、私はぐっと必死に堪えていた。
リョ「…母さんと親父にはもう話してある。だから心配しなくていいよ」
「親父は煩かったけど」とその時のことを思い出して、何処かぐったりしているお兄ちゃん。
呆然と固まってしまう私を見て、お兄ちゃんはもう一度ぎゅっと掌を握った。
リョ「………急がなくていいから。考えてみて」
重なった掌が熱くて、昔から良く知るお兄ちゃんの優しい体温で。
私の頬を伝った涙がそこに落ちたのを、どうか気付かれませんようにと願っていた。
