雪の日
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*りんside*
『それでね、お兄ちゃん戻って来てもずーっと知らん顔するんだよ?そしたら帰り際になでなでしてくれたんだ〜』
雪「それはそれは…良かったね」
『うん!』
雪「…………………」
冬休み半ば。
家から少し遠いけど、最近見付けたレトロな喫茶店で、雪ちゃんにこの間あった出来事を一通り話していた。
今日は午後から雪予報になるほど寒く、『えへへへ///』と緩んだ顔をそのままに温かいカフェラテを一口飲む。
すると、目の前に座る雪ちゃんが盛大に溜め息を吐き出した。
雪「…りん、こんなこと言いたくないし気のせいだと思いたいけど……………元に戻りすぎ!!!」
『え??』
雪「え?じゃない!ブラコン200%じゃない!!さっきから"お兄ちゃん"の話しかしてないからね!?」
『そ、そんなに?』と驚いていると、「無自覚かあ……」とガクッと項垂れる雪ちゃん。
『(そうだった…"お兄ちゃん離れ"するんだった…っ)』
世界大会の合宿以来、お兄ちゃんにこれ以上うざがられないように、努力(?)するって決めたのに。
普通の兄妹って難しい…と改めて感じながら、食べ掛けの苺パフェをスプーンですくった。
雪「それよりも!どうだったの?白石さんとの旅行は?」
『!?むぐ…!』
いきなりの質問に動揺して、苺が喉に詰まってしまう。
慌てて水で流し込んでいると、目の前には期待に満ちた顔で見つめてくる雪ちゃんがいて、『楽しかったよ』と素直に答えた。
『それと、雪ちゃん…ごめんね。色々と本当にありがとう。これ箱根のお土産です』
雪「わ〜ありがとう!美味しそうな温泉まんじゅう……………って違う!!!」
旅行中は雪ちゃんに協力して貰って、し、下着(小声)や洋服を選んだり、その日は雪ちゃんのお家にお泊まりする…ということにして貰っていた。
だから感謝しても仕切れないのだけれど……雪ちゃんはチョコレートパフェを食べていた手を止めて、ぷるぷると震え出した。
雪「あんなに可愛い下着選んだのに、もしかして見てもらえなかったの?」
『へ!?///ど、どうだろう…もうそれどころじゃなかったってゆうか、必死で………』
あの夜の白石さんを思い出すだけで、ボンッと顔から火が出そうになる。
急にあわあわと慌て出した私を見て、雪ちゃんはにんまりと口角を上げた。
雪「白石さんの浴衣姿、さそがし絵になるんだろうな〜〜」
『だ、だめ…!想像しちゃだめっ』
白石さんは実際に旅館の浴衣を着こなしていたし、すごく色っぽかったけど……誰にも見せたくないと思ってしまう。
必死になる私に笑いながら、「で、どうだったの?」と雪ちゃんは声を抑えて尋ねた。
『?どうって…?』
雪「初めての感想に決まってるでしょ。…私も今後の参考にしたいし」
私はカァアアと顔を真っ赤に染めながらも、その日の夜の白石さんを思い出していた。
「りんちゃん」と低く囁く甘い声、余裕がなさそうに動く熱を持った指、息遣いに合わせて滴る汗。
目が合った時に、愛おしそうに微笑んだ顔を…………
『あ、あのね、白石さんすごくかっこよくて、ずっと優しくて………お兄ちゃんのこと聞いた後も私が泣き止むように、ぎゅってしながら一緒に眠ってくれたんだ』
白石さんの優しい温もりに包まれていたら、安心して眠りにつけたんだった。
私の話を全て聞き終えた雪ちゃんは、「何ぃ!?」と突然立ち上がった。
人目を気にするように辺りをキョロキョロ見渡してから、また何事もなかったように座り直す。
雪「それってつまり、最後まで………大人にはなってないってこと?」
『ふぇ!?///う、うん………そうなるのかな?』
小さくなってコクンと頷けば、驚愕の表情をする雪ちゃん。
雪「落ち着くのよ雪……超超超超超絶ブラコンのりんがここまで進展したのは奇跡だけど……」
『("超"って何回も言った…っ)』
ブツブツ呟き始めた雪ちゃんは、「でもでも白石さんが可哀想すぎるー!」とわあっと今度は泣きそうになっていた。
雪「ショックだったろうに、それでも一晩中抱きしめて寝てくれるって……最早それは拷問だわ」
『えっ?め、迷惑だったのかな…』
雪「迷惑じゃない、嬉しい。嬉しいけど拷問なのよ」
雪ちゃんは白石さんの気持ちを代弁していて、その姿は大石先輩と菊丸先輩のシンクロした姿を彷彿とさせた。
私は重罪を犯した罪人のような気持ちになっていると、「あれ?」と聞き慣れた声が響いた。
雪「『要先生…!!』」
要「やっぱり、りんと雪ちゃんか。なんかやたら様子が可笑しい子達がいるなぁって思ってたんだよな」
そう言って、ニコッと意地悪く楽しそうに笑う要先生。
「良かったらご一緒にどうですかっ?」と目をハート型にさせる雪ちゃんに、「いいの?」と要先生は躊躇いなく隣に座った。
「珈琲で」で店員さんに告げると、煙草に火を付けようとライターを取り出す。
要「あ、悪い。お前達がいるんだった」
雪「良いんですよ!私達のことは気にしないで下さいー」
要「いやいや、これでも一応担任だからな。大事な教え子達の健康を害したら大変なんですよ」
そう言って胸ポケットに煙草を仕舞う先生に、「はぁ、かっこいい…」と心の声が漏れている雪ちゃん。
先生の黒のタートルネックにロングコートを合わせた私服や、珈琲だけを頼むところにまた白石さんを思い出してしまい、私は密かに頬を熱くさせていた。
『(えっと…)先生は、このお店に良く来るんですか?』
要「うん。今時、喫煙出来る店って貴重でさー家からも割と近いし」
その言葉に雪ちゃんは目をキラリと輝かせ、「先生のお家ってここの近所なんですか??」と早口で尋ねた。
先生は運ばれてきた珈琲を飲みつつ、「近所って言っても結構歩くけどね?」とさらりと交わしている。(ように見える)
雪「そうだ!先生も聞いて下さいよ。りんったら彼氏に我慢という拷問をしたらしくて、」
『が、我慢…?///』
要「それはそれは、ご愁傷様……」
全てを理解したように、酷く同情した顔をする先生。
要「白石くんは確かに爽やかだけど、普通の男子高校生だからねぇ…(今頃、りんのこと考えて悶々としてんだろーなー)」
雪「ですよねー……」
『!せ、先生っ雪ちゃんも…///』
何故か遠い目をする2人に、私は顔を真っ赤にして慌てることしか出来ない。
要先生はくすくすと笑いながら、「あー面白い」とティーカップを置いた。
要「そういや、雪ちゃんが探してた高等部の美術部の資料見付かったよ」
雪「えっ本当ですか??」
「2人とも内部進学だからって気抜くなよ」と要先生に改めて言われると、ギクッとしてしまう。
『(…そっか。卒業したら、もう要先生が担任じゃなくなっちゃうんだ)』
しょんぼりと肩を落としながらふと窓の外を見ると、パラパラと白い雪が降り始めていた。
今年初めての光景に、思わず『わぁ…』と感動していると、要先生のティーカップを持つ手が僅かに震えていた。
『?あの、先生「もしかして先生、わざわざ高等部まで取りに行ってくれたんですか?」
要「違うよ。知り合いのOGがいて、たまたま家にあっただけ」
雪ちゃんといつも通り会話する先生を見ていたら、さっきのは気のせいかな…?と思ってしまった。
「はい!そしたら、今から先生の家に取りに行っても良いですか?」と元気良く挙手する雪ちゃんに、「却下です」とニッコリ笑って拒否する先生。
この2人の攻防戦(?)は喫茶店を出るまで続き、私は外の寒さにぶるりと身震いしていた。(※要先生が全部奢ってくれました)
要「そんなに早く必要なら、今から取りに戻るから2人はここで待ってなよ」
雪「いいえ!私達が一緒に行った方が早いですよっね?りん」
『ふぁ!?』
突然同意を求められて、せっせと手袋を付けていた私はビクゥ!と身体を浮かせた。
長い溜め息を吐く要先生も何だか具合が悪そうで、『先生…?』と不安になって問い掛ける。
要「…わかったけど、絶対すぐ帰れよ。いいな?」
雪「『はいっっ!』」
私と雪ちゃんは同時に敬礼して、先生の後に着いて行った。
一人暮らしの先生のマンションは確かに喫茶店から近くて、数分歩いた場所にあった。
てっきり「玄関で待ってろ」と言われるだろうと予想していたのに。
現実は「寒いから早く上がれ」と言ってくれて、先程から暖房の効いた部屋で、雪ちゃんと2人で小さなソファーに腰掛けていた。
要「これがお目当ての資料な。あとこれ、飲んだら早く帰れよ」
雪「あ、ありがとうございます…!(先生の部屋ドキドキ…)」
『ありがとうございます…あの、要先生って美術部だったんですか?』
温かいココアを出してくれる先生にお礼を言いつつ、視界に入って来たのは……本棚にあるたくさんの美術に関わる本だった。
先生はすっと目を細め、「…知り合いの物だって言っただろ」と静かに呟く。
ふと窓の外を見ると吹雪のようになってきていて、同時にガタン!と大きな音が響いた。
慌てて近付くとキッチンにいた筈の先生が膝を付いていて、『先生…!?』と目を見開く。
要「……っいいから、今のうちに早く帰れ…」
雪「要先生…!?大丈夫ですか?」
要「大丈夫だから。お前達のことは俺が守る………」
『せ、先生……っ』
「だから任せ………」と言いながら、ふら〜と今度こそ倒れてしまった先生。
「『せんせーい!!?』」と、私と雪ちゃんの大きな泣き声が響き渡ったのだった。
***
ー要、あんたはいつもつまんなそう
そう言って無邪気に笑うあの人に、何度うるさいと言い返しただろう。
"絵には自分の想像を超える世界がある"
口癖のように言っていた彼女の顔はいつもペンキだらけで、俺は綺麗な顔が勿体無いと思っていた。
真っ白なキャンパスに空の絵を描きながら、柔らかな淡い栗色の髪が風に乗ってなびいていく。
その髪に触れてみたいと願ったのは、いつからだっただろうか…………
ー………先生、
『要先生っ』
ハッと目を覚ますと、ウェーブのかかった長い栗色の髪がふわりと揺れていた。
一瞬、"あの人"かと思ってしまった。
要はドッドッと鳴る心音を感じながら、『良かった…』と呟く教え子を下から見つめる。
要「………俺、触れてないよな?」
『?何にですか?』
要「いや……何でもない」
夢の中だけの出来事だったと思うと、ホッと安堵の溜め息が溢れ出た。
そうしていた要は、自分が横になっている状況を漸く理解した。
要「………っ!今何時だ?」
『えと、19時です。要先生、まだ横になってないと…!』
慌ててベッドに寝かし付けようとするりんと、何としても起き上がろうとする要。
真冬の夜は既に真っ暗で、白い雪が街灯のように周囲を照らしていた。
要は熱でぼおっとする思考に負けないよう、落ち着いて荒い息を整えた。
要「…あのなぁ、何で帰らなかった?」
『えっと…それが、積雪の影響で電車とバスが停まってしまって……タクシーも全然捕まらない状況なんです』
要「…………………」
その緊急事態に、くらりと再び気絶してしまいそうになる。
『えと、家には連絡済みなので安心して下さい…!』と慌てて説明するりんを見ていたら自己嫌悪にかられ、「は〜」と眼鏡を外して目頭を抑えた。
『あの、今雪ちゃんが近くのコンビニで色々買って来てくれてます』
要「…悪いな。俺自炊しないから、何にもなかったろ」
『…いえ。私こそごめんなさい』と、きゅっと正座の上に置いていた掌を握り締めるりんを、要は不思議そうに見つめた。
『先生、具合悪そうだなってわかってたのに、家に押しかけたりして……』
白石との旅行の時も後先考えず、あんなに反省したのに。
自分の膝を只々見つめていたりんは、「言っとくけど、これぜ〜んぶ俺のせいだからな」と要の迷いのない言葉に面を上げた。
要「お前らを早目に帰せなかったのは、担任の俺の責任なんです。喫茶店で同じ席に座ったのも俺からだし」
『で、でも…要先生こんなに熱あるのに、』
要「俺、雪が降る日は必ず熱が出るんだよなぁ」
「りんの優しいとこ好きだけど…何でも自分のせいだって思うの、よしな」と柔らかい口調で言われれば、りんの大きな瞳に涙が溜まっていった。
要「……わかった?返事は?」
『っはい…!』
要「ははっ本当に泣くの我慢してんだなー」
『うう〜〜要先生がいつもより優しいからです……っ」
要「"お兄ちゃんの為"なんだって雪ちゃんから聞いてたけど、今かなり面白い顔よ?」
『!い、意地悪に戻ったあ』とツインテールの髪をクロスして顔を必死に隠すりんに、又もや笑ってしまう要。
冷えピタの心地良さに目を瞑りながら、「…そういや、姉貴も泣かなかったな」と呟いていた。
『お姉さん…?』とりんに聞き返されて、要は声に出していたことに初めて気付く。
要「……前に、俺が教師を目指すきっかけになった人の話したこと、覚えてるか?」
『はい。確か"見捨てず向き合ってくれた先生が1人だけいた"って、』
要「それがさ………俺の姉貴なんだよ」
もう起き上がることは諦めて、要は大人しく横になることにした。
今日は大雪で、熱に浮かされているのか、久しぶりにあの人の夢を見たからなのか。
誰かに……りんに、話したいと思った。
要「聞いてくれるか……?」
要の小さな呟きに、りんは静かに頷いた。
