travel!! 後編
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朝食を済ませた後は、指定された時間まで自由に温泉街を散策することになった。
小「うち、このローズのお店に行ってみたいわぁ」
ユ「さっすが小春やなー目の付け所がちゃうわ!」
金「ろーずって何なん??」
健「バラって意味やで」
パンフレットを見ながら皆で回る場所を決めていると、小春がすかさず提案する。
りんは周囲をきょろきょろと見渡しながら、疑問に思ったことを尋ねた。
『あの、渡邊先生は…?』
謙「そういや、朝もおらへんかったよな」
健「"先生も歳や。若いもんで楽しんできや"言うとったで」
小石川の話によると、オサムは1人、車で休んでいるらしい。
皆は二日酔いで寝ている顧問に呆れていたが、りんだけは純粋に心配していた。
ふと、謙也と話す白石を見て『紅葉さん』と手招きする。
「ん?」と近くまで来た紅葉の耳元に、内緒話をするように囁いた。
『え、えとっ』
紅「………ふんふん、ええと思うで」
紅葉の反応に、りんの顔がぱっと明るくなる。
心の中で自分自身にエールを送りながら、すす…と白石の傍に移動した。
『っあの、白石さん、私と「りんちゃん花好きやったよな?」
言葉を被されて、りんは無意識に瞑ってしまっていた目を開ける。
『は、はい!』と何故か元気良く答えてしまうと、白石は穏やかに微笑んだ。
白「なら、小春達についていき?後で合流しよ」
『!で、でも…っ』
小「蔵リンわかっとるやないの~乙女組はこっちの方がええねん」
りんが口を挟む暇もない程、光の速さで会話がされていく。
漸く隙が出来た時には、白石と別行動することに決まっていたのだった。
小「ユウくーんこっちよぉ~」
ユ「ははは、待てや小春ぅ~」
様々な店で取り囲む温泉街を歩いていくと、一際端は広場のようになっていた。
そこでおいかけっこを繰り広げる小春とユウジを、りんはぼんやりと眺めていた。
前を見れば青い海が広がっていて、1枚の絵画のよう。
いつもなら感動する筈なのに、気持ちが沈んでいるからか心が止まったままだ。
紅「…りんちゃーん、そんな落ち込まんでも」
『…はい』
隣に立った紅葉は、りんの顔を覗くなりそう言った。
『私……白石さんに避けられてるんでしょうか、』
紅「…まったく、ほんまにしょうがない奴やな」
『(やっぱりそうなんだ…!)』
もしかしてと思っていた。
言葉にすると悲しくなるので、気にしないようにしていた。
それが事実だとわかった途端、じわりと涙が出そうになる。
俯いた顔を上げられないでいるりんに、「大丈夫やで」と紅葉は言った。
紅「2人のことやから、うちは特に言えへんけどな。蔵が考えとることもわからんし」
『………』
紅「でも、りんちゃんが暗くなる必要なんてあらへんで」
りんがゆっくり面を上げると、「な?」と紅葉に頭を撫でられる。
彼女の言う通り、折角皆と旅行に来たのに…落ち込んでいたら勿体ない。
『私、ちゃんと話してみます』
ずっとこのままなんて嫌だから。
固く決意すると、紅葉も「頑張ってな」と頷いてくれた。
小「2人共ーあっちでケーキ食べれるみたいやでー!」
『ケーキ…!』
紅「行こか」
『はいっ』
駆け出した足取りは、ずっと軽く感じた。
『おいしかったですね!』
ユ「あっちの温泉卵アイスも食いいくで」
『はい!』
はしゃぎながらユウジの後について行くりんを、紅葉は安心した顔で見つめていた。
同じように後ろを歩いていた小春に「良かったわ」と言葉を代弁され、自然と横を向く。
小「りんちゃんは笑顔が一番かわええからね」
紅「ほんまにな…落ち込んどる時間が勿体ないわ」
フゥと息を吐いた紅葉も、小春と同じ気持ちだった。
ユウジとりんの会話を微笑ましく聞いていた小春が、突然キラリと目を光らせる。
小「ところで、ほんまのところはどうなん?」
紅「何が?」
小「蔵リンとりんちゃんよ~昨晩、何かあったのやろ?」
皆と同様、お酒を飲んで酔っ払ってしまった小春は、昨晩の出来事を覚えていなかった。
小春の女子力は、学校でも女の子の悩みを聞くのが日課になっているほど。
「乙女心なら任してぇや」とウィンクする友人に色々ツッコミたくなる気持ちを抑え、紅葉は小声で話した。
知っている範囲のことを話しただけで、きゃあ!と歓声が上がる口を、慌てて塞ぐ。
小「蔵リン、やるやないの!」
紅「ちょ、静かに!詳しいことはうちも知らんで」
小「蔵リンも男やもんねー。せやけど女の子からしたら、酔っ払ってない時にして欲しいもんやわ」
うんうんと1人でに納得している小春は、恋愛話が苦手な紅葉にとっては理解不能だ。
小春はそんな彼女をおいて悶々と何かを考え、「そうや!」と手を叩いた。
小「さっき走っとる時に見付けたんやけどー」
前を歩いていたりんは、背中に感じた怪しい視線にぶるりと身震いした。