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「ありがとうございましたー」
カランコロンと、お店のドアを開けると店員が機嫌良く頭を下げた。
人通りの多い街の一店から出てきた彼女は、そっと隣に立つ男を見上げた。
白「ええもんあって良かったな」
『はい!』
ぱあっと嬉しそうに顔を輝かせるりんの頭に手を乗せ、白石は柔らかく微笑む。
袋を持つ反対の手を取り、2人はゆっくり歩き出した。
どんな動作も然り気無くやってのける彼と違い、りんは手を繋がれるだけで心臓が落ち着かない。
『(うう…)』
恥ずかしさから思わず俯きかけていると、突然、自分へ振り向いた白石に心臓がドキリと跳ねた。
白「…………」
『え、えと…?』
じっと見つめるだけで何も言わない白石を不思議に思い、ただ首を傾げる。
何か考えるように顎に手を添えた後、再びりんを見据えた。
白「…あんな、」
『は、い…』
白「ちょお、お願いがあんねんけど…」
じりりと迫って来られて、心臓が更に忙しく鳴り出す。
整った眉を下げて切な気な瞳を向けられてしまえば、りんが拒める筈がないのだ。
『な、んですか』
白「服、選んで欲しいねん」
「りんちゃんに」
そう呟いた彼は、キョトンと目を丸くするりんに小さく微笑んだ。
『ふ、服ですか?』
白「うん…アカン?」
再びしゅんと眉を下げる白石を見ていたら、胸がきゅううと締め付けられた気がして。
『はい、いいですよ』
やはり…顔を縦に振るりんだった。
『(うう、いっぱいあるなぁ…)』
服屋に入ったのは良いが、ぐるっと一面見渡すと目眩がしそうな程の品数だった。
父南次郎と一緒に買い物をしたことはあるが、今時の若い男の服屋に入ったのは初めてなので、妙に緊張してしまう。
(※注 白石さんは年上です)
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
『はぃい…っ』
取り合えず手に取って悩んでいれば、ニコニコと微笑む店員に話し掛けられてしまった。
りんはホッと安心し、相談した方が早いと口を開けかけたが。
白「あ、ええです。この子に選んで貰いたいんで」
『…!!』
負けじとニッコリ微笑む白石は、りんの後ろから両肩に手を乗せた。
店員は微笑ましいと言いた気な眼差しを向け、「かしこまりました」と頷いて去っていった。
『あ、あのっ私センスないですよ?』
白「ん?そんなん気にしないから」
『(私が気にします~…)』
もう何を言っても引かないらしい白石に、りんはぐっと覚悟を決める。
まずはトップスということで、店内を見渡し物色し始めた。
『(白石さんはグレーの服を良く着てるような…でも黒も似合いそう。ううん、きっと白も似合うはず…)』
心の中で独り言を繰り返しながら、真剣に洋服とにらめっこするりん。
そんな姿を、白石はただ見つめていた。
「その服でしたら、ハットなんてどうでしょう?」
『あ、いいかも!』
りんと店員が揃って振り向けば、彼は微笑しつつハットを頭に被った。
白「俺帽子似合わん思うけど…」
『……………』
店員が「とてもお似合いですよ」と微笑む声で、ぼおっと見惚れていたりんは我に返った。
『とても…とてもお似合いです!すごくすごく、かっこいいと思いま…』
そこまで言ってしまってから、ハッとして口を押さえた。
カァァァと赤く上昇する顔を隠すように俯くと、クスッと笑われる。
白「ほな、これ下さい」
『!へ「ありがとうございます」
他にも、りんが手に取って悩んでいた服などを着々と購入していく白石。
りんは何も言えず、ただ機嫌の良い店員の声と彼の声を聞いていた。
ーー……
買い物が落ち着いた頃には既に夕方で、辺りをオレンジ色の夕陽が照らしていた。
ビジネスホテルへと泊まる白石を見送る為、りんも駅までの道を並んで歩いていた。
隣に立つ白石をそっと見上げると、不覚にもふわっと微笑まれたのでドキリとする。
『どうしたんですか?急に…あんなこと、』
服を選んで欲しいなんて、そんなに着るものに困っていたのかと…りんは心配になっていた。
普段の彼の服装はオシャレだと思うのに、何故センスの欠片もない自分に選ばせたのかと不思議で仕方がないのだ。
白石はりんに合わせて歩いていた歩幅を狭めると、ゆっくりと視線を向けた。
白「…今日、りんちゃん何買った?」
『え、と』
予想もしていなかった言葉に、何だっけ…?と慌てて思い出す。
自分の持つ袋の中身を確認しながら、 りんが話そうとすれば。
白「シャーペン」
『えと、はいっお兄ちゃんなくしちゃったって言ってたから…』
白「…靴下」
『部活でもう汚れてるのばっかりだし…』
話している途中、ふと白石の表情に影がさした。
その表情に、瞳に。
りんは彼の意に気付いてしまった。
『…白石さん、あの…服って』
ゆっくりと見上げれば、白石はばつが悪そうに視線を逸らし横を向く。
白「たまには、俺のもの選んでええのに…」
そう呟いた白石は、くしゃりと前髪を触った。
本人は気付いてないと思うが、
拗ねた時いじけた時、思い通りにいかないことがあれば…白石はこうする癖がある。
それを知っているりんは、一歩、彼に近付いた。
白「りんちゃんが、どんな服好きなんかも知りたかったし、」
『……白石さん、あのですね』
白石が視線を戻せば、ほんのりと赤い顔をしたりんで。
恥ずかしそうに俯いた後、おいでおいでとゆうように小さく手招きした。
白「?」
首を傾げながら白石が近付けば、りんは精一杯背伸びをして、その耳元に囁いた。
白「っ」
『…伝わりましたか?』
不意打ちを受けた白石は少し眉を寄せながら、腕を伸ばして小さな身体を抱きしめた。
『…!白石さ「りんちゃんが悪い」
ギュウウと、優しく、でも強い力で。
心臓がドキドキとうるさくて、思考を溶かしていく。
白「ああー…離れられんかも」
『へ!?そ、そんな…』
白「一緒に泊まる?」
『っ!あ、あああの…』
「冗談やって」と笑われ、ホッと息を吐いた。
トクンと、一定のリズムを奏でる心音は…
自分のものなのか、それとも。
大好きな温もりを感じながら、遠慮がちにそっと腕を伸ばす。
『…で、でも』
白「うん?」
『少しだけ、このままが…いい、です』
顔を真っ赤にしながら、りんは白石の胸に頭を埋めた。
白「わかったから、あんま喋らんで…」
『?は、はいっ』
どんな服を着てても、きっと。
全部、全部
『(大好き、)』
