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*本編『雪の日』の番外編です。
財「………それ欲しいん?」
中2の時、クリスマスイブに跡部さんの家で行われたりんの誕生日パーティー。
じーっと窓際に置かれた物を興味津々に見とる彼女に、不思議に思った俺は声を掛けていた。
『あ、財前さんっえと、欲しいというか…綺麗だなあと思って』
財「(スノードーム?)」
その視線の先を追えば、丸い透明のガラスの中に、サンタやツリーが入った色んな種類のスノードームが並べられていた。
自動で中のパウダーの雪が降るようになっとるらしく、俺もライトで照らされたそれに目を奪われる。
ちらりと隣を見ると、りんは子供のように大きな目を輝かせていた。
財「…そんなに好きなん?」
『はい!こんなに小さいのにちゃんと一つひとつの世界があって、キラキラしてて……ずっと見ていたいです』
そう言ってまたスノードームを眺め始めたりんに、俺は何も言えへんかった。
キラキラ、キラキラと小さなガラスの中で粉雪が舞う。
その幻想的な世界は余りにも綺麗で、それよりも眩いりんから……俺は何となく視線を逸らしてしまった。
***
高1の冬休み。紅葉さんの店でお好み焼きを食べた帰り道……
途中で謙也さんが「肉まん買うてくる!」と意味わからんことを言うから、俺はマフラーに顔を埋めながらコンビニの前で夜空を見上げていた。
謙「財前ーお待たせ!寒かったやろ?」
財「…いや、それよりまだ食うんスか?」
「ええやん!粉もんはおかずやから」と定番の台詞を言いながら、「ほら!」と半分にした肉まんを渡される。
屈託なく笑う謙也さんを見たら断ることが出来ず、「ども…」と素直にそれを受け取った。
吐き出した息は白く、冬の高い空に溶けてゆく。
パラパラと降り出した冷たいものに気付いた時、「おー雪やん!」と謙也さんが嬉しそうに反応した。
謙「どないする?積もったら雪合戦するか??」
財「…小学生っスか」
謙「ええやんー財前も甥っ子くんと遊ぶやろ?」
確かに…走り回る甥っ子が危なっかしく、俺も雪だるまとか作っとるけど。
謙也さんは同レベルなんやなと呆れながら、熱い肉まんを口に含んだ。
謙「……さっきの光、かっこ良かったで」
謙也さんがどの場面を言っとるのか、すぐにわかった。
"光"呼びされたことで、コンビニの寄り道に誘われた理由も……
財「(ほんまお人好しやなぁ…)」
そんなに心配せんでも、俺は強がったり無理をしとるつもりはない。
ただ、俺が挑発したらすぐに立ち上がって、真っ直ぐに好きな人の元へ走っていける白石部長が…………羨ましい。
ーー初めて焼肉屋で会話した時も、肝試しでペアになった時も、ハワイの合宿で2人で無人島にいた時も。
夏祭りで想いが溢れて告白した時も、思わず頬にキスをしてしまった時も、合宿所のバーで酒入りのチョコを食べた時も。
りんはずっと………白石部長が好きやった。
ー…財前さんは、いつも励ましてくれます
ー……は?
ーだから…財前さんが困った時は、私がいつでも力になりますね
ー味方ですっ
誕生日にハートのカイロをあげた時……本当はあいつにスノードームをあげたかった。
俺から貰うた物を喜んでくれるかはわからへんけど、小さな球体の中でキラキラ輝くそれを見て、無邪気に笑っとる顔が見たかった。
せやけど、カイロだけで嬉しそうにそんなことを言う彼女を見たら急に気恥ずかしくなって……渡せへんかった。
財「(柔らかいのと、痛いの………いつまで続けんやろ)」
スノードームのように、りんと2人だけの世界におったら……俺を好きになってくれるんやろか。
それとも、宝石のような雪景色に喜ぶ姿を、黙って見とるだけなんやろか?
白い空を見上げながら、切なく痛む胸を感じとると……「雪って不思議やと思わん?」と隣から声がした。
謙「触れると冷たいけど、見とると嬉しいっちゅーか……心が温かくなる気がするんや」
「俺だけなんかな?」と明るく笑う謙也さんを見とったら、すっと痛みが軽くなっていく気がした。
財「……確かにそうっスね」
せやけどいくら心が温かいからって、流石に寒い。
マフラーに顔を埋めながらぶるりと身震いしとると、「そろそろ帰ろか」と謙也さんが言った。
俺はその後を追うように腰を上げながら、冷たくなった両手を上着のポケットに入れた。
財「…あ。白石さんバス大丈夫っスかね」
謙「確かに!これ積もったらヤバいんとちゃう?」
財「あんなにドヤ顔で出てったのに、会えへんかったらネタにするっスわ」
謙「何でもネタにするんやないで!?」
バスが停まるとか、ちょっとのアクシデントがあった方が正直嬉しい。
ふっと口角を上げる俺を見て、「ったく、"どっちも好き"なんやろ?」と何故か泣きそうになっとる謙也さん。
財「そりゃ部長として尊敬してますけど……男としては負けてないと思うんで(寧ろ勝っとる)」
謙「うん?」
財「りんが隙見せたらいつでも手ぇ出したります」
謙「何て!!???」
「まぁ元々、隙だらけっスけど」と冷静に呟く俺に、謙也さんはぐるぐる目を回して混乱しとるみたいやった。
謙「つ、つまり……めっちゃ戦闘態勢っちゅーこと?」
財「さあ?謙也さんこそ、胸きゅんしとる程度でええんスか?」
謙「っ!?」
「俺のことはええやろ…!///」とこんなに寒いのに顔を赤く染める謙也さん。
胸きゅんは否定しないんやな…と確認しつつ、俺はスノードームのような景色を瞳に焼き付けた。
財「(………ほんまは逸らさへんで、ずっと見ていたい)」
あの大きな瞳に映るのが今は俺やなくても、ずっと逸らさずにいるから。
味方だと言ってくれた優しい彼女のように、俺もどんな時も味方でおるから。
財「(ずっと……好きでいさせて欲しい)」
吐き出した白い息は、キラキラと輝く銀世界の一部になっていく。
温かい想いが降り積もっていくのを感じながら、俺は今度の誕生日こそスノードームをあげたいと思っていた。
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