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初めて会った時、無邪気な明るい笑顔が可愛いと思った。
コロコロ変わる表情が楽しくて、次はどんな顔をするんだろって思ったら、目が離せなくなっていた。
この感情が恋なんだと気付いたのは、いつだっただろうか………
芥「ねーねー丸井くんはどうする??」
ぼうっと一点を見つめ続けていた俺に、ジロくんが声を掛けた。
俺はハッと視線を戻すと、全部上手そうなスイーツのメニューが目の前に広がっていた。
丸「っおお、どうすっかな〜やっぱこの限定パンケーキだろぃ」
芥「やっぱC??俺も丸井くんならこれかなって思ってたんだ〜!」
『2人とも決まったんですか?』
りんが3人分の水が入った紙コップを持って戻ってきて、ジロくんの隣に座った。
さっきから無意識に見つめてしまっていた手前、少し気まずい。
芥「うん!丸井くんはこれで、俺も同じのにしよっかなーと思って」
『そうなんだっ私はどうしようかな…』
『うーん』とりんがあまりにも真剣に悩んでいるから、ふっと笑ってしまいそうになる。
『じゃあ、私はこのブルーベリーのにします!その方が半分こ出来るし』
『ね!先輩』とこっちを見て無邪気に笑ったりんに、ドキッと鼓動が高鳴る。
コクコクと頷くとその表情が嬉しそうなものへ変わり、俺は初恋を知ったガキか…と自分自身に泣きたくなってきた。
"半分こ"の提案は、さっきから俺やジロくんが「こっちのも食べたい」と主張するからだろう。
まさかこのスイーツ巡りの会も、本当に結成されるとは思っていなかった。
『今日がっくんも来れたら良かったね』
芥「今日は店番なんだって〜あと、"何件もハシゴ出来る気がしねぇ"って言ってたよ」
丸「ま、普通は無理だもんなぁ」
俺も自分が甘党なのは理解している。
スイーツ巡りは基本1人だし、まさかジロくんやりんがついて来れる(?)とは思ってもいなかった。
4件目のハワイアン風のカフェで、いつか東京のスイーツを全制覇したいと俺は新たな目標を立てていた。
丸「(…にしても、りんって細いのに結構食べるんだよな)」
俺はテニスのお陰でカロリーを筋肉に変えてるけど(←そう信じたい)りんの華奢な身体の何処に吸収されていくのか不思議だ。
また無意識に見つめてしまっていたらしく、ジロくんと喋っていたりんとふと目が合う。
ふわっと柔らかく微笑まれて、俺は自分の顔が赤くなってるんじゃないかと心配になった。
丸「(やばい……今はスイーツだろぃ……)」
ドキドキ鳴る鼓動は気にしないようにして、運ばれてきたパンケーキに全集中することにした。
***
芥「じゃあねー!また遊ぼうね!」
夕方、腕が取れそうなくらい元気良く振るジロくんと別れた。
何処か暗い雲が広がる空の下、俺とりんは並んで歩き出す。
丸「りんも電車で帰んの?」
『いえ、バスがまだあるので、そっちで帰ろうかなって』
丸「んじゃ、バス停まで送ってくわ」
すたすたと歩き出した俺を見て、『でも、先輩も電車の時間あるのに…っ』と慌てて引き止めるりん。
丸「いいんだよ、俺が心配なだけだから」
それに、出来ればもう少し一緒にいたい。
そんな本音は言えず、『ありがとうございます…///』と小さく微笑んだりんに、俺は満足気に頷いた。
バス停に向かっていると、ポツ、ポツと雨の雫が鼻先に落ちる。
気付いたら、一瞬の内にザーッと激しい夕立に変わっていた。
丸「やば!バス停まで走るぞ…!」
『はい…っ!』
咄嗟にりんの手を掴んでしまったと気付いたのは、無事にバス停に着いてからで。
慌てて離してから、自分の掴んだ掌がじんわり熱いことに気付いた。
俺は鬱陶しくて濡れた前髪を掻き上げていると、くいっと服の裾を引っ張られる。
『丸井先輩、良かったらこれ使って下さいっ』
淡い花柄のタオルを差し出すりんに、俺はきゅん…と微かな胸の痛みを感じながら受け取った。
次のバスが来るまでまだ時間があるのを知り、それまで座って待つことにした。
『あの、今日はすごく楽しかったですっスイーツ全部美味しかったですね』
丸「わかる!特に最後のパンケーキは正解だったよな〜」
『はい!ふわふわで最高でしたっ』
『調べてくれてありがとうございます、先輩』とりんが優しく微笑むから、俺も嬉しくなって「また行こうな」と自然に誘うことが出来た。
激しく降っていた雨はだんだんと弱まっていき、りんは立ち上がって手を伸ばし確認していた。
丸「あのさ、りん。俺パティシエになりたいんだ」
丸い目を更にまん丸にして振り向くりんを、俺は真っ直ぐに見据えた。
丸「食べるのも好きだけど、それよりも作る方が好きってゆーか……喜んで食べてくれる人を見るのが楽しくってさ、」
「あ!勿論テニスは続けるけど」と当たり前のこともきちんと伝える。
テニスは俺の生き甲斐だけど、将来プロになりたいかって聞かれたら、他にやりたいものがあった。
丸「……文化祭の時、りんが俺の作ったお菓子食べてくれて、嬉しかったんだ」
立海の文化祭で、俺が作ったうさぎのお饅頭をりんに渡した。
その年のお菓子部門で優勝したことより、好きな子に喜んで貰えたことが何より嬉しかった。
丸「ぜってー将来有名なパティシエになるからさ。そしたら……また食べてくれるか?」
その時も、1番に君に渡すから。
りんは迷いなく『…はい!』と笑顔で頷き、『先輩のこと応援してますっ』とエールを送ってくれた。
気付いたら雨は上がり、綺麗なオレンジ色の空が目の前に広がっていた。
江ノ電に揺られながら、俺は窓の外の景色をずっと眺めていた。
丸「(そっか………虹に似てるのか)」
空に架かる七色の虹と、今日のりんの笑顔が重なる。
丸「(もうずっとなんだよな……)」
初めて彼女に会ったのは、立海の皆で東京の夏祭りに行った時。
綿飴の味を食べ比べたいという単純な目的だった……筈なのに、あからさまに欲しいと思ってるのに我慢しているりんが放っておけなくて。
綿飴を食べた時、キラキラした目を一層輝かせて『おいしい…』と微笑んだ顔が、ずっと忘れられなかった。
ガタンゴトンと電車が揺れて、家路を辿っていく。
丸「(……………ずっと、)」
雨上がりのオレンジ色の空に架かる虹を瞳に焼き付けるように、俺は瞼を閉じた。
丸「(ずっと………好きだ)」
まるでこの空のように、いつも幸せな気持ちにさせてくれる彼女のことが大好きで………
俺はきっと、これからも想い続けるのだろう。
