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今日は人気のレストランを予約して、お洒落をして、前から行きたいと話していた植物園に行く予定でした。
大好きな人の誕生日だから、特別な日にしたかった。
…………それなのに。
『(こんなことになるなんて……)』
私は公園で1人、ベンチに座りながら自分を責めていた。
予約していた筈のレストランは何故か出来ていなくて、新しいヒールの高い靴を履いて来てしまったから靴擦れしてしまい……植物園も行けなかった。
『今日をやり直せたら良いのに……』
思わずそんなことを口にしながらオレンジ色の空を見つめていると、たったっと足音が近付いて来た。
白石さんは羽織っていたジャケットを腕に掛けていて、両手に袋をぶら下げていた。
こんな時なのに、視線が重なるだけでドキンと胸が高鳴ってしまう。
白「っりんちゃん大丈夫か?今、消毒液と絆創膏買うて来たからな」
『あ、ありがとうございます。えと、あとは自分で出来るので…!』
白「何言うてん、俺に任せとき。ちょお我慢してな」
『………っ』
目の前にしゃがむ白石さんに、おずおずと擦り剥けた足を差し出す。
消毒液が沁みて顔を歪めている間に、白石さんは素早く綺麗に絆創膏を貼ってくれた。
『ありが…』とお礼を伝えている最中に、ぐううぅ〜と大きなお腹の音が鳴り響いた。
白「ぷ、はははっりんちゃん…かわええ」
『っっ///うう……面目ないです』
可笑しそうに笑う白石さんを見て、恥ずかしくてもう透明人間になってしまいたいと願う。
白石さんはもう1つの袋を探りながら、「これ一緒に食べへん?」と美味しそうなサンドイッチを取り出した。
白「ここ来る時にフードワゴンがあってな、りんちゃん好きそうやなーって思うて」
「卵とツナどっちがええ?」と尋ねる白石さんを見つめていたら、私は堪え切れずにポロポロと涙を流していた。
白石さんはギョッと目を見開いて、慌てて私の顔を覗き込む。
白「え、え。まだ足痛い…?」
『いえ……』
白「飲み物もあるで?あ!違う食べ物買ってこよか?」
『いえ……っ違うんです。白石さんが、優しすぎて…』
必死に白石さんが慰めてくれるのに、私は幼い子供のように首を横に振ることしか出来なくて。
『私、今日1日、白石さんに喜んで貰いたくて。ずっと前から考えてたのに…全部だめだめで、』
『ごめんなさい』と声に出してしまうと、また新しい涙が頬を伝っていく。
私にとっても大切な日だから、すごく楽しみだった。
それなのに……何で上手く出来ないんだろう、どうして、失敗しちゃったんだろう。
思わず俯いていると、「りんちゃん」と優しい春のような声音が降りてくる。
誘われるように面を上げると、ふわりと柔らかく微笑む白石さんがいた。
両頬に手を添えられてしまえば、もう視線を逸らせなくなる。
白「なぁ、俺……喜んでへんように見える?」
『…え?』
白「りんちゃん、俺の為にめっちゃ考えてくれたんやろ?もうそれだけで、にやけてまうくらい幸せなんやけど…」
白石さんの顔もほんのり赤く染まっている気がして、そっか…いつもは自分の手で隠しちゃうからだ。とよく見える理由がすぐにわかった。
両頬に置かれていた掌は離れていき、白石さんの長い指が私の涙を拭ってくれた。
白「今日の可愛い服に合わせて靴も選んでくれたんやろ?レストランと植物園はまた今度行けばええし、なーんも駄目やない」
「りんちゃんと一緒におるだけで楽しい」
そう言って笑った白石さんに、私はまた涙が溢れそうになるのをぐうっと堪えた。
『…私も、白石さんと一緒にいるだけで幸せです。一緒にいてくれて、ありがとうございます』
『お誕生日、おめでとうございますっ』とずっと言いたかったことを笑顔で伝えると、白石さんも「おおきに」と嬉しそうに返してくれた。
白「じゃあ、プレゼント貰うてええかな?」
『はいっどうぞ………って、ふぇえ!?///』
白「ははっ可愛いノリツッコミやなぁ〜」
大人っぽいリストバンドを用意していたので、それを渡そうとしたら……何故か白石さんが、私の膝の上に頭を乗せて寝そべっていた。
白「俺な、りんちゃんに膝枕してもらうのがずっと夢やったんや。(財前にどんだけ嫉妬したか…)」
『え、えとっ///(ち、近いよ〜)』
白「…嫌やった?」
そんな風に聞いてくる白石さんがずるくて、きゅううんと胸が苦しくなりながらも、何とか顔を横に振った。
『あの、(今日は誕生日だから)私を白石さんの好きにしてください……っ///』
その発言に目を丸くしていた白石さんは、「〜〜っっ///」と自分の顔を腕で隠してしまった。
白石さんの顔が見えなくなったので不安になっていると、腕の隙間からはみ出た耳元が赤く染まっていることに気付く。
『しら…』と私が話す口を塞ぐように、柔らかい唇がそっと触れた。
『!え?///』
白「今のは…りんちゃんが悪い」
いつの間にか身体を起こしていた白石さんと、頭の後ろに伸ばされた掌に抗う気持ちなんてなくて。
私は"大好き"が伝わることを願いながらそっと目を瞑り、甘い口付けにまた1つ幸せを感じていた。
……この後、白石さんは靴擦れした私をおんぶして家まで送ってくれて、何故か不機嫌なお兄ちゃんとお父さんと、何故か上機嫌なお母さんと菜々子さんに事情を説明することになったのでした。
