君に溺れる
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部屋に戻らず、りんは外の空気を吸おうと宿舎の周りを歩いていた。
とぼとぼとゆっくり歩く姿が落ち込んだ影となり、地面に映っている。
『(また逃げて来ちゃった……)』
いつも、どうして肝心な時に逃げ出してしまうのだろう。
自分のヘタレさが心底嫌になる……
りんは目の奥がじわりと熱くなるのを感じていると、「……りんちゃん!」と響く声に振り返った。
『っ白石さん……』
白「部屋に居らへんから探したで………って、泣いとるんかっ?」
りんの顔を見るなり、はっと目を見開いて驚く白石。
慌てて腕で隠そうとしているとその手を取られ、心配そうな顔が覗き込んでくる。
白石の長い指が涙を拭ってくれて、その優しい仕草にりんの胸はまた苦しくなった。
『ご、ごめんなさい、』
白「?何で謝るん…?」
『名前……ちゃんと呼べなくて、ずっと敬語で……』
"白石さん"
赤也の言う通りだった。
付き合って1年以上経つというのに、りんは未だに白石を名字で呼んでいる。
前に勇気を出して、下の名前で呼んでみたことがあったが……
その時はやたら緊張してしまい、吃ったり、心臓が飛び出そうなほど煩かったことを覚えていた。
『白石さんは、嫌にならないですか?』
白「嫌って……りんちゃんのことを?」
コクンと顔を縦に振ると、聞こえた小さな溜め息に体が震える。
恐る恐る前を見ようとしたりんの頭に、ふわりと白石の手が乗せられた。
白「そんな小さなことで嫌になるわけないやろ?俺のこと見くびりすぎやで」
『……で、でも』
白「大体なぁ、俺がどんだけりんちゃんのこと大好きやと……」
『?』
ブツブツと独り言を唱えながら頭を抱え出した白石を、りんは大人しく見つめていた。
白「っとにかく、りんちゃんは無理せんとそのままでええんやからな」
『!はい…っ』
優しい手つきで頭を撫でられて、りんは安心したように笑顔になっていく。
白石はそんなりんを柔らかい眼差しで見つめながら、先程ロビーで話していたことを思い出していた。
白「(まぁ…やっぱり妬いてまうけどな)」
赤也以外にも、りんに名前で呼ばれている男子はたくさんいる。
りんにその気はないとわかっていても、モヤモヤしてしまうのは許して欲しい。
白石が静かに葛藤している中、りんは別のことを考えていた。
『(……でも、ちょっと挑戦してみたい…かも)』
思えば、白石は出会った頃からずっと下の名前で呼んでくれている。
それに…年下だからと癖になっているが、ずっと敬語というのもどうなのだろうか。
『も、もしもなんですけど…っ』
白「ん?」
『私がタメ口で話したらどう思いますか?』
白「え?そんなん全然ええけど…」
白石は目を丸くしながら何かを考え、「…りんちゃん気付いてへんの?」と呟く。
キョトンとする顔を見つめながら、白石は眉を下げて微笑んだ。
そっと柔らかな頬に触れると、じんわりと桃色に染まっていく。
対するりんは突然白石の熱を感じて、その距離の近さにドキドキと鼓動を鳴らしていた。
『(ち、近い……すっごく見られてる…///)』
りんの心情を知ってか知らずか、白石は端正な顔をどんどん近付けてくる。
やがてりんの耳元にぴたっと止まると、「…復唱して」と甘く囁いた。
『ふ、復唱?』
白「赤也先輩」
『?あ、赤也先輩』
白「謙也さん」
『謙也さん』
白「小春さん、ユウジさん」
『…小春さん、ユウジさん』
白「ジロちゃん、がっくん」
『ジロちゃん、がっくん……あの、白石さ「蔵ノ介さん」
より一層、低く甘い声が鼓膜を刺激して、りんはくらりと目眩がしそうになった。
白石をそっと見上げると、何故か緊張したような真剣な面持ちで自分を見据えていて、りんは覚悟を決めたようにそっと口を開けた。
『……蔵ノ介さん』
「うん」とすぐに返事が返ってくることが嬉しくて、りんはとんっと甘えるように彼の胸に頭を寄せる。
『……蔵ノ介さん………す、好き……』
自然と口から溢れていた言葉に、自分自身で驚きながら。
どんどん募っていく気持ちは抑えられそうになかった。
『大好き………』
カァアアと顔が赤く染まっていくのがわかり、りんは暫くぎゅっと白石の服を握っていた。
鼓動を整えながらも何とか顔を上げると、白石は瞳を細めて微笑んでいた。
白「………よく言えました」
その顔があまりにも嬉しそうで、愛でるような視線を向けられてしまうと胸がきゅっと苦しくなる。
安心したように微笑み返したりんだったが、『そ、それじゃあ…おやすみなさいっ///』と結局だっと逃げ去ってしまった。
『(どうしよう、どうしよう……ずっとドキドキしてる)』
白石の嬉しそうに笑った顔、甘く囁いた熱っぽい声が頭から離れない。
存在自体が媚薬のような彼に、毎日恋に落ちているというのに……これ以上溺れてしまったら、どうなってしまうのだろう。
『……でも、呼べて良かった』
熱を冷ますように両手を頬に当てながら、りんはやれば出来るのだとこっそり自分を褒めていた。
一方、取り残された白石はというと……
白「(あああああ何やねんあの可愛すぎる反応は……!!!?)」
その場にへなへなと腰が抜けたようにしゃがみ込み、りんの可愛さを思い出しては頭を抱えていた。
白「っっも〜…ほんまに堪忍してほしい……」
正直、りんに何と呼ばれようがタメ口だろうが敬語だろうが気にならない。
りんが自分を意識してくれる、悩んでくれる、その全てが嬉しいから。
それに、大好きだと……一生懸命に伝えてくれた。
白「(りんちゃんって甘える時にタメ口になるんよなぁ…)」
これは本人も気付いていない、寧ろ自分だけが知っている特権なのだろう。
はぁ、と幸せな溜め息を吐きながら、白石はまた今日も彼女に溺れていくのだった。
***
白石さんに「よく言えました」と言ってほしいが為に書いたお話です。。笑
この2人の『白石さん』と「りんちゃん」呼びが好きでなかなか変えられません。
謙也も『謙也さん』呼びなんですよね。
謙也が可哀想ですが、白石さんにはちょっと嫉妬してて欲しいです(^o^)
