小話
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ふわりと肌を掠める風に誘われるように、ふと顔を上げた。
雲1つない青空に桜の木がかかって、絵になりそうなくらい綺麗。
私は自然と桜の花弁を目で追っていると……隣を歩く彼の頭にふわっと付着したのを見付けた。
『(あ……)』
頭の上にある桜の花弁を取ろうとして、はっと手を止める。
桜の中を歩く姿がすごく似合っていて……取ってしまうのが勿体なくて。
そんな私に気付いたのか、「りんちゃん?」と白石さんが歩みを止めた。
『あ…えと、桜!綺麗ですね、』
白「ほんまやなぁ。ここって、東京でも有名なとこなんやろ?」
『はいっ毎年人でいっぱいなんですけど、今日は空いてるみたいで良かったです』
白石さんと動物園でデートをした、帰り道。
丁度近くに公園があるから寄って行こうということになって、満面の桜並木の中を並んで歩いていた。
こんな綺麗な場所を白石さんと一緒に共有出来ることが嬉しくて、ぎゅっと繋がった掌に力を入れる。
すぐ握り返してくれることにまた嬉しくなって、頬がにんまり緩んでいった。
『ふふ、』
白「何やー?ニコニコして、」
「可愛い」と笑う白石さんも愛しくて、きゅんと胸が締め付けられる。
『(白石さんって、ほんとに桜が似合う…)』
ふんわりと包み込むように柔らかくて、すごく綺麗で。
そっと白石さんを見上げると、満面に咲き誇る桜をただ静かに見つめていた。
白「……明日は天気悪いみたいやから、今日来れて良かったな」
そう呟き、白石さんの髪に付いていた花弁が風に乗って離れていく。
その花弁を追う横顔があまりにも綺麗で、桜の景色に溶け込んで見えた。
『…………っ』
私は何故か無性に寂しくなって、ぎゅっと白石さんに抱き付いていた。
桜は、柔らかくて、綺麗で、"儚い"から……
『(………何処にも、行かないで)』
白石さんが、この淡い色と一緒に消えてしまうんじゃないかって……そんな風に不安に思ってしまう。
ぎゅうっと子供みたいに抱き付く私に、白石さんがふっと微笑んだのがわかった。
白「甘えん坊やなぁ、りんちゃん」
『…っ白石さんの、せいです、』
白「え、俺のせいなん?」
コクコクと頷けば、「んん…」と困ったように唸る声が降ってくる。
ぎゅっと私より強い力で抱き締め返してくれるから、甘えるように頭を擦り付けた。
『(………大好き)』
白石さんが好きで、愛しくて。
私の全部で恋をしているから……苦しい。
微かに震える体を隠すように身を丸めていると、「りんちゃん」と柔らかい声がして。
ゆっくり顔を上げると、瞳を柔らかく細めて私を見据える白石さんがいた。
白「大丈夫、俺はここにおるから」
『っ白石さん、』
白「せやから……りんちゃんも離したらアカンで」
「ずっと、捕まえててな」
そう言って、白石さんは照れたようにふんわりと頬を緩めた。
また春風が吹いて、桜色の花弁がひらひらと舞う。
白石さんの背中でも淡い色が舞っているのが見えて、私は何故か目頭を熱くさせた。
『(……やっぱり、綺麗)』
どうか、少しでも長く桜が咲いていられますように。
この先もずっと、白石さんの傍にいられますように。
そう願いを込めながら……私はまた白石さんの熱を求めて、その腕に包まれた。
