イチャイチャしないで②
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高校1年の冬。校舎を出た瞬間に冷たい風に襲われ、俺は首に巻いたマフラーに顔を沈めた。
今日は部活もあらへんし、白石と紅葉ん家のお好み焼きでも食べに行こうかと話していた。
謙「(今年は平和に終わったわ…)」
明日はバレンタインデー。当日は土曜やから、今日学校にチョコを持ってくる女子達が殆どで。
"白石に彼女がいる"という噂が広まっとるお陰で、「渡して欲しい」と頼まれることも減り……
俺も1日穏やかな気持ちで過ごすことが出来た。
気分良く歩いとると、校門の所に怪しい人影を見付けた。
縁の大きな帽子を目下まで深く被り、サングラスを掛けてキョロキョロしとる。
謙「(あ、怪しすぎるわ…)」
ここは関わらんとこうと颯爽と通り過ぎようとした時、その人物が『は!』と小さく声を溢した。
俺が勇気を出して視線を合わせるのと、相手がサングラスを外したのはほぼ同時で。
謙「りんちゃん!?」『謙也さん!』
見事に声が重なり、下校中の生徒の視線が突き刺さる。
俺はそれに構わず、突然目の前に現れたりんちゃんに只々驚いていた。
謙「りんちゃん、何で学校に……いや大阪に居るん??」
『えと、今日私の学校が創立記念日でお休みなんです。明日から土日なので、お母さんと一泊する予定で来ました』
一生懸命に説明する声を聞きながら、俺は漸く事を理解してきた。
謙「そっか、白石に会いに来たんやな」
『っ!は、はい///でも、白石さんには内緒にしてるんです。驚かせたくて……』
謙「せやかて、かなり怪しかったで?」
『!う、』
絶対バレたくないと思っての格好なんやろうけど、動きからして不審者やと思われても可笑しない。
思わずじっと見てしまっとると、『謙也さん?』と首を傾げられて頬が熱くなった。
謙「っいや……白石は日直やから、あと少しで来ると思うで」
『はいっあ、そうだ』
手に持っていた紙袋を探り、『これ…良かったら』と小さな箱を差し出される。
「へ、」と間抜けにも放心してまう俺に、りんちゃんはふわりと微笑んだ。
『バレンタインデーのチョコです。トリュフなんですけど、謙也さんお好きですか?』
謙「お、おお!トリュフ大好きやで…!!」
『ふふっ良かったぁ』
高揚した気持ちでりんちゃんからそれを受け取った時、その手がひんやりと冷たいことに気付く。
「めっちゃ冷えとるやん!」と驚きで叫んでまい、俺は咄嗟にその小さな手を握っていた。
謙「手袋せな、霜焼けになってまうで!」
『!あ、あの…っ謙也さ「なーにしとるん?謙也、」
慌てて自分の手袋を取っていた時、呆れた声が近付いてきて。
「白石!」とその姿を見た瞬間、自分のではない掌の熱を漸く感じ取った。
謙「!か、堪忍な…!///」
白「校門でナンパすんのやめや?目立ってたで」
冗談っぽく溢しながら俺から視線を移した白石は、ピクッと反応する。(多分、りんちゃんレーダーが反応したんやろ…)
そっと顔を上げたりんちゃんは変装を解き、『白石さんっ』と無邪気な笑顔を向けた。
ぱあっと目を輝かせながら、嬉しさを隠し切れないような反応にときめいてしまったのは……白石だけやない。
慌てて視線を逸らせば、鳩が豆鉄砲を喰らったかのように呆然と立ち尽くす白石が居った。
白「………………………………りんちゃん、」
『はいっ』
白「ほんまのりんちゃん……?」
『本物のりんです!』
『えへへ』と笑いながら、りんちゃんは白石の元に駆け寄る。
暫く放心していた白石はハッと覚醒したように目を見開き、自分の腕で顔を覆った。
白「……っんまに、堪忍してや…………サプライズすぎるで」
『連絡せずにごめんなさい。でも、白石さんの驚いた顔が見たくって、』
『会いたくて……』と顔を赤く染めながら、小さな声で呟くりんちゃん。
腕を下ろした白石の顔もほんのり朱に染まっていて、その目にはじわじわと嬉しさが滲んでいた。
すっと伸ばした手は、りんちゃんの高揚した頬に自然に添えられとる。
白「俺も、会えてめちゃめちゃ嬉しい」
『!』
白石の顔を見上げていたりんちゃんは、『は、はい…///』ともじもじと体を揺らした。
謙「(……俺は何を見せられとるんやろ)」
人にはナンパ(やないからな…!///)を注意しときながら、自分は校門の前で堂々とイチャつき出すってどういうことやねん……
今更何も思わんけど、せめて場所は選んでくれ。
俺の嘆きも虚しく、校門で見つめ合う2人をすれ違う生徒がちらちらと見ていた。
『あの、これ、バレンタインのチョコ……』
手に持っていた紙袋を渡そうとして、ピタリと動きを止めるりんちゃん。
その視線が白石の手元にあるとわかった瞬間、俺の顔も白石と同じように気まずいものに変わっていった。
白「っあ、これな…朝下駄箱に入ってて、手渡しのはちゃんと断っとるからな?」
『は、はい。(す、すごいいっぱい……白石さんって本当にモテモテなんだ、)』
謙「(ああ…りんちゃんの考えとることがわかる)」
こないジャ◯ーズみたいなモテ方しとるんやから、りんちゃんが驚くのも無理はない。
もうマネージャー役は懲り懲りな筈やのに、「そや!歩きながら話そか??」と気付いたら提案しとって。
2人は捨てられた子犬のような顔で俺を見た後、ゆっくりと頷いた。
***
謙「(………で、何や?この状況は)」
左には白石、右にはりんちゃん。その真ん中で、挟まれるようにして歩く俺。
謙「(いやいや、普通に俺居らんくてええやろ…!)」
「ほな、俺はここで!」と帰ればええのに、結局放っておけない自分に溜め息を吐きたくなる。
肝心な2人はというと、さっきからやけに静かで怖いし……
「白石?」と心配になって尋ねる俺を、「なぁ、謙也」と小さな声が呼んだ。
白「ちょっと俺のこと殴って気絶させてくれへん?」
謙「何て?」
こいつ、頭可笑しなったんか?
俺の呆れた視線に気付かない白石は、顎に手を添えながら何かを考えていた。
白「いや…昨日の夜に戻って学校に監視カメラでも仕掛けておければ、チョコを下駄箱に入れた子の特定が出来て、返せるんやないかと思って」
謙「いや、気絶しても過去には戻れへんからな!?」
俺のパンチなんだと思っとるん!?
もしやボケか?と思うも本人が至って真剣な顔付きをしとるから、ああ、本気で言うてるのか…と白目を剥きそうになった。
『…あの、謙也さん』と今度はか細い声で呼ばれ、振り向くと不安そうな顔で俺を見上げるりんちゃんがおった。
謙「ど、どないしたん?」
『教えて欲しくて……』
その表情に胸キュンしてしまったのは見逃して欲しい。
りんちゃんは俺の奥にいる白石を気にしつつ、ぎゅっと目を瞑った。
『どうしたら、過去に行けるんでしょうかっ?』
謙「りんちゃん???」
何やさっきから……タイ◯マシーンでも必要なんか??
突然過去に行きたがる2人に、俺は訳がわからず目を白黒させる。
『過去に行って……もっと早く大阪に来て、誰よりも先に白石さんにチョコを渡したいです』
泣きそうに顔を歪めるりんちゃんを見て、白石に駆け寄った時の、花が咲いたような笑顔を思い出した。
ほんま……似たもの同士やなぁ。
謙「……白石な、ずーっとりんちゃんのチョコ待ってたんやで」
りんちゃんがはっと息を飲むのを感じながら、俺は今日1日を振り返りながら話した。
謙「朝から妙にソワソワしとるし、"チョコ今日届くんやって!"って携帯まで見せてくるし、ほんっま分かりやすくてな」
あの蕩けっぷりは、今にも携帯の待ち受けのりんちゃんにキスするんやないかと思うほどで。
モテるのは相変わらずやけど、白石は呆れるほどりんちゃんしか見てへん。
りんちゃんは目を丸くして俺を見つめた後、ぎゅっと決意したように紙袋を握る。
『っ白石さん』とまだブツブツ何かを呟いとる白石の前に立った。
『あの、バレンタインのチョコ……貰ってくれませんか?』
白「!」
『ちょっと出遅れちゃいましたけど、でも、白石さんを大好きな気持ちは一番だから』
りんちゃんは、ふわりと恥ずかしそうに微笑む。
「うん…おおきに」と嬉しそうに頬を緩ませた白石は、りんちゃんの掌を包むようにそれを受け取った。
謙「(ったく……良かったな、)」
落ち込むのも、喜ぶのも、お互いのことが大好きやからで。
いつものように仲良く話し出した2人を見つめとったら、ふっと口元が緩んだ。
謙「(恋ってすごいわ)」
白石がりんちゃんの話をする時も、一緒におる時も。
愛しくて愛しくて、仕方あらへんって顔をしとるから。
毎年、バレンタインデーを憂鬱そうに過ごしていた……あの頃の白石に見せてやりたい。
親友の幸せそうな姿を見届けた俺は、「ほな、またな」と先を歩くことにした。
***
……うん。確かに俺「またな」って言うたよな?
謙「せやから……何で俺居らなアカンの!!?」
水を吐き出す勢いでツッコめば、"お好み焼き カエデ"が声で揺れた気がした。
唸る俺に、「謙也、うっさい」とお好み焼きを焼いていた紅葉が盛大に溜め息を吐く。
え……溜め息吐きたいのこっちなんやけど……と納得出来へん顔をしとると、「そうやで謙也」と問題の男が口を開いた。
白「あんま細かいこと言っとるとモテへんで?」
謙「……その綺麗な面、殴ったろか?」
『!あ、あの…っ』
正面に座る白石に怒りが込み上げ、さっき自分から頼んできたんやしええよな?と拳を握り締める。
その隣に座っていたりんちゃんは、『謙也さん、急に割り込んじゃってごめんなさい』と慌てて頭を下げた。
謙「いや、俺こそお邪魔虫で堪忍やで………」
『いえ…っ謙也さんとお話しするのすごく楽しいです。さっきも、ありがとうございました』
ニッコリと微笑んだりんちゃんに、又もやきゅん、と胸の奥が反応してまう。(「ほんまチョロいっスわ」by財前)
「あれ、謙也もチョコ貰えたんや」と、ふと紅葉が俺の鞄を見つめながら言った。
謙「へ!?ああー…せやな、」
紅「その包み、蔵が貰ったのと似てるような」
謙「!気のせいやないかな???」
明らかな義理チョコでも、白石にバレでもしたら「…俺より先に貰ったん?」と面倒臭い嫉妬をされるに違いない。
「ほーん」と紅葉のニヤニヤした視線を受けながら、俺は誤魔化すようにお好み焼きを口に入れた。
白「これ、俺が食べたいって言ったトリュフやろ?覚えててくれたんやな」
『はいっお口に合うといいんですけど…』
白「…ん、めちゃくちゃ美味しいわ。ありがとうな、りんちゃん」
「お返し楽しみにしててな」と甘く微笑みながら、ちょいちょいとりんちゃんを手招きする白石。
何かを耳打ちするとりんちゃんの顔がみるみる内に真っ赤に染まっていくから、聞こえなくとも察してまう。
『し、白石さん…!///』
白「ははっりんごみたい。も〜かわええなぁ」
謙「〜〜っそういうのは頼むから家でやってくれー!!」
俺の全力の叫びも、残念ながらイチャつくカップルには聞こえてへんくて。
今度こそ白目を剥く俺の肩を、紅葉が"諦めや"と言うように無言で叩いたのやった………
***
遅ればせながら、バレンタインデーのお話でした。
謙也さん、大好きなんです。
何故かヘタレ&苦労人にさせてしまいますが、大好きです。
きっと白石さんとりんちゃんも謙也のことが大好きで、謙也も(何やかんや)2人のことが好きで放っておけないのかなと。
この後、四天宝寺の皆にもチョコを渡して欲しいとりんちゃんが白石にお願いして、数が一個足りなくて、結局謙也が先に貰ったことがバレてしまうという。。。(;▽;)笑
