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「白石くん、はいっバレンタインデーのチョコレート!」
「私からもあげる!」
「私もーっ」
朝正門を潜ると、謙也の視界に飛び込んで来たのは、女子からチョコレートの襲撃を受ける親友の姿だった。
苦笑、という感じで受け取り、「おおきに」と言っただけでキャー!と歓声を上げる女子。
お前は芸能人かと思わずツッコミを入れたくなる。
謙「…毎年ご苦労さんやなぁ」
白「ああ、謙也」
パタパタと賑やかに足音を立てながら女子達は去っていき、やっと隙が出来た白石に話しかける。
白「まだバレンタインの前日やったよな?」
謙「そのはずやで。半分持とか?」
白石は平気や、と微笑する。
昔っからのことなので慣れているが、やはり毎年驚きを隠せない。
白石はこの外見なので、言うまでもなく、女の子からはかなりモテる。
謙也も決してモテないことはないが(本人が鈍感なだけ)バレンタインデーと言えば、クラスの女子達から義理チョコを貰った記憶しかない。
謙「(あの子ら、可哀想やな)」
積極的な女の子が苦手な白石にとって、バレンタインデーのあの襲撃は逆効果なのだ。
それを知ってる白石ファンの女子達は、なるべくおしとやかに行動するようにしていて、それも健気やなぁと謙也は染々思う。
やっと校舎に辿り着き下駄箱を開ければ、ドサッと沢山のチョコレートが隣から落ちてきた。
白石は小さく息を吐くと鞄から袋を取り出し、それを広げ中に一つ一つ入れ始めた。
謙「準備ええな…」
白「あー…姉ちゃんに持ってけ言われてな」
謙「え、実家帰って来とるんや」
談笑しながらも無事教室へ行くと、窓際一番後ろの謙也の席に座り、机に頬杖をつく男の姿があった。
二人の存在に気付くと耳にしていたヘッドホンを外し、小さく一礼する。
財「おはようございます、先輩らギリギリっスわ」
白「おはようさん、財前」
謙「いやいや、ツッコまんかい!!何で当たり前のように三年の教室におんねん、しかも俺の席に…」
慌てる謙也に、財前は「朝から元気ですね」と感心してるのか馬鹿にしてるのかわからない顔をした。
財「やって女子煩いんですよ、いらへんって言うてんのにしつこいし。逃げて来たんですわ」
謙「あーそれで…モテ男の悩みっちゅーことか」
財「…まぁ、一個も貰えない謙也さんよりマシですけど」
謙「可哀想に言わんでくれる!??」
謙也は財前を無理矢理退かし、自分の席に勢い良く座る。
「どーせ俺は…」とブツブツ呟きいじける先輩に呆れつつ、財前は顔の向きを変えた。
財「さすが部長ですね。そんなもろうてどないするんですか」
白石の抱える袋を見つめて言う。
白「折角くれたんやから、貰わなきゃアカンやん」
財「…俺は全部断わっとりますよ」
「本命おるし」と、少し声を低くして呟いた。
白石が前を向くと、真っ直ぐ自分を見据える財前と視線がぶつかった。
白「…告白は断わっとるけど、それとは関係ないやろ」
財「そうですか?俺は一緒やと思いますけど」
暫く何も言わず睨み…見つめ合い、二人の背後から黒い何かが現れそうになる。
謙「あ、あ~二人共!チャイム鳴ってまうでぇ、財前も早よ戻りや!」
危険な空気を察した謙也は、慌てて二人の間に割り込み止めに入った。
財前が自分の教室へと戻って行った後、「まったくあいつは…」と嵐のようだったと謙也は溜め息を吐く。
謙「白石、気にしたらアカンで?」
白「………」
隣の席に座る白石に、半分怯えつつも励ます謙也。
白石はおんと頷いたが、その表情は何処か曇っているようだった。
朝の慌ただしい雰囲気も薄れて、やっと平和な昼休みが訪れた。
紅「あれ、蔵は?」
お弁当を持ち席を移動して来た紅葉は、白石の姿がないことに首を傾げた。
パンを頬張りながら、謙也は携帯電話から顔を上げる。
謙「一年の女子に呼ばれて、どっか行ってもーたで」
紅「ほーん…王子様は大忙しやな」
謙「王子様?」
紅「蔵。女の子達の間でそう呼ばれとんのや」
ああーと納得する謙也。
目の前でお弁当を広げる紅葉を見ながら、朝白石が見せた表情を思い出していた。
謙「…なぁ、」
紅「んー?」
謙「りんちゃんって白石のことどう思うてんのかな…」
ぶはぁと、飲んでいたお茶を吹き出す紅葉。
謙也は「汚ないわアホ!」とさっと体を避けるが、紅葉にとっては謙也の方がアホだと感じていた。
紅「…あんた、それ本気で言うてんの?ボケとるんやなく?」
謙「は?ボケ?白石やないんやから」
紅「………」
どうしてこうも周りには天然が多いのだろうかと、頭を抱える。
りんを見てれば誰が好きかなんて一目瞭然なのに、何故気付かないのか。
紅「突然どないしたん…蔵が何か言ったん?」
謙「いや…ただな、白石ってりんちゃんに感情が左右されやすい思うねん」
謙也は、急に真剣な顔付きになる。
紅「…ああ、最近元気ないもんなぁ」
最近の白石はどことなく元気がなく、以前のように紅葉の店に来てりんの話をすることもなくなっていた。
たがら何かあったんだと薄々気付いていたが。
謙「せやろ。やから、りんちゃんが足りてへんやないかな」
紅「…謙也、何かそれエロいわ」
謙「はぁ!?何でやねん!」
この後、教室にいたクラスメートからうるさいと苦情を受ける謙也だった。