流川/もし執事だったら

  • 流川

    今日のスケジュールです

  • 朝起きて、髪の毛を結っているとスッと差し出された今日の日程がびっしり事細かに記入された1枚のプリントを手渡される。

  • エリナ

    ありがとう、悪いけど髪をセットしてくれるかしら?

  • はい、宜しくねと櫛とドライヤー、ヘアスプレーが入った籠を手渡し、スケジュールに目を通し始める。
    受け取った流川はうす、と小さく返事をして慣れた手付きでドライヤーのスイッチをオンにしてエリナの綺麗な髪を梳かしていく。

  • 流川は2年前から仕える執事だが、無口で無愛想なのは全く変わらない。顔立ちは綺麗なのだから、もう少し笑ったら?と言っても申し訳ございませんと謝られて、一向に直る気配がないのでエリナの方から諦めた。
    その代わり、仕事はきちんとこなしてくれるので無口、無愛想の点は大目に見ている。

  • エリナ

    えーと、午前は取引先の会議と午後から隣国のパーティ…それから食事会か。中々ハードになりそうね

  • ふぅ、と小さく溜息を吐いて目を閉じる。
    流川の細く長い指が柔らかい髪を通り一本一本丁寧にブラッシングしてくれるので思わず欠伸が出そうになる。美容院へ行くとシャンプーが気持ち良くて寝てしまうような感覚だろうか。
    しかし、目を瞑っていても頭の中で今日の行事の事を考えている為、完全にリラックスはしていない。

  • エリナ

    あっ!

  • 流川

    如何なされましたか?

  • ドライヤーの温度が高かったのか、櫛が耳に当たったのか。手を止めてエリナの顔を覗き込んだ。

  • エリナ

    いいえ、楓のせいじゃないわ。以前に貰った隣国の王子様からラブレターを頂いたのだけれど、返事がまだだったの…。

  • 一家としても、この王子が私の婿になるとより事業拡大になりお父様もお喜びになるのよね…と言葉を続ける。本当はその王子の事は好きでも何でもないが、名家のお嬢様として生まれた為、自由な恋愛をする訳にいかず政略結婚が無難だろう。
    そんな事を考えていると、流川がその手紙を手に取り、床に投げ捨てた。

  • エリナ

    あ!何するの!

  • 流川

    こんな奴にエリナ様を渡したくないです

  • エリナ

    な、何を言って……

  • 流川

    もし、心に決めた人なら何も言いません。でも、辛そうな顔するなら俺が貰います

  • 刹那______唇が重なり合い、目を開くと彼のサラサラの髪が流れ落ちる。
    狡いよ…。普段は無口なのに今日に限っては口数が多くて、判断が鈍る発言をするんだから。
    その日は王子様との婚約を破棄した為、父と口論したがその顔は何処か爽やかなエリナであった。
    流川が後にエリナと交際を始める日は意外と近い。

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