四、夜の散歩

 ——箒に乗っていると時折、思い出すことがある。

 四、夜の散歩

『あーーー、暇』
 その日フロイドは暇つぶしに箒で空を飛んでいた。
 ウィンターホリデー期間だったから、授業はなかった。生徒を苦しめることを生き甲斐にしているナイトレイブンカレッジの教師陣による、課題という名のそれはそれは素晴らしいクリスマスプレゼントは大量にあったけれど……まァ今のフロイドにとっては気分じゃなかったし、かといって麓の街へ買い物に出かける気分でもなかったし。だからそこら辺にあった箒を適当に拝借して、その日のフロイドは適当に空を飛ぶことにしたのだ。いつも通りの、ほんの気まぐれである。
『……んあ』
 そうやってフラフラと学園の敷地内を飛んでいた彼がぽつりと呟いたのは、彼が空を飛ぶことにもだいぶ飽き始めた頃だった。そろそろオクタヴィネルに戻ろうか。いや、戻ってもどうせアズールとジェイドしかいねーしなァ。いつも通りのあいつらの顔見たって別におもしれーことないし……。半目でナチュラルにそんなひどいことを考えていたとき、ふと『面白そうなもの』が視界に入ったのだ。
『……あはあ』
 フロイドはにっこり笑って、器用に箒の方向転換をした。近付いてきたのはとある屋敷の二階の窓だ。彼は窓に触れられる距離まで近付くと、暫く中をじっと見て。それから口角を上げて、おもむろに口を開いた。『やっほー、小エビちゃん♡』
『ひゃ、うわあっ!?』
 はたしてそこはオンボロ寮だった。古めかしい、他の七寮と比べて随分と廃れている歴史ある寮。そんな場所の二階の角部屋を根城としているこの屋敷の主、オンボロ寮の監督生ことユウは、何やら難しい顔をして本を読んでいるところだったが。突然声を掛けられて、窓辺で大きく肩を跳ね上げた。まさに彼の名付けた渾名の如しだ。途端バサバサと大きな音と共に、真剣に読んでいた本を床に思い切り取り落とす。
『ふ、フロイド先輩……』
『どーもぉ、こんにちはぁ』
 一瞬何が起きたか分からない顔をしていたユウは、けれど心臓をバクバク言わせながら足元の本を見て、それから窓の外を見て。バチリと目が合ったヘテロクロミアの存在を認識して、ようやく事態を把握したらしい。眉を下げると、大きく溜息を吐いた。
『こんにちは……。びっっっくりした……心臓飛び出るかと思った……』
『んはは、すげービクッてしててウケる』
『だっ、誰だって窓の外から急に声掛けられたら驚きます! 普通に玄関から入って来てくれたら良いのに』
『えー。だって箒乗ってたら小エビちゃん見かけたんだもん。わざわざ下まで行くの面倒くせーし、ここから入ったほうが楽じゃん』
『ナチュラルに不法侵入……』
『声掛けてるんだから不法侵入じゃないってえ〜』
『何ですかその理屈……小エビの心臓に悪いんですってば……』
 フロイドはケラケラ笑いながら窓枠に長い足を掛けると、そのままひょいっと部屋に入り込んだ。
『お邪魔しまぁす』
 悪びれもなくそう言って訪問するのは別に、今に始まったことではない。何度目かの独特な方法で部屋に侵入——もとい訪問した彼は、辺りを見渡した。それから片眉を上げて、『あれ。アザラシちゃんは?』と問う。
『ああ、グリムならさっきオクタヴィネル寮に向かいました。余っているターキーとかがあったら分けてもらってくるーって』
『え。そうなの』
『はい。入れ違いでしたかね? 先輩が陸路で来てたら、もしかしたら道端で会えてたかも——あれ、もしかしてグリムにご用でしたか?』
『んーん、空の散歩してたら小エビちゃん見掛けたから遊びに来ただけ〜。つーかアザラシちゃんいねーんならさあ、オンナノコ一人で窓開けて読書とか危ねーじゃん。不審者来たらどうすんの』
『う。だって、今日暖かかったから心地良くて……。っていうか、現在進行形で窓からプチ不法侵入してきたひとがそれ言います??』
『んー?』
『……』
 フロイドはニッコリ笑って誤魔化した。平べったい目をして自分を見上げるユウからのらりくらりと視線を外すと、床に落ちていた本をひょいと拾い上げる。どうやら児童書のようだ。分厚い表紙を捲ると中には沢山の活字が書かれていて、彼はそれをパラパラとめくってからユウに差し出した。『ありがとうございます』『どういたしましてぇ』短くそうやり取りをしたあとで、フロイドは改めてユウの手の上のそれに目を向ける。
『つーか、ナニソレ。何の本なの?』
『これですか? えっと、東方のおとぎ話です』ユウは手持ち無沙汰にパラパラと本をめくってから、表紙を撫でた。『前に東方の別のお話を読んだら、世界観が面白くて。それで図書委員長のチャド先輩に他の作品も色々おすすめを教えてもらって、色々ホリデー中に読むことにしたんです』
『ふーん。面白い?』
 ユウは一瞬固まった。ちらりと本に視線を向けてから、一拍置いたのち。『はい!』と笑顔で返事をする。
『……?』明らかに何かを隠している。フロイドは僅かに眉を顰めてから、小エビの顔を覗き込んだ。『なぁに、その微妙な返事』
『へ』
『別につまんないならつまんねーって正直に言えば良いじゃん。一緒にトビウオちゃんに文句言いに行く?』
『!? ち、違います! 本当に面白いんです!』
 どうして分かったんだとでも言いたげな顔で、ユウは必死にぶんぶん首を横に振った。けれどそれでも訝しげな様子のフロイドを見て誤魔化しきれないと悟ったのか、言葉を選ぶようにして『ただ……』と言葉を続ける。
『その、私にはちょっと難しくて』
『ムズカシイ? え。それ児童書なんじゃねーの』
『そ、そう、なんですけど、』ユウは言いにくそうにうろうろと視線を彷徨わせた。『……このおはなし、分からない魔法植物が沢山出てくるんです。お恥ずかしながら読んでいてもどんなものなのかいまいち想像ができなくて、その——情景があんまり想像できない部分がたまにあるといいますか、』
『? んなムズカシイ植物出てくる話なのぉ?』
『あ、いえ……私の知識が乏しすぎるだけだと思います。その、私まだ魔法植物のことをほとんど知らなくて……』
『んえ』
『覚えようと思って、図鑑見てみたりオンボロ寮の裏手の庭で色々眺めたりしてみてはいるんですけど——いかんせん、元の世界には無かったものばっかりで』
 フロイドは本に視線を落としてから、改めてユウを見た。彼女は頬を掻きながら、困ったように眉を下げて小さく笑っている。フロイドはそれを見てふと思い出したように『あー、そういえば』と口を開いた。
『小エビちゃんって異世界から来たんだっけ。マジでそっちの世界に魔法って無いのぉ?』
『はい』ユウが頷く。『魔法がないから、もちろん魔法植物なんてものも無いんです』
『えーナニソレ。じゃあホントにほとんど知らないんじゃん』
『そうなんです。魔法薬学の授業で出てきたやつとかなら、少しずつ分かるようになってきたんですけど……魔法植物ってなんか難しくて、ちょっと苦手で』
『ふーん。あは、なんかおもしれーね』
『おもしろ……? そうですか……?』
 正直フロイドにとって今一番面白いのは、先程から百面相をしながら本とにらめっこをしているユウなのだが。しかし彼女はそんなことを知る由もないので、先輩は異世界に興味が湧いたのかなぁとぼんやり思った。すると唐突に、フロイドの端正な顔が本を覗き込む。彼はパラパラと本をめくってから、『んで?』と唐突に口を開いた。目を上げて、話の脈絡についていけずにきょとんとした少女を見やると。そのまま言葉を続ける。
『どれが分かんねーの?』
『え?』
『分かんないんデショ? オレも別に陸の植物にそこまで詳しくはねーけど、ある程度なら分かるよぉ。なんか今気分良いから、教えたげる』
『! ほ、ほんとうですか』
 ユウはフロイドを見上げて、瞠目して。直後僅かに身を乗り出した。『ウィンターホリデー期間で図書室も閉まってるから、図鑑で調べることもできなくて困っていたんです』——声を弾ませながらそう言って、フロイドから返された本を何度かぺらぺらとめくって。ややあって一つのページで手を止めると、白い指でとある単語を指した。
『一番困ったのはこれです。この話に出てくる、マレルナって魔法植物。作中に何度も登場するけど全然聞いたことがないし、この——〝光って飛び跳ねた〟? って記述がよく分からなくて。花が光って飛び跳ねるんですか……? それともフィクションだから大袈裟に言ってるんですかね?』
『あー、これよく海に咲いてる花だわ』
『う、海に!?』
『アいや、海っつーか……岩礁とか隆起サンゴ礁とか、そういう海辺に咲いてんの。毎年初夏と冬の二回花が咲くんだけどぉ——……』
 フロイドはそこで言葉を止めた。真剣に話を聞いていたユウが不思議そうに顔を上げたので、黒曜の双眸と視線が交錯する。
『? 先輩?』
 ややあって、ユウが首を傾げながら声を掛けた。フロイドはそれに呼応するようにして腕を上げると、ガシガシと後頭部を掻く。それから一拍置いて『ねえ、小エビちゃん』と言うと。パチパチ目を瞬く少女に、あのさあ、と一つの提案をした。
『説明すんのメンドーだからさあ、今から海行かね。そっちのほうがたぶん分かりやすいよぉ』
『……へっ!?』
『オレが連れてったげる〜』
 というわけで二人は急遽海辺に行くことになった。が、ユウは目と鼻の先にある賢者の島の海辺に着くまでの間にヘロヘロになることになった。というのも、慌てて出掛ける準備をしたユウはフロイドによって、彼の箒の後ろに乗せられて海辺まで連れて行ったのだが……彼のあんまりにもフリーダムな操縦を目の当たりにしてしまったからだ。
『はい、とうちゃーく。あれえ、小エビちゃん? 生きてる?』
『辛うじて生きてます……』
『んふ、プルプル震えててウケる。酔った? 小エビちゃんの腕、飛んでる間じゅうスゲーオレの腹に食い込んでたね』
『う……腕離したら死んじゃうと思って……』
『んふ、この世の終わりみたいなスゲー声出てたもんねえ』
 フロイドはケラケラ笑って、小エビの頭をぽんと撫でた。箒を魔法で仕舞い、若干グロッキーな彼女を連れて少し歩くと。ややあって潮の香りが更に濃い岩礁地帯に到着する。だいぶ日が落ちてきており、空にはゴールデンアワーが広がっていた。影を地面に長く伸ばしながら、二人はゆっくりと歩みを進める。
『というか、どうして箒で来たんですか? ここなら歩いても来られるような……』
『えー? だって歩くより楽じゃん。あとはぁ、気分?』
『とんでもない気分の時に当たってしまった……』
『あはあ、何か文句でもあんのぉ?』
『ナイデス……』
『んふ、だよねえ。——あ』
 揶揄うような目をしていたフロイドは、けれどつかのま足を止めた。きょとんと視線を向けたユウを一瞥してから軽く口角を上げると、『着いたよぉ』と言う。
『えっ』
『ほら、これ。これが小エビちゃんの気になってたマレルナってヤツ』
 そこに咲いていたのは、鮮やかな青色が特徴的な小ぶりの花だった。背の低い小さなそれらはひっそりと、けれど存在感たっぷりにそこにあり、強い海風が吹いても倒れることなくその場に佇んでいる。まだ本咲きではないのか所々蕾の花も見られたが、それでも群生地らしいこの場所では、充分にその美しさを感じることができることが出来た。
『わ。可愛いお花……』
 ユウはパッと目を輝かせて花に近付いた。あらゆる角度から花を眺めると、スマートフォンを取り出して興味深そうに写真を撮り始める。『写真撮んの?』フロイドが首を傾げると、『撮ります!』と思いのほか真剣な声が返ってきた。
『マジカメに載せるんです』
『あれ、小エビちゃんってそういうタイプだったんだ?』
『いえ、スマホ苦手だからマジカメ上手く使える自信はないんですけど……この間エースに実家に帰る時に、『お前危なっかしいから、投稿して生存確認させろ』って言われて。好きなものとか可愛いと思ったものを写真にとって投稿してみれば良って言われたんです。だから、投稿の練習してみようかなって』
『アー、なるほどねえ』
『とにかく、こんなに可愛いお花なんですもん。太陽が沈んだら綺麗に撮れなくなっちゃうから、早く撮っておかなきゃって思って』
『フーン……』
 結局ユウは投稿の仕方が分からず、数日後フロイドが手取り足取り教えることになるのだが——それはまだ先の話である。ひとまずこの時、陸のオンナノコが花とかそういう可愛いモン好きなのってホントなんだなあと、フロイドはぼんやりとそんなことを思った。陸に上がって三年経つとはいえ、いかんせん現在通っているのは全寮制の男子校なのだ。そういう話は都市伝説かと思っていたのだが……目の前の小エビを見て、それは違うらしいと認識を改める。都市伝説といえばもうひとつ、女の子に花が似合うというのは本当らしい。普段片割れが草木について一人でずっと喋っているときよりもずっと、今のユウには花が似合っている気がしたした。何となく。
『あの。この花が本当に光るんですか?』
 と、少女が問うた。フロイドはその声で我に返ると、隣によっこらせと屈む。膝の上で頬杖をつきながらユウを見やれば、夕日に照らされた黒髪がキラキラと輝いていた。嗅ぎなれた潮風に靡くそれを眺めながら、『そうだよぉ』と頷く。
『この花さあ、初夏と冬に咲くってさっき言ったじゃん』
『はい』
『その時期になるとさ、花粉を運んでくれる妖精に咲いたことを知らせるために、毎晩こうやって群生してる花が一気に光んの。大体時間帯は夕暮れ時から夜にかけてだからぁ——もうすぐ見られるんじゃね』
『もうすぐ……』
 空を見上げた二人の間に沈黙が訪れた。すぐ向こうではザザンと壮大な波の音が、寄せては返してを何度も繰り返している。太陽はゆっくりと地平線に向かっていて、世界のすべてが茜色に染まり始めていた。フロイドはその光景に僅かに目を細めてから、ふと口を開く。
『ね、小エビちゃん。太陽の花についての逸話って知ってる?』
『え? あ、はい。えっと確か——〝金色に輝く太陽の花の力によって周囲のものを若返らせる力を持って産まれたお姫様が、夢を叶えたり大事な人を見つけたりする為に外の世界に飛び出すっていう冒険譚〟?』
『せいかーい。あは、良く知ってんじゃーん。マレルナってねえ、その花のモデルになったか、もしくはその花の近縁種なんじゃねーかって言われてる花なんだって』
『きんえんしゅ』
『そ。仲間っつーか、近い種同士? みたいな。マアだからといってマレルナが光ったところで若返るワケでもねーし、そんな冗談みたいなウワサなんて現実ではありえないって、今じゃ世界中で研究され尽くされて結果は出てるらしいけど』
『へえ、詳しいんですね』
『んー、詳しいっつーか……元々海辺に顔出すことなんて昔からしょっちゅうだったから、この花とは馴染み深いんだよね。あと前にアズールが、この花を商売に使えないかって目付けてた時期があってさあ。スゲー色々調べさせられたから覚えてんの』
『あー……なるほど』
 太陽が沈んでいく。青や紫のグラデーションがとかく美しく広がり、薄明の空を彩っていた。フロイドはそれを見ながら、平べったい目をして言う。
『この花、見た目も悪くないじゃん? 色も形も綺麗だし、夜になると光るし。花言葉もそれっぽかったから、あのタコちゃんすっかり乗り気になっちゃってさあ。おかげでこの花のことだけ、ジェイドみたいに詳しくなっちゃった。
 マア、そもそも自分だって彼女出来たこと無いくせに、他人にあれこれ恋愛のアドバイスしてるアズール見てんのは面白いんだけどねえ』
『はは……』
 プライバシーも名誉もあったものではない。アズールに聞かれたらはっ倒されそうなことをさらりと言いのけるフロイドの言葉に、ユウは思わず苦笑した。それから一瞬考えると、フロイドのほうを見る。『っていうかこのお花、花言葉があるんですか?』
『ん? ウン、そーだよぉ。どんなだと思う?』
『え、どんな』
『オレ、小エビちゃんの独創性好きだからさあ。どんなネーミングセンス披露してくれんのか気になるなァ』
『それ褒めてます……?』
『褒めてるって〜』
『…………』
 ユウはジト目でフロイドを見てから、溜息を吐いた。それから改めて花を見て、うーん、と悩む素振りを見せる。
『花言葉ですよね。光る花、だから……えっと、うーん……。……自分の信念を貫け! とかですかね』
『ぶは。なんでそうガッツ系なの? ロマンチックって言ってんじゃん』
『え。あ、そっか』
『んはは。小エビちゃんやっぱ最高だわ』
 確かに、と合点がいったような表情をしたユウを見て、フロイドはケラケラ笑った。『そ、そこまで笑わなくても……!』不貞腐れたようにぷくりと頬を膨らませるユウをちらりと一瞥すると、その肩に掛かっているショルダーバッグに視線を落としてから『んー、じゃあヒントね』と続ける。
『小エビちゃんがさっき読んでた本あんじゃん。あれのタイトルだよ』
『ヒント——って、あれ? ひょっとしてもうそれ答えじゃないです……?』
『えー? あは、小エビちゃんが遅いのがいけねーんじゃん』
『ええ……』
 ユウは眉を下げてフロイドを見た。そのままショルダーバッグに手を伸ばして、中に入っている一冊の本を取り出す。丁寧な装丁が施された、ハードカバーの本だった。彼女は先程までオンボロ寮で読んでいたその表紙を小さく撫でながら、タイトルを改めて読んで。それから顔を上げて、首を僅かに傾げながら言った。
『〝あなたの光になりたい〟?』
『そ。せいかーい』
『なんか、素敵ですね……』
『そ? オレは小エビちゃんの案も好きだけどねえ』
『そっ、それはもう良いですってば! ——わ、』
 ユウは慌てたように言った。が、次の瞬間。言葉を止めて慌てたように目を見開いた。身を乗り出して周囲を見渡すと、『えっ、すごい』と素直な言葉がついて出る。
『本当に光ってる……!』
『お。始まったねえ』
 それは突然のことだった。まるでランタンの光みたいに、二人の前に咲いていた花が一輪黄金色に光りだしたかと思えば。あとに続くように、ぽつりぽつりと次第に光が広がっていったのだ。夜風に僅かに揺れるそれらはあっという間に周囲を包み込み、あたたかな色でいっぱいになった。
『小エビちゃんさあ、その本見ながら言ってたじゃん? この花は光って飛び跳ねた、ってのがよく分かんなかったーって。光るのはこの花。んで——』
 周囲を見渡すユウの横で、フロイドは一度言葉を止めた。するとちょうどその時、どこからともなくチリンチリンと鈴の音のような音が聞こえ始める。顔を上げた少女を一瞥してから、フロイドは口角を上げる。『飛び跳ねるってのは、多分これ』
『!』
 人差し指程の大きさをした何かが、ユウの目と鼻の先を掠めた。目を丸めて固まった彼女の目の前でそれ、、はくすくすといたずらっぽく笑うと、ややあって花弁の上へ優雅に舞い降りる。
『妖精……?』
『そー、花の妖精。マレルナが光って咲いたことを報せると、こうやって妖精が飛んでくんの。んで、花粉を運ぶ』
 それぞれが異なる繊細な衣装を身に纏った彼らは、光の粒を纏いながら踊るようにして花と花の間を飛び回っていた。まるで舞踏会のようだ。ユウはフロイドの説明を聞きながら、興味深そうに花を眺める。フロイドからすれば見慣れた花なので、今更驚くようなことなんて何もないのだが。小エビからすると、新鮮なようだった。
 妖精に興味を持たれたらしいユウは、時折彼らに頬を触られたり頭の上に乗られたりして、そのたびに擽ったそうに笑っている。フロイドはなんだかその様子を見ているのが面白くて、相変わらず頬杖をついたまま眺めていた。なんとなくスマートフォンを取り出すと、妖精と戯れている彼女にカメラを向ける。
 慣れた動きで親指を動かした。シャッターを切ろうとして——けれどちょうどそのタイミングで、ふとユウがこちらを向いた。
『ね、フロイド先輩』
『ン? なあに』
 液晶越しに合っていた視線を上げて、直接ユウを見た。画面の中よりも鮮やかな光の中、光を吸い込んだ黒曜の瞳がフロイドを見ている。ユウは一拍置くと、キラキラと目を輝かせた。嬉しそうに言う。
『魔法って凄いですね。えへへ、ここに来られて本当に良かったです』
 妖精の粉を周囲に纏わせながら、花の光に照らされた少女は弾けんばかりの笑顔を浮かべた。
『連れて来てくれてありがとうございます』
 瞬間、
『……、…………』
 フロイドは瞠目した。カシャッ。直後、この場にはそぐわない機械的なシャッター音がその場に響く。ユウはパチと目を瞬いて、『えっ』と呟いた。
『あれ? 今なんか写真撮られました?』
『……ウン』
『な、なんで……?』
『えー、……気分?』
『気分!? ええ……変な顔してなかったかな……』
『…………——、』
 真剣な顔でそんなことを呟くユウの隣で、フロイドは固まっていた。視線を下げて今しがた撮った写真を見ると、それからもう一度顔を上げて、改めてユウを見る。
 ……は? アレ??
 内心呟いて、一人困惑した。
 というのも、唐突に「かわいい」と思ってしまったのだ。面白いとか見ていて楽しいとか、いつも感じていたはずのそういうものではなくて。小エビを見た瞬間、あの笑顔を見た瞬間。突然誤魔化しきれないくらいに大きく心臓が跳ねたのだ。
 もっと小エビちゃんの笑うトコが見たい。もっと喜んで欲しい。スゲーかわいい——……好き勝手飛び出す心の声が、どれだけ無視しようとしても溢れて止まらない。
「ッ、」
 瞬間、クルルと僅かに喉が鳴ってフロイドはぎょっとした。人魚特有の求愛の鳴き声だ。それが、彼の喉から無意識に発せられたのである。彼は喉に手を当てると、無理矢理それを抑え込んだ。
 幸い小エビは、花と妖精に夢中で気付いていないようだった。けれど気付いた妖精の数人が揶揄うように、フロイドに近付いてくる。
『うぜえ。こっち来んな……』
『あれ。あはは、フロイド先輩人気者ですね』
『…………』
 くすくす笑うユウを見て、フロイドは内心頭を抱えた。いやいや、いやいやいや。頭の中で一人待ったをかける。
 恋なんてものとは無縁だと思っていた。そりゃあエレメンタリースクールの頃は、言い寄って来るメスとノリでそういう関係を持ったことはあるけれど。別に飽きたらそこで終わりの淡白なものだったはずだ。
 けれど今回のこれはどう考えても違った。勘違いなどではなく、明らかに——好き。そう自覚した瞬間、ブワッと頬が熱くなっていくのを感じる。
 フロイドは慌てて口元を手で押さえて顔を逸した。クスクスと笑う妖精と目が合ったので、睨むようにしてから逸らす。そして誰にも聞こえないくらいの声で、小さく呟いた。
『…………いや、マジでぇ……?』
 この日からずっと、フロイドはユウに片想いをしている。

   ❖

 屋敷が見えるなり、フロイドは回想を止めて乗っていた箒の速度を落とした。そのままひと気のない場所で滑らかに降り立つと、魔法で一旦箒を仕舞い。それから改めて、目の前の光景を見渡す。
「……——」
 ラズトーキン邸。この数か月で散々見慣れたそこは相変わらず、傍から見てもとにかく存在感を放っていた。なんというか、威圧感があるのだ。月明かりに照らされている夜の屋敷は、昼間に見るよりもどことなく近寄りがたい雰囲気が増しているように見える。
 警備員と監視カメラの死角になっている場所をパルクールの要領で器用に飛び回って、フロイドはあっさりそんな屋敷の敷地内に侵入した。中に入るためのシュミレーションは、これまでに何十回も何百回もしたのだ。恐らく普段よりも少しは警備が手薄であろう今夜、ミスするようなことなどあり得るはずもなく、不法侵入はスムーズに進む。
 壁を蹴り、あちこちを音もなく飛び回り。ややあって辿り着いたのは、とある部屋の前だった。窓枠に飛び乗ったフロイドは、気配を消して室内の様子を一瞥する。それから一瞬動きを止めると、片眉を上げてから僅かに雰囲気を柔らかくした。コンコンと開いていた窓ガラスをノックして口を開く。「——小エビちゃん」
「ッ、」
 途端、窓際にぼんやりと座っていた人物がびくりと肩を跳ね上げた。慌てたように立ち上がり、周囲を見回して——それからようやく窓の外からの訪問者に気が付くと、大きな目を丸める。信じられないものを見るような表情で、ぽつりと呟いた。「せ、んぱい……?」
「あは、こんばんはぁ」
「こ、こんばんは……」
 あの頃、、、よりもすっかり痩せて窶れた彼女を数週間ぶりに見ながら、フロイドは窓枠に足をかけた。顔色は先日会ったときと変わらず、あまり良くはない。目の下の隈も先日より酷くなった気がする。相変わらず長袖を着ていて、細っこい身体をしていた。
「また来るねってこの間約束したデショ?」けれどそういった諸々はひとまず内に留めて、彼は僅かに両目を眇めた。落ち着かせるような口調で、穏やかに言う。「約束通り、ちゃーんと会いに来たよぉ」
 月明かりの下。反射した三連のピアスが、しゃらりと乾いた音を立てて僅かに揺れた。

   ❖

「小エビちゃん先やる?」
「……い、いえ……」
「あれ、もしかしてボウリング場来んの初めて?」
「幼稚園くらいの頃に一度……お母さんと、お姉ちゃんと三人で来た気がします」
「マジ? じゃあどっちにしろスゲー久々じゃん」
「はい……」
「んふ、そっかあ。じゃあオレがお手本見せたげる〜」
 ユウは困惑しながらも小さく頷いた。フロイドはそれを一瞥すると、両膝に手をついてよっこらせと立ち上がる。ボールを掴みのんびりとした足取りでアプローチに立つと、すらりとした長駆が照明に照らされて際立って見えた。
 数歩踏み出してから、長い腕が大きく腕を振りかぶられる。直後放たれたボールは、レーンをまっすぐ、勢い良く滑っていった。ガラン。ややあって向こうで並べられていたピンが全て倒れ、軽やかな音がレーンの向こうで鳴る。
【STRIKE!】
 直後画面に大きく文字が表示されて、派手な効果音が響いた。どうやらストライクになると、盛大に祝ってくれる仕様らしい。突然の演出にユウが目を丸めると、「小エビちゃあん」ややあってくるりと回れ右をしたフロイドが戻ってきた。ヒラヒラと手を振りながら問う。「どお? 見てたぁ?」
 ニコニコと微笑まれて、彼女は戸惑いつつも小さく頷いた。
「はい。その、……すごくお上手ですね」
「そ? ま、オレもボウリング来んの二回目なんだけどねえ」
「えっ」
「高校ン時同じクラスの奴らと来たんだけどさあ。気分じゃなかったから一ゲーム目の途中からもうトビウオちゃんに任せて、オレずっと寝てたんだよねえ。でも結局アイツもヘタクソだったから、気付いたらボロ負けしててさあ。あは、でも今日は調子良いみたい」
 あ、次小エビちゃんの番だよ。至極当たり前のようにフロイドに促されて、ユウは半ば強制的にソファーから立ち上がることになった。フロイドに言われるがまま、ずっしりと重いボールの前まで向かう。
「……あの」けれどユウは一度止まって、困ったような顔をしながら肩越しにフロイドを振り返った。「先輩。私やっぱり帰らないと——」
「えー? ほらほら、投げてみなって」
「……、」
 戸惑いつつも言われるがまま、結局彼女はボールを手に取った。最近は仕事はおろか、最低限の家事しかさせてもらえなかったものだから、こんなに重いものを持ったのは久々だった。よたよたとアプローチに向かいながら、どうしてこんなことになっているんだろう、と彼女は改めてここに来るまでの経緯を思い返す。
 ——やくそくだと、また会いに来るからと数週間前にそうのたまった男が、本当に窓からやって来た。それはロマンが出張で一晩屋敷を留守にすることになった今日この夜、今からつい数時間前のことだった。
『分かっているね、良い子にしていなさい』
『はい』
『誰かが訪ねてきても、家政婦らに任せること。まあお前を訪ねてくるような物好きなどいないとは思うがね』
『……はい』
『よろしい』
 昼頃にそう言い付けるなり、笑顔で頭を撫でてから出て行ったロマンを見送ったあと。夕食を食べ終え、入浴を済ませ。けれど眠ってしまってすぐに明日が来てしまうのが恐ろしくて、部屋に戻ってからはベッドに入ることもせずにぼんやりと窓際の椅子に座っていたところ——フロイドは唐突に、窓からやって来たのである。
 ユウは面食らった。まさか本当に来てくれるとは思わなかったのだ。約束を守って会いに来てくれるなんて、思ってもみなかったのだ。けれど次第に正気に戻ると、その気持ちは焦りに変わる。だって、こんなことが許される訳がないと思ったから。
 フロイドが屋敷にいることを誰かに見られでもしたら。それが万が一ロマンに伝わってしまったら。フロイドや、さらに同じ会社のアズールやジェイドにロマンが何をするかなんて、分かったものではない——。だからユウは青い顔をして、『帰ってください』と懇願した。
『来てくださってありがとうございます。でもごめんなさい、帰ってください。……お願いします』
『んえ。ア、もう風呂入ったあとだし窓全開にしたの寒かった? ごめんねえ。オレの上着使って良いよ』
『ち、ちがくて、』
『すっぴんオレに見られんのヤだ? 充分かわいーけど』
『かわ……すっぴんは、別に今更だから……、そうじゃなくて、その』
『——オレに会うのイヤだった?』
『……、! ちが……っ』
 ユウはハッと固まって青い顔をすると、それからこの数分の中で一番大袈裟にぶんぶんと首を横に振った。
 そんな訳がないのに。どうしよう。わざわざ来てくれたのに、私のせいで先輩を傷付けちゃったかもしれない。でも、でも……。
 頭の中で様々な感情がぐちゃぐちゃに入り混じって、上手く思考が纏まらなかった。涙が滲みそうになって、慌てて唇を噛んで堪える。
 最近こんなことばかりだった。感情が上手くコントロールできなくて、受け答えも上手くいかなくて、訳が分からくなって涙が勝手に出そうになるなんてことが定期的に起こる。そんな状況になればまた怒られるだけだと頭では分かっているのに、上手くできないのだ。堪らずに縮こまって、けれど必死に口を開いた。
『先輩に会えるの、……うれしい、です。だから、その……あの、嫌じゃなくて……でも、だめで……』
 纏まりのない言葉があちこちに零れ落ちて、けれど言葉はそれ以上続かなかった。これが今の小エビの精一杯だった。フロイドはじっとそれを聞いてから、暫くして形の良い眉を下げて小さく笑う。
『……そっかあ』
 よっ、と。彼はそんな声と共に、身軽な動作で部屋に足を踏み入れた。固まっている小エビを見下ろすと、僅かに眦を眇める。
『取り敢えず、小エビちゃんがイヤじゃないって思ってくれてんなら良かったぁ。今更思ったけど、これもし小エビちゃんに拒否られてたらオレ、ただの不審者じゃね? ってカンジだし』
 別に拒否されていなくても、傍から今の状況を見れば明らかに、ただ窓からうら若き乙女の部屋に不法侵入中の不審者な訳なのだが——それについて突っ込む者は今ここにはいない。
『あのさあ、小エビちゃん』
 なので彼は誰かに止められることもなく、次の会話を始めた。唐突に、さらりと突拍子もないことを口にする。
『ね、ちょっと今から一緒に出掛けない?』
『え、?』
『オレ、前から小エビちゃんと行ってみたかったトコあんだよねえ』
『行ってみたかった、ところ』
『そー』
『……』
 一拍置いてユウが顔を上げると、綺麗なヘテロクロミアと視線が交錯した。フロイドはニコ! と笑みを浮かべると、『どお?』と言う。
『あ、あはは……』
 しばらくの沈黙が空間に落ちたあと。暫くして、ユウは思い出したようにようやっと反応を示した。『えっ、と……』乾いた笑みを浮かべたまま、視線を逸らしながら言葉を続ける。
『すみません、お気持ちは嬉しいんですけど——私は行けません』
『なんで?』
『……旦那様がいるので、』
『出張中デショ?』
『っ。そう、なんですけど……』
『んな心配しなくても、ちゃんと日が昇る前にはここまで送り届けるって。オレ約束するよ? 何なら念書だって書くケド』
『そ、そこまでは』
『あとはねえ。あの家政婦たちに部屋が無人だってバレんのが気になるとかなら、心配いらねーよ。オレ、良いモン持ってきたから』
 フロイドは一瞬ユウを見やると、おもむろにパチンと指を鳴らした。すると光の粒が舞って、直後、何もない空間からユウと同じくらいの大きさをした何かが現れる。
『!』
 ユウは驚いて硬直した。けれどドサリと落ちたそれを一瞥すると、首を傾げて目を瞬く。
『……抱き枕?』
『あは、せいかーい。ウツボの抱き枕でぇす』
 それはユウの身長と同じくらいの大きさがある、黄土色の身体に縞模様が入った大きな抱き枕だった。鋭利な歯列を覗かせた、けれどどこか間抜けたような顔。下に行くにつれて細くなっていて、中にビーズが入っているのか案外ずっしりと重い。
 おどけた口調でそれを紹介したフロイドは、それをユウのベッドに運んだ。横たえて布団を掛けてしまえば、何とまあ、可愛らしい抱き枕も一瞬で小エビのアリバイ偽造用の道具に早変わりである。
『気になるんなら、認識阻害用の魔法も掛ければ良いし。ついでにウィッグでも被せておけば、家政婦がこの布団引っぺがして小エビちゃんに話し掛けでもしない限りまずバレない。効果はジェイドで保証するよぉ』
『ジェイド先輩?』
『ウン。アイツさあ、エレメンタリースクールの頃百年に一度しか咲かない花をどうしても海辺で観察したいーとか言って、ママに行かせてくれって言い出したことがあんだよね。だけど当時はまだ稚魚だし、夜は流石にあぶねーからやめとけって却下されてて。でもそんなんで諦めるような素直なヤツじゃないからさあ。どうしても諦め切れねーからって、バレないようにこんな感じで自分のダミー人形作って、布団に突っ込んで見に行ってたワケ。結局それ、何か見に行きたいモンが出来る度に何年間か続けてた』
『凄い執念……』
『んふ、デショ? ウケるよね』
 フロイドは呆れたように笑って、ポンと布団を軽く叩いた。それからユウを見やると、『で、どうする?』と問う。
『小エビちゃんさあ、最近全然外出てないでしょ。外行きたくない?』
 ユウはちらりと窓を見た。外。大きな月が覗いている、眩いばかりの夜空。それをじっと見てから、また室内を見て。小さな声で言う。
『……旦那様に言いつけられているので』
『ダンナサマの意見がどうとかじゃなくてさあ』フロイドは部屋に置かれていたオブジェを適当に触りながら言う。『オレは小エビちゃんの気持ち聞きたいんだけど。小エビちゃんはどうしたいの?』
『……わたし?』
『ウン。オレと夜の散歩、したくない? したくないんなら帰るけどさ』
 ユウは戸惑った。自分がどうしたいかなんてそんなこと、この数か月のあいだ聞かれるどころか、自分の意思を持つこと自体許されなかったのだ。思わず逃げるように視線を逸らし、口を噤む。どう返せば良いのか本気で分からなくて、ただひたすら時間だけが過ぎていく。
『……わ、分かりません、……』
 数十秒後、結局ユウは絞り出すようにそう言った。そして『すみません』と付け加えるように小さく謝ってから、反射的に身体を小さく縮こめる。
『……』
 フロイドはそんな小エビをしばらく見て、それから鼻で小さく息を吐いた。ややあってから、『……そっかぁ、分かんないかあ』と柔らかく言う。
『でもさあ、オレには分かるよ』
『……、……え?』
『教えたげよっか』
『おし、える』
『ウン。小エビちゃんが今どうしたいか』
『……?』
 何を言っているんだろう。本人が分からないと言っているものを、他人が分かる筈などないだろうに。怪訝そうに眉をしかめたユウの考えていることをあっさり読み取ったのか、フロイドは口角を上げた。そして、
『この間言ったデショ? 小エビちゃんが何も言ってなくてもオレ、小エビちゃんの顔見りゃ何言いたいかくらい分かるーって。今もさあ、スグ分かったよ』
 と。さらりとそんなことをのたまう。
 フロイドは返答に困っているユウを見てから、手に持っていたオブジェを置いた。彼女に近付きながら指を鳴らすと、やおら光の粒と共に箒が一本出現する。それは箒だった。フロイドが使い込まれたそれを手に取り、こちらを向く動作をユウがぼんやり目で追っていると。刹那、バチリと目が合う。
『——あは』
 フロイドは緩く笑った。色の異なる双眸を細めると、『ほら。やっぱ分かりやすい』と柔らかな声で言う。
 『今の小エビちゃん、スゲー行きたいってカオしてるよぉ』
『ぇ、』
『ね、行こうよ。どお?』
『……——、』
 揺れるピアスに反射したユウの目が、大きく見開かれた。
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