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場面転換:ジェニファーの訪問
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「どなたですか?」
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誰かが来るたび、必ずそう尋ねていた。
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「隣のジェニファーよ!開けてちょうだい!」
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甲高い返事。
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鍵を開けると、30半ばぐらいのぽっちゃり体型の女性が立っていた。
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ラップでしっかり包まれた、円形の大きなアップルパイが乗った皿を持っている。
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腕には紙袋も下げられている。これもまた大きいが、おそらく中身は洋服だろう。
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幼いイヴ
こんにちは、ジェニファーさん
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彼女は数少ない訪問者の一人で
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お母さんのように
私やカーラさんをお世話してくれた。 -
ジェニファー
こんにちは〜!イヴ!お出迎えありがとう!
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幼い私を抱き寄せると、頬にキスをしてくれた。
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ジェニファー
おばあちゃんは元気?
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幼いイヴ
ええ、今日も相変わらず。
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ジェニファー
そう!今、会えるかしら?
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幼いイヴ
呼んできますね。
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リビングに戻る。
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「お隣のジェニファーさんが来られましたよ」
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それを聞いたカーラさんは、椅子から立って、私と玄関へ
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ジェニファー
あ〜!こんにちは!カーラさん!
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明るい挨拶をされると、カーラさんは少し戸惑っていた。
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カーラ
こんにちは……えっと、新しく越してきた方かしら?
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ジェニファー
ええ!引っ越しの挨拶に来たの!
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ジェニファーさんはカーラさんの病状を理解してくれていた。
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「なにか言ってきたら話を合わせてください」という
私のお願いを聞いて、いつもその通りにしてくれた。 -
ジェニファー
これ、アップルパイを焼いたから、よかったらみんなで食べましょ。
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甘いもの好きなカーラさんは
アップルパイを見ると目を輝かせた。 -
カーラ
まあ……!美味しそう……!
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ジェニファーさんの手作りするお菓子はどれでも本当に美味しかった。
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カーラ
お茶をお出しするわ。どうぞ、上がってちょうだい!
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リビング
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また少し場面は飛び。
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3人はテーブルを囲んでいた。
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カーラさんとジェニファーさんは談笑し、私は静かにパイを食べる。
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カーラ
ちょっと待ってて。ポットのお茶を足してくるわ。
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カーラさんが席を立つ。
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幼いイヴ
あ、お手伝いしまっ──
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カーラ
いいのよ。あなたはジェニファーさんと座ってて。
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幼いイヴ
……はい。
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無理に手伝おうとすると、カーラさんが苛立ってしまう。
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断られたときは潔く引いて、様子を見ることに徹したものだ。
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カーラさんはキッチンへ。
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キビキビと動く人だった彼女は、脳の機能低下とともに歩き方が変化していった。狭い歩幅で小刻みに歩いている。
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ジェニファー
……大変ね。
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目はカーラさんを見ているが、カーラさんに向けられた言葉ではなさそうだった。
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ジェニファー
……あ、そうそう!イヴに渡したいものがあるの。
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幼いイヴ
?
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ジェニファーさんは、大きな紙袋を差し出した。
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ジェニファー
これ!お洋服よ〜、受け取って!
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幼いイヴ
いいんですか?こんなに……。
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ジェニファー
ええ、うちにはもう必要ないから。
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ジェニファー
それに
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ジェニファー
あなたみたいな素敵なお嬢さんが着てくれたら天国の娘もきっと喜ぶわ。
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そう語るジェニファーさんの──
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よく分かりもしないが、子供を慈しむあの眼差しは
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“母親”だ。
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幼いイヴ
ありがとうございます、これ、大切に着ますね。
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ジェニファー
こちらこそ、ありがとう。イヴ。
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ジェニファー
あなたがいてくれて良かった。
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ジェニファー
不思議ね。見た目も性格もぜんぜん違うのに、つい……娘と重ねちゃうわ。
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ジェニファーさんの手が、幼い私の頭に触れようとしたとき
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キッチンから何かが割れるような音がした。
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幼いイヴ
カーラさ……っ
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すぐに反応はできていた。ただ、杖を支えに立ち上がることはほんの少し時間がかかった。
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ジェニファーさんが先にカーラさんに寄る。
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ジェニファー
大丈夫⁉カーラさん!怪我はない?
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カーラ
え、ええ
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カーラ
お茶っ葉を探していたんだけど……
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どうやらポットを割ってしまったらしい。
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ジェニファー
とりあえず、ここは危ないからカーラさんはイヴと座ってアップルパイを食べてて。
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ジェニファー
片付けは私がやるわ。
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有無を言わさないうちにカーラさんを椅子へ誘導すると、ジェニファーさんはこなれた手際で床の破片を掃除する。
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カーラ
なんだか悪いわねぇ……
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場面転換:玄関
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ジェニファー
それじゃあ、また来るわね。
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ジェニファー
カーラさん、美味しい紅茶をありがとう。
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私とカーラさんにハグをするジェニファーさん。
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幼いイヴ
……あの
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ジェニファー
ん?
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幼いイヴ
今日は本当にありがとうございました。
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ジェニファー
いいのよ、イヴ。
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ジェニファー
あなたはまだ子供だから
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ジェニファー
大人が近くにいるときは頼りなさい。
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ジェニファー
とくに、“私がいるときは”──ね!
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幼いイヴ
……はい
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私が、少しだけ安心したような顔をしていた。
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ジェニファー
じゃ、またね。
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ジェニファーさんは外へ出た。
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リビング
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カーラ
ねえ、私のティーポット知らない?
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カーラさんは、もう忘れている。
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カーラ
ここにあったのになくなってるの。あなた、使った?
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幼いイヴ
いえ、使ってません。
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カーラ
おかしいわ。
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カーラ
じゃあどうしてないの?
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カーラ
私はいつもここに置いてたのよ!
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少し感情的になりつつある。
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幼いイヴ
あとで、一緒に探しましょう。
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幼いイヴ
それよりも
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幼いイヴ
そろそろスティーブさんが、帰ってきますよ。
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カーラ
スティーブ?
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カーラ
やだ、もうそんな時間?
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カーラ
大変!急いで、夕飯の支度をしなきゃ
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話題を上手く逸した。
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カーラさんは冷蔵庫を開ける。
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カーラ
あら?
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カーラ
これ……
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カーラ
いつのかしら?
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冷蔵庫には
今日、ジェニファーさんが持って来てくれたアップルパイの残りが入っていた。
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