幕間:取調室の攻防戦
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いつものようにちょっとした大騒動が起こり、いつものようにポリスーツと共に出動して指揮を取り、いつものように抗戦と鎮圧をする。
いつもと違ったのは、その騒動の最中に少女が降って来たことだ。
「っ!?女の子!?」
ポリスーツの一人が驚愕の声を上げる中、少女も自分の落下地点にそれなりの人数の警官がいることに気付いた様子で振り向いた。空中で危なげなく体勢を整えて方向転換をすると、ポリスーツの肩辺りを軽く蹴って地面に着地する。
その光景を見ていたダニエルは少女に声をかけようとしたが、部下が彼を呼ぶ方が早かった。
先程の少女同様に、空から岩の様な塊が雨のように降って来た。どこかの建物の破片らしき岩の大半は銃で迎撃できる程度の大きさだが、それとは別にポリスーツですら簡単に押し潰せてしまえそうな巨石があった。
それを見た少女が、即座にサマーコートのポケットからビー玉大の赤い石のようなものを取り出して口に放り込み、指のないグローブをはめた両手を打ち合わせてから地面につく。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……」
巨石の落下地点の真下にいる少女は、臆した様子もなく鋭く囁いた。
「『血の乱舞―レッド・エクセキュト―』!!」
そうして放たれた巨大な赤い棘は、巨石を貫き、粉砕した。
「わたし逮捕されたんですか?」
「いいや、現場でぶっ倒れてた一般人っつー名目で保護さしてもらっただけだ」
「じゃあ何で取調室なんですか?」
「生憎ベンチが満席でな」
「……わたしと二人っきりで話したかった、とか?」
「そりゃあさぞかし会話が弾みそうだな」
楽しげに、どこか挑むように笑いかけてくる少女に、ダニエルも威嚇するような笑みを返した。一般人や後ろめたいものを抱えている相手に見せれば大抵は竦み上がってくれるのだが、少女は先程の騒動の最中のように臆した様子もなく、机に肘をついて重ねた手の上に顎を乗せてダニエルを見つめている。
視線を外して、ダニエルは少女に提出させたIDに記載されている内容を読み上げた。
「名前は結理一之瀬。出身は日本。国籍も同じで、年は……22歳?」
予想外の内容に思わず顔を上げると、少女は「皆そのリアクションします」と言って苦笑を返す。
「ジャパニーズは童顔なんです」
「ほお……じゃあお嬢ちゃん呼びは失礼だったなミス一之瀬」
「止めてくださいよ今更」
「しっかしよくできた身分証明だ。大抵の税関は素通りできるぞ」
「やだなあ……まるで偽造してるみたいな言い方じゃないですか」
「みたいじゃなくてそうだっつってんだよ」
斬りつけるように言い放つが少女、一之瀬結理は笑みを崩さず、ダニエルから視線も外さない。
「実際はいくつなんだ?」
「32歳です」
「スカーフェイスとタメか。あの世代は腹ん中真っ黒な奴ばっかかよ……」
「ちょ、渾身のボケを流さないでくださいよ…!」
「お嬢ちゃんならそれもアリかと思っただけだ」
「何かわたしの周りデリカシーない人ちょいちょいいるなあ……」
「デリカシーで事件が解決すんなら両手いっぱいに持ちたいもんだな」
「ついでにワーカーホリックも多い」
「自分も勘定に入れとけよ」
間髪を入れずに返すと、結理は気まずげに視線を逸らして数秒黙ったが、すぐに気を取り直すように一息つくと会話を再開した。
「……ダニエル警部補、先に言っときますけど、わたしを取り調べても何にも出てきませんよ?一応ビザの関係で会社勤めですけど、本職はただの大道芸人ですもん」
「ただの大道芸人が空から降ってきた隕石をぶっ飛ばすのか。流石HLだな」
「何でもアリな街ですもんね」
ふふ、と笑ってみせる少女だが、黒い瞳の奥は夜の湖畔のように静かで冷たい色が見えていた。その表情がそこはかとなく誰かを思い出させて、ダニエルは遠慮なく顔をしかめてため息をつく。
「お嬢ちゃん……最近目つきが奴に似てきてるぞ」
「前にも言われたことあるんですけど、いまいちピンとこないんですよねえそれ……」
「あーあー、こんなお嬢ちゃんがすっかり毒されちまって……可哀想に」
「人はそんな簡単には変わりませんよ?ダニエル警部補」
「会社(ライブラ)に入る前から腹ん中真っ黒だったってか?」
「そうですよ。腹ん中ではあなたをどうやり込めてやろうかって考えてますし、めんどくさいからこんな所職員ごと更地にしてとっとと帰りたいとも思ってます」
「見え見えの嘘はよせよ。下手に騒ぎを起こしたらこわーい上司に叱られんだろ?」
「とっとと帰りたいは本音なんですけどねえ……倒れたばっかでそこそこ疲れてますし」
深いため息をついて椅子の背もたれに体重を預ける結理の表情には、確かに疲労の色が見えていた。連行……もとい保護した直後よりは多少よくなってはいるが、顔色も悪い。
