異界都市日記22
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こうして任務は終了した。スティーブンと結理が病院送りになったものの、作戦に参加した者達は一人も欠けることなく無事に生還を果たし、巨悪犯罪組織の取引も阻止することができた。
交戦した血界の眷属には頭が無かった。そのおかげかどうかなのかは定かではないが、あの時一瞬だけ血界の眷属の動きが止まり、退けることができた。その一瞬がなければ、間違いなくスティーブンも結理も別の所に『安置』されていただろう。
何故頭がなかったのか。遠くから首だけ眺めていたのか。何の為にそんなことをしていたのか。疑問は尽きることなく、答えは出ない。
出た結論は、血界の眷属とは何度戦っても理解が追いつかない存在だということだけだった。
「ふはー……!ありがとうございますK.Kさん!これで早めにスティーブンさんの治療に行けそうです」
「ええええええ!?あの腹黒の為えええええ…!?」
「だってスティーブンさん入院してても仕事しようとするんですもん。そうでなくても治せる怪我は治したいですし」
「もーーー!まずは自分の治療に専念しなさいよーー!!」
「うわわ……あいだだだだ…!」
3本目の牛乳瓶をサイドテーブルに置き、4本目に手を伸ばしながら、結理は大量の牛乳を差し入れに持って来てくれたK.Kにお礼を言う。感謝の理由を聞いたK.Kは思わず肩を落とすが、結理がきょとんとした面持ちで聞いてくるので、その健気さに泣けるやら自分の優先順位の低さを叱りたいやらで、包帯だらけの少女を抱きしめた。結理は驚きながらもくすぐったそうに苦笑を漏らしてK.Kを見上げる。
「でも本当に、K.Kさんのおかげで助かりました。作戦もうまく行きましたし。血界の眷属は予想外で流石に死ぬかと思いましたけど、結果的には追っ払えましたし」
「……そうね」
「?」
身を固くしたK.Kの反応に、結理は失言だったかな?と少しだけ顔をしかめた。自分が直接現場にいなかったから、と思わせてしまったかと思ったが、どうやら違うらしい。それもないわけではないが、もっと違うもののようだ。
「……K.Kさん、何かありました?」
「え?ああいや!ほら、私が直で現場にいたら、ユーリっちにこんな大怪我させなくて済んだかなあ……って……」
問いかけるとK.Kは慌てた様子でまくしたてたが、それが求めている回答でないことを察したのか、結理から離れながら徐々に尻すぼみになって、気まずそうに黙り込んでしまった。結理は何も言わず、牛乳瓶を傾けながらK.Kが口を開くのを待った。
「……ユーリ、」
「はい」
「アンタ、吸血鬼とか色んな人外と人間が混ざった子だって言ってたけど、アンタがいた所だと人類と人外が一緒にいるって普通だったの?例えば……吸血鬼が、普通の人間の子育てたり」
「……いいえ」
K.Kの問いに、結理はまさかと思うことがあったが、そこには触れずに静かに首を横に振った。
「わたしの一族は……わたしが暮らしてた街もなんですけど、人間としても人外としても異端でした。吸血鬼に限らず、人外は人間とは必要以上の交流を避ける人の方が多かったし、大半の人間は人外は話の通じない化物だって思ってましたから。わたし自身、自分の血筋を隠してる事の方が多かったです。でも祖父達の知り合いが言ってました。わたし達は珍しいけど、おかしくはないって」
包帯に覆われた手を見て、結理は独り言のように問いに答える。
「問答無用で封印しなきゃいけない奴が大半な種族の中にも、争わず穏やかに暮らしたいって人もいれば、全然違う種族の子供を育てる人もいるんじゃないんですか?そうゆうところは人間も一緒です。人間にも、色々いるでしょ?」
「…………そう、よね」
乾いた沈黙が病室内に下りた。結理は黙って5本目の瓶に手を伸ばす。
「……多分、ですけど、」
中身の無くなった瓶をサイドテーブルに置いて、結理が沈黙を破った。
「血が繋がっていようがなかろうが、人間だろうが人外だろうが、わたし達に理解できない存在だろうが、自分の子供は可愛いし絶対に守りたい存在だと思いますよ。さっきも言ったけど、そこに差なんてないんです」
「……」
「……って、子供のいないわたしがK.Kさんに言うのは生意気ですね」
えへへ…と、結理ははにかんだ笑みを見せた。K.Kは虚を突かれたような顔をしたが、すぐに力が抜けたように噴き出して、少女の髪を両手でぐしゃぐしゃと撫でた。
「ほんと、生意気!」
「いたたた…!痛いですって…!」
髪をかき混ぜることを止めないK.Kも、されるがままの結理も、じゃれあう子供のようにけらけら笑っていた。
ほんの僅かにあった、澱んだ空気を払拭するように。
異界都市日記22 了
2024年8月17日 再掲
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