異界都市日記22
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「『血術』……」
血界の眷属の攻撃に向かって結理は腕を広げた。何度も見せた防御姿勢に構わずに、相手は防御ごと粉砕させようと腕を振るう。
「『血の監獄―ジェイル―』!!」
狙い通りの動きを見せた相手に、鋭い棘を持った壁が襲いかかる。直前で攻撃に気付いて動きが止まった隙に、血界の眷属に氷の槍が放たれた。同時に結理も畳みかける。
「『血術』……『血の乱舞』!」
技を繰り出すと同時に、もういくつめになるか分からない血晶石を口に放り込みながら次の術を練り上げた。赤い棘と氷の槍を粉砕させた血界の眷属は、スティーブンに向かって腕を振りかぶっている。
「『血術』……っ!」
牽制しようと駆け出した瞬間、まるでそれが分かっていたかのように血界の眷属が唐突に結理の方を向いた。
(しまった…!!)
誘い込まれ、完全にフェイントに引っかかった結理は、発動させようとしていた術を無理矢理変える。
「『壁―ウォール―』!!」
振るわれた腕は氷と障壁を一度に打ち破った。結理の小柄な体が吹っ飛び、一瞬死に体になる。相手にとってはその一瞬で十分過ぎるほどの間で、追撃が来た。強烈な蹴りが突き刺さり、鈍い音が耳に届く。
「が……っ……は……!!」
ギリギリで展開させた盾と割って入った氷の壁が威力を殺したおかげで致命傷は免れたが、それだけだった。衝撃で気絶しなかっただけでも奇跡的だ。
壁が砕ける程の威力で叩きつけられた瞬間に、体のあちこちから鈍く嫌な音がしたのを聞きながらも、結理は敵を見据えたまま術を紡ごうと集中した。敵が向かうとすれば、動けないこちらから仕留めに来るはずだ。逆に言えば、零距離で攻撃を叩き込むチャンスでもある。
だが予想に反して、敵は地面に落ちる結理から早々に視線を外すとスティーブンに向かって行った。こちらが死んだと判断したのかと考えたが、すぐに違うと否定する。
(後でゆっくり止め刺す、って…?)
確かにすぐに動ける状態ではない。ならばまだ動ける相手から片付けた方が得策だという判断だろう。
そして、まだ死んでいないからこそ零距離での一撃を警戒した。他を寄せ付けない圧倒的な力を持っていながら、恐ろしく冷静な相手だ。
だが同時に、敵対者を見誤った。
(……なめんな…!!)
敵から下された判断に体内が、『血』が噴火直前のマグマの様にざわめいた。
「く……ぐっ…!」
何とか起き上ろうとするが、息をするだけで全身に軋むような激痛が走る。それでも火のついた闘争本能に突き動かされるように無理矢理体を起こし、こみ上げてきたものを吐き出すと地面が赤く染まった。だがそんなことは気にならない。戦いはまだ続いている。
敵はすぐ側にいる。倒さねばならない、殺さねばならない敵を目の前にして無様に転がっているなど、『同族殺し』として許されない。
震える手でポーチを探り、指に触れた血晶石を一度に掴み取って残らず口に放り込み、全て噛み砕く。
完全な回復を待たず、結理は痛みをねじ伏せて立ち上がると同時に駆け出した。両手の掌底同士を打ちつけ、溢れだした血を形作って、こちらの回復速度を読み違えた敵に向かって振るう。
「!?」
放たれた赤い棘鞭は直前で気付かれかわされたが、構わずに相手を睨みつけて念動力をぶつけた。不可視の衝撃に体勢を崩した相手に全力で術を放つ。
「『血術』……『血の乱舞』!!」
放たれた赤い棘は血界の眷属を捉えたが、浅い。攻撃の範囲外に逃れた血界の眷属はすぐ様結理に狙いを定めて攻撃を繰り出してきた。
相手の一撃は確かに強く重く、まともにくらえば文字通りに粉砕されかねない。だが当たらなければ意味がない。恐れずに進めば、当たらない。
勝算も、相手との力量の差も、自分が後どれだけ動けるのかも、今の少女の頭の中にはない。
目の前の敵を殺す。その意志だけを原動力に苛烈な現象に立ち向かい続けている。
大振りの一撃をギリギリで避けた直後、逆側からの蹴りが襲いかかった。結理はそれを紙一重でかわし、体勢を安定させるように地面を踏みつけると同時に凍結の術を放つ。
「!!?」
完全に予想外だったらしく相手は驚きを隠さずに飛び退いた。流派が不明だったはずの敵対者が血凍道らしき術を放ったことは相当な動揺を誘ったようで、わずかだが隙が生まれた。
その隙を見逃さず、結理は躊躇いなく一気に踏み込んで敵の懐に入る。相手も動揺は拭い切れないながらも、少女を仕留められると判断して腕を振るった。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……」
だが結理は止まらない。完全に間合いに入っているこの距離ならば、例え体を引き裂かれようとも攻撃は届く。
最も速く、最も鋭く、確実に敵に食い込ませる為の基本とも言える刃を形成し、相手の首を狙って放つ。
「『爪―クロウ―』!!」
振るった赤い刃爪と同時に放たれた氷の棘が、血界の眷属を貫いた。攻撃をまともに受けた血界の眷属は、断末魔の様な悲鳴を上げる。
「…………へ?」
まるで空を切ったような手応えに、自分が攻撃をくらっていないことに、結理はたった今まで体を動かしていた闘争心を全て吹っ飛ばして、思わず間抜けな声を上げていた。予想外なのはほとんど破れかぶれで技を放ったスティーブンも同じだったようで、頭部装甲の落ちて凍りついた相手を呆然と見上げている。
誰もが状況についていけない中、血界の眷属の身体だけが崩れ落ちるように何体もの蝙蝠に変化して、どこかへと飛んで行った。
「……えぇぇぇぇぇぇ……!?」
