異界都市日記22
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作戦は順調に進んでいた。
敵は小柄な結理の姿を見つけると、ほぼ必ずと言っていいほど驚いて硬直するか、こんな現場にも関わらず侮って隙を見せる。そのほんの数瞬の隙を見逃さずK.Kが敵を撃ち抜き、あるいは結理が直接叩く。
「ありがとうございますK.Kさん。退路制圧しました」
『再突入だ!』
「了解」
号令に走り出しながら、結理は一瞬だけ外を見た。狙撃手の姿は見えない。そもそも狙撃手はそこにはいない。
不可能だと誰もが思った作戦と授業参観の両立を、K.Kはまさかの可能にしていた。遠隔操作式の狙撃システムを用立てたのは武器庫(アーセナル)のパトリックだが、それを用いて確実な狙撃を行うのは間違いなくK.Kの手腕によるものだ。
作戦開始直前の最終打ち合わせ時に聞かされた、執念と表現するには綺麗すぎる想いを結理は母の愛と呼ぶことにした。
「やっぱK.Kさんすごいなあ……」
市街戦用携帯無人攻撃用ヘリの盛大な攻撃音を物陰で聞きながら、結理は声に出して呟いていた。
そういえば母もいつだったか、結理が劇に出る事になった文化祭を見に来る為だけに、それなりに大きな犯罪組織を半日足らずで一つ潰してきたことがあったのを思い出す。
母は強し。というのはどの世界でも共通なのだと改めて思わされた。
そんな遠い日のことを思い出している間も、結理は周囲を探ることは忘れない。
あらゆる『気配』を捉える探知能力は透視や空間把握にも応用でき、流石にレオの持つ『神々の義眼』には及ばないが爆音も土埃も何の障害にもならない。今回の作戦に結理が加わることになったのも、その能力と激戦地でも問題なく自衛できる戦闘能力を買われてのことだ。
「敵の配置は?」
「進路上はK.Kさんが一掃中ので全部です。百メートルぐらいは難なく進めると思いますが、終点の手前で機械化獣がわんさか待ち構えてます」
「わんさかか……厄介だな」
「撤退しますか?」
「らしくない冗談を言うね」
「緊張を紛らわせようと思って」
即答すると、隣に来たスティーブンが失笑した。それぐらいの余裕はある空気に、結理は息をつきながらいつの間にか強張っていた肩から力を抜く。普段とは違う形の戦闘に、自分で思っていたよりも緊張しているようだ。動作で見抜かれたらしく、緊張を解すように背中をぽんと軽く叩かれた。
「うちの優秀な狙撃手がいれば切り抜けられる。なるべく早く終わらせて、授業参観に集中させてやろう」
「そうゆうとこもうちょっと見せてあげれば、K.Kさんに嫌われないのに……」
苦笑交じりに呟いて、結理は攻撃音が途切れると同時に駆けだしかけ……
「……っ……」
足を止めた。少女が進もうとせずに周囲を見回していることに気付いたスティーブンが訝しげに問いかける。
「……どうした?」
「……ヤバめの気配がします。遠くて明確に何かはまだ分かりませんけど……多分例の用心棒だと思います。でも動く気配はしないんで、向こうから仕掛けるつもりはなさそうです」
「恐らく頭の護衛をしてるんだろう。動く気配があったら即座に伝達を」
「了解です」
どこか緊張を含んだ声で頷き、結理は今度こそ駆け出した。
進めば進むほど戦闘は激化していく。巨悪犯罪組織と銘打たれる通り、物量も抗戦の姿勢も並大抵の規模ではない。普通の組織ならば揃えるだけで枯渇してしまいそうな質と量の装備を、惜しみなく投入してくる。これでドラッグにまで手を出しているのだから、連中を放っておいた際の被害がどれほどのものになるかは考えたくもない。
そんな巨悪な組織との戦闘で、こちら側に未だ死傷者が出ていないのはK.Kの狙撃のおかげだ。正確無比な狙撃に加え、彼女は時に結理の誘導よりも素早く敵を撃ち抜く。最高だと大絶賛される技術は、まさしく神業だ。
ただ、頻繁な援護要請に若干苛立ちを覚え始めているのか、オーバーキルのきらいが目立ってきたが……
「ちょ……K.Kさん!K.Kさんやりすぎ…!!」
思わず結理が通信で待ったをかけるが、既にミサイルが放たれた後だった。一体何を想定して用意したんだと胸中で突っ込みつつ、次いで来るだろう爆発と衝撃に備えて身構える。
「……あれ?」
だが想像していた爆発も衝撃も、何も起こらなかった。巻き起こった風が煙と砂埃を払う中、気持ちの悪い沈黙が流れる。
ミサイルを受け止めた何かは、人の型をしていた。恐らく例の用心棒だろう。全身を装甲で包まれている為顔は見えない。形こそ人だが本当に人なのかも分からない。それ自体は超常が通常のヘルサレムズ・ロットでは大した問題ではない。
問題なのは、ミサイルを苦も無く片手で受け止めた所業は、今まで制圧してきた装甲機械や武装した異界存在とはまるで異なる空気を発していたことだ。
「あれは…一体…何だ…!?」
先程までとは違う冷えた空気が辺りを包んだ気がした。
