異界都市日記21
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それから分を数えることなく、トレンチコートの姿は宙を舞ってビルの壁面に叩きつけられていた。パーツをばら撒きながら落ちる姿に他の警備員達が緊張と警戒を見せる中、赤い大太刀を携えたザップはチェインに告げる。
「行け。雌犬」
この混乱で情報が集まる場所がトップの居所だと言えば、心得たチェインは「…全くもう…」と顔をしかめながらも希釈してその場所へと向かった。侵入者の一人が突然消えた事に周囲がざわめく。そんな混乱の中心にいる一人であるレオは、やや困ったようにザップに尋ねた。
「あ…あの…僕はどうすれば…!?」
「……結理の」
「ほらかかってこいよ雑魚共!!」
側にいろと言いかけたザップだったが、その結理が嬉々とした様子で咆えて凶悪な笑みを浮かべながら警備員とサイボーグの集団に突っ込んでいく姿を見つけて、数瞬黙ってから言葉を変えた。
「……俺から離れるな。あと、とばっちりは自己責任で回避!!」
「えええええええ!!」
レオが絶叫した直後、金属音を伴った破壊音が辺りに響き渡った。その音を鳴らしているのは結理で、取り押さえようとする警備員を蹴り飛ばし、排除しようと武器を振るうサイボーグを次々と殴り壊していっている。
「だいたい!最近!ムカつく事が!多過ぎる!!血界の眷属にはボロ負けするし!メンタルは色々やられるし!プロスフェアーで死にかけるし!堕落王は腹立つし!挙句!気に入ってたアパートは追い出されて!友達は生命維持装置(エアギルス)強奪される!?冗!談!!じゃない!!!」
(何か違う分も憂さ晴らししてる…!?)
「わたし達に喧嘩売った事後悔さしてやるあああああああ!!!」
余談ではあるが、騒動が終結したしばらく後に「全く関係ないストレス解消を兼ねてしまっていた事をここに懺悔します……」と何故かレオに頭を垂れている結理の姿があったとか…
そうして、エアギルスを取り返し、ついでに軽い『挨拶』もしていったチェインが戻る頃には、ヴァルハラ・ダイナミクス社の表エントランスは阿鼻叫喚を絵にしたような有様になっていた。警備員は全員腰を抜かしているか倒れ込んでいて、サイボーグ達は漏れなく真っ二つにされている。
惨状の真ん中に座り込んでいる三人を見つけたチェインは静かに歩み寄り、チェインに気付いた三人も顔を上げた。
「……オウ」
「……行くよ、クソ猿」
顔を腫らしながらもどこか晴れやか様子のザップにそれだけ声をかけて、チェインとレオはザップに肩を貸して立ち上がらせた。
そんな三人を見送るようにその場に残っていた結理は、微笑ましげに緩んでいた顔から笑みを消してコートのポケットを探り、残り一つの血晶石を口に放り込んで噛み砕きながら振り返る。
巨大な影が四人を覆ったのはその直後だった。ただのオブジェだと思っていた戦乙女を模した像が突然動きだし、小さなビルほどはある大剣を振り翳す。それを操っているのはツェッドを襲ったサイボーグの一人だ。予想外の敵襲にザップ、レオ、チェインはぎょっとして顔を引きつらせ、結理はぎらりと目を光らせながら両手の掌底同士を打ちつけた。
「『血術―ブラッド・クラフト―』……っ!?」
武装像に向かって何かが飛んできたのは、結理が術を放つ直前だった。その何かは武装像の操縦者の顔を覆うようにぶつかり、そのまま締め上げる。それは血を纏った水で、酸素を奪われた相手は突然の事に混乱してバランスを崩した。
「っ!『血の乱舞―レッド・エクセキュート―』!!」
一瞬こちら側に倒れかけた武装像を、結理が慌てて放った巨大な赤い棘が粉砕した。破片類は全てビルの方に倒れていき、破壊音と地響きがしばらく響く。
「……全く……」
それらを呆然と眺めていた三人と、破片がこちらに落ちてこなかった事に安堵の息をついた結理は、呆れ返ったような声を聞いてその方向を見た。四人の表情に構わず、声の持ち主は続ける。
「あなた方ときたら…まあ特にうちの兄弟子の方でしょうけど、何故いつもそう無鉄砲極まりないんだ。」
声は存分に呆れを含ませていて、少し苛立っているようにも聞こえた。
「いいですか、じっくり立ち止まれば見えてくる方法もあるんです。報告、連絡、相談。先走って割に合わない危険を冒すのはもうやめにしてください」
けれどそれ以外の、それ以上の感情があった。
「でも、ありがとう」
そんな、心配と感謝を込めた言葉を紡いだツェッドを見た四人は、
「……ぶはっ!!!」
一斉に噴き出した。
現在ツェッドは呼吸をする為に頭に球体状に纏わせた水を被っていて、彼の容姿も相まってその姿は非常にシュールであった。
「あっはははははははははは!!!つぇ…ツェッドく……そ……何なの…!!」
「ちょ…なにするんです!!」
「だってよお」
「だってねえ」
「ヒーヤバい苦しい!ギブギブ!」
噴かれた理由が分からないツェッドは盛大に慌てるが、四人は構わずに笑い続ける。
「一体全体何カン星人だよお前!長寿と繁栄ぽかったぞ今の」
「…へ!?」
「ちょ…ザップさんやめて…!ツボる…!!長寿と繁栄!」
「いや、ちょ、もう一回やってくれ!!」
「………は!?」
「頼む!!もう一回…!!撮って俺の爆笑フォルダに入れときてえ!!」
「わたし!わたしも撮る!御利益ありそう…!!」
「……!!………ッ!!」
そんな周囲の光景にそぐわない明るい笑い声が、夜空に向かってしばらく響いていた。
