異界都市日記21
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「そんなにするんすか…!?」
「そりゃまあ、あいつに関わる備品は全部特注品だしなあ」
「ズルいっすよ魚類ばっかり!!俺もお金欲しい!!」
「ウワア大声で何言い放ってんだこいつ」
「設備費だっつってんじゃないですか。あんた頭と(自主規制)以外どっこも外注でメンテナンスする必要ないでしょうが」
「女の子が(自主規制)とか言わない!!」
「設備費は別として、渡してる活動資金は一律だよ。気持ち程度で悪いがな」
「そうすよ!!言っちゃなんですけど!!毎月25分くらいで消えちまうんですよ!!実際の話!!」
「何につぎ込んだらあの額25分で溶かせるんですか…!?」
不思議な出来事にでも遭遇したかのように語るザップに若干以上引いた様子で結理が声に出した直後、不意にザップの下瞼がひとりでに下がった。
「いぎゃあえええええええええええええええ…!!!」
「オホホホホ。何故胸張ってるか理解不能だわ馬鹿猿」
いつものように現れて遠慮なくザップの目を足場にしているチェインは、容赦なく足をめり込ませながらにこやかに言い放つ。いつもの光景なので、他の面々は特にリアクションもしない。
「アンタみたいな借金まみれのギャンブル狂、億渡したってケタ上乗せでスるだけじゃん」
「チェインさんお疲れ様でーす!」
「お疲れ結理。住んでたとこ区画クジ当たってたみたいだけど大丈夫……じゃなさそうだね」
「オーナー変わって追い出されちゃったんですよー!だから今日は色々キャンセルして新居探しです」
「ごく普通に会話してんじゃねえええええ!!」
「まあ言ってもアレはあいつにとって生命維持装置そのもの。一日中逆スクーバ・ダイビングしてる様なもんだ。ご理解賜りたいもんだね」
「……いや、そういうの、奴の為にならないっすね。逆に」
話題を締めくくるように息をついたスティーブンに、チェインを追い払ったザップは当然のようにきっぱりと言い切った。ドヤ顔で褒められるものでないことを言い放つザップに沈黙が落ちる中、それぞれが胸中で感想を抱く。
(…他人の得がそこまで気に入らないのか)
(ガメツイナー)
(平等って言葉から最も遠い存在の癖に)
「どこまでアホなら気が済むんですか……」
「働かざるもの食うべからず」
「あんたにだけは言われたくないですよ!!」
言い放ったザップに結理が言い返したのと執務室の扉が開いたのはほぼ同時だった。顔を覗かせたツェッドはしばらく止まり、そのままバタンと扉を閉めた。
恐らく、というよりほぼ確実に、今の会話の一部始終は聞こえていたのだろう。
「…………」
「……サイッテー……」
気まずい空気が流れる中、結理が心底蔑んだ表情で沈黙を破った。
「ほんと最低なんだけど!あのSSのああゆうとこほんと腹立つんだけど!スティーブンさんのお使いがなかったら即行叩き出してたのに!!」
「まあ確かにあの人、脳みそ仲介しないで喋ってるとこ多々あるよなあ……」
「ツェッド君絶対気にして今頃職探しとかしてるよ絶対!やっぱついてけばよかった!でも絶対ツェッド君大丈夫ですって言うだろうし!もおおおお!同じ流派なのにあの人柄の差は何なの!!技以外も色々教えときなよお師匠さん!!家の脳筋戦闘狂じいちゃんだって戦闘以外の色々教えてくれてたのに!!」
ぷりぷり怒りながらネットで物件情報を探している結理に同意の頷きを返したレオは、一旦端末から目を離して少女を見た。視線に気付いて顔を上げた結理は若干の不機嫌を滲ませていたが、すぐにそれを消して「何?」と尋ねる。
「何か今日やけにイラついてんねユーリ。ザップさんがああいうデリカシーないこと言うのっていつものことじゃん?いや、だから許していいって訳じゃないけどさ……」
「……」
いつもより苛立ちを露わにする結理に純粋な疑問を投げると、少女は複雑そうな表情を見せながら覗いていたノートパソコンを閉じた。
「……ツェッド君さ、見た目は異界人ぽいけど、領域的には人界側なんだよね。まあ、直接聞いた訳じゃないからちゃんとは知らないんだけど」
「え……」
「多分異界(向こう)側の人達にはそれが分かると思う。けど人界側の人達はほとんどが見た目で異界人だって判断するから…極端な話、ツェッド君は異界側でも人界側でもどっちでもない立ち位置みたいな感じになっちゃってて、働くのにそれって結構難しいの。だって、異界側でも人界側でも、大体はある程度は理解できる同じ側を雇いたいもんだし。そうゆうの気にしないのは文字通りに使い潰す気満々の奴か、滅多にいないよっぽどのお人好しかだろうし。だから多分……」
「……ツェッドさんが働き口探すのは難しいってこと?」
「うん」
頷いて、結理は一度ため息をついてから続ける。
「別にザップさんもそうゆうの分かってて言ってる訳じゃないってのは分かるけど…つかそこまで考えてる訳ないし絶対。でも、やっぱり『人間』には……人外もだけどそうゆうの理解し辛いんだよね……そうゆう、『狭間の者』の事情みたいなの」
複雑そうな表情のまま息をつく少女の姿を見て、レオは今更ながら思い出した。
所謂普通の人間とは異なる、緑と赤のオーラはレオにしか見えていないが、別の方法で感じ取れる者も多数いるのだろう。
人間と交わっていても一之瀬結理は人外側に属している。そしてそれはこの世界の人外ではない。
目の前にいる少女もまた、今話題に出していた彼と同じ、あるいはそれ以上に、この世界においてはどちらにも属していない、どこにも属すことのできない無二の存在だ。
「自分側じゃないってだけで拒絶する人は結構いるから……ツェッド君も多分、しんどいこと言われると思う。やっぱりついてけばよかったかなああ…!!?」
「……ユーリも、そういう風に言われたことあるの?」
「……わたしの場合は女子供だからで弾かれること多いけどね」
問いかけに、結理は数瞬間を置いてから苦笑を浮かべ、意図的にはぐらかした回答をした。
慣れているような、どこか諦めているような感情が見え隠れしている少女は、仲間に対して抱いた懸念をこの異界都市を訪れる以前に経験したのだろう。もしかしたら、今も心ない言葉を投げられることがあるのかもしれない。
「大道芸始めたのもその辺の……あ……そっか…!」
「ユーリ?」
何かに気付いた様子で不意に表情を輝かせた結理は、その表情のままレオを見た。
「ツェッド君探しに行こう!ついでにザップさんも引っ張って!」
