異界都市日記21
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年の瀬が迫っているヘルサレムズ・ロット。
その一角にある秘密結社の扉を、レオナルド・ウォッチは今日もいつも通りに潜っていた。
「ちわーっす!」
「おはようレオ」
「あ、おはようございますスティーブンさん」
執務室に入ってすぐに視界に入ったのは書類仕事をしていたスティーブンだけだった。レオは一度軽く室内を見回してから、視線を戻して尋ねる。
「ザップさんまだ来てないっすか?」
「ああ。呼び出しはかけたが、しばらくは来ないだろう。あいつに用事かい?」
「はい。新年会の会費の徴収うわあああっ!!?」
ですと言い切る前に、レオのほぼ目の前に何の前触れもなく結理が現れた。一瞬遅れて大きな音と一緒にいくつかの段ボール箱が床に落ち、それを直すことなく、目の前にレオがいたことにすら構わず結理はソファに倒れ込む。
「ユーリ!?」
「区画クジ……」
「え、区画クジ?」
辛うじてといった風に呟いたきり、ソファに寝そべった少女は微動だにしなくなった。状況が分からず思わずスティーブンの方を見ると、スティーブンも驚いたように倒れ込んだ結理を見ていたが、すぐに何か思い当たったらしく端末を操作した。
「……ああやっぱり。お嬢さんのアパートのあった区画がクジで組み変わってる。大方追い出されて荷物も多いからと、テレポートしてきたんだろう。距離的に……30分といった所かな?」
「テレポートって……結理そんな能力も持ってんすか?つか30分…?」
「その能力の対価だそうだ。あらゆる障害物や防壁魔術もすり抜けるが、自分が本来歩いた場合の時間分だけ意識を失うんだとか」
「はあ……何かユーリって、結構器用貧乏的なとこありますよね……」
「本人もそう言ってたね。まあとにかく、30分は目を覚まさないだろう。しかし珍しいな」
「?」
「見ての通り飛んだ先が確実に安全でないと使えない、デメリットが大きい能力だからね。状況上やむを得ない時に使ってもらったことはあるが、自分から使う所を見たのは初めてだ」
「……それだけライブラ(ここ)に信頼置いてるってことじゃないすかね?」
何気なく言うと、スティーブンは数瞬驚いたように目を丸くしたが、すぐに笑みをこぼした。少女のことを話している際に時折見せる上司の柔らかな表情に、レオもつられるように笑う。
「……そうだね。さて少年、ザップが来るまで手持無沙汰になる君に手伝いを頼みたいんだが、いいかな?」
「勿論ですよ。僕にできる事なら何でも言ってください!」
結理が目を覚ましたのは、スティーブンが予測した通りにそれから約30分後だった。
「とうとううちの地域も区画クジ当たっちゃったの……そしたらオーナー変わっちゃって即行追い出されて…もう超絶予想外だったから荷物すっごいあってベスパも修理中だから、しょうがないから空間転移してきたってわけ。三分間待ってやるとか自分に言われるとは思わなかったわー……」
「お疲れ……」
「荷物ほぼガラクタじゃねえか」
「選別する暇もなくて……って何勝手に開けてんですかザップさん!馬鹿じゃないのほんと!!」
「いでっ!!」
詰み上がった箱の一つを遠慮なく開けたザップに蹴りを入れて、結理は項垂れてため息をついてから気を取り直すように顔を上げた。
「まあ、選ばなきゃ住むとこはすぐ見つかるからいいんだけどね」
「住む所はちゃんと選ばないと後で揉めるぞ。クラウスと」
「ぅぐ…!そうですよね……」
しっかりと釘を刺された結理は思わず顔をしかめた。その表情とクラウスの名前が出てきたことで色々察したレオは、監視という名の家探しの手伝いをしてあげようと密かに誓う。
「あ、そうだレオ君これ、新年会の会費。虚居おさえたとかすごいじゃん」
「ありがとう。流石ユーリ!どっかのSS先輩とはやっぱ違うわー」
「だからお前が立て替えといてくれりゃ万事解決だっての!」
「やだなあ同じこと言わせないでくださいよー。ドブに捨てた方がナンボか戻ってくる可能性ありますよマジに」
「同じ文面で二度も喧嘩売るたあいい度胸してんじゃねえか陰毛頭!」
「それとスティーブンさん、今までしてもらってた家賃支援なんですけど、もう打ち切りでいいです」
「いいのかい?」
「はい。副業でまあまあ稼げてるし、それ差っ引いても結構前から活動資金で十分賄えてたんです。その分はツェッド君の設備費にでも回してください。住むとこはちゃんと真っ当なの探しますから」
「あ?魚類の設備費って何だよ?」
「そのまんまですよ」
レオに絡み出したザップを早々に視界から外してスティーブンと話していると、そのザップが聞き咎めて訝しげな問いを投げてきたので、結理は即答して解説をする。
「ツェッド君水がないとまともに呼吸できないから、専用の水槽とエアギルスとその他諸々を設備費としてライブラで賄ってるんです。それの維持費とメンテナンス費に大体……いくらでしたっけ?」
「大まかで……」
結理に問われたスティーブンが答えると、ザップは盛大に表情を引きつらせた。何気なく聞いていたレオも、予想外の値段に「マジすか…!」と呟きを漏らす。
