Sea coral

  • 環境音

    キュイィ…

  • 環境音

    ――ィィ…

  • 環境音

    コポッ…

  • ボクくん

  • ボクくん

    長い洞窟だなあって思ってたけど

  • ボクくん

    もう太陽の光が届くところまで、あがってきてたんだ…。

  • レンジ

    ここはとっておきのつうかてん!

  • ボクくん

    えっ、なに?とっておきはまださきにあるっての?

  • レンジ

    うん

  • レンジ

    ここはボクのねどこなの

  • レンジ

    ボクはいつもここでねてるんだ

  • ボクくん

    いいな。

  • ボクくん

    すげえ、いい。

  • レンジ

    えひひ!いいでしょー

  • ボクくん

    レンジは

  • ボクくん

    なんで俺に声をかけてくれたんだろう。

  • ボクくん

    どうして友達になるために、俺を選んだんだろう?

  • 環境音

    こぽ…

  • レンジ

    これみて、ちっちゃなハコだよ

  • レンジ

    ここのネジをまわすとね、ほら!にんぎょひめがでてくるの!

  • ボクくん

    …これは、オルゴールだな。

  • ボクくん

    宝箱をモチーフに横にネジがついている。ネジは古臭いデザインだな。鍵見てえだ。

  • ボクくん

    中に歯車とかついている限り、回した数だけ動いて音を鳴らすってやつだろう。

  • レンジ

    おるごーるってなに?

  • ボクくん

    そのネジをまわすとおとがなるはずなんだが、

  • ボクくん

    うみにながいこと
    、つかっていたから…だな。もううごかねえな。

  • レンジ

    そっか…

  • ボクくん

    おれんとこにエンじい…きかいにとくいなおっちゃんがいるから

  • ボクくん

    なおせるかきいてみる。

  • レンジ

    わあ!おねがいします!

  • ボクくん

    ああ。

  • 語り手

    実際、その約束は果たせなかった。

  • 語り手

    一度離れた距離は簡単には埋めることはできない。

  • 語り手

    結局、なおせなかったとウソをついて返すことになった。

  • レンジ

    そろそろあがろうか。

  • ボクくん

    ああ。

  • ざざん…
  • 環境音

    ざざぁぁぁ――んんん――

  • ボクくん

    海水からあがってきたら、また海が見えるのってもおかしな話だな

  • ボクくん

    って、およ、ふくぬれてない…

  • レンジ

    ここのどうくつをぬけたらとっておきのばしょだよ

  • ボクくん

    おう。あしがぺたぺたきもちいいな

  • ボクくん

    なるほど、レンジのおかげか。

  • カモメの声。
  • ボクくん

    崖と崖の間にある砂浜…プライベートビーチって感じだな。

  • レンジ

    ここでオレねーおひるねしてるのーひなたぼっこってねーきもちーの

  • ボクくん

    そうだな、きがねなくだいのじで、どうろのまんなかでねるのって、きもちーもんな

  • ボクくん

    それとおなじだろ?

  • レンジ

    そんなことしたらくるまにひかれちゃうよ!だめだよ!

  • ボクくん

    ばーか!じょーだんだよ。

  • ボクくん

    ――すごくきれい

  • レンジ

    えへえへっ よろこんでもらえてオレもうれしい!

  • 環境音

    ざぁぁん…

  • 環境音

    ざぁあぁあああん…

  • 環境音

    ぱしゃっぱしぱしぱし…

  • ボクくん

    ん。

  • レンジ

    ほあ

  • レンジ

    どうしたの

  • ボクくん

    ちょっと、さみい

  • レンジ

    オレあったかいから

  • レンジ

    ちかくにおいで

  • ボクくん

    うん

  • ボクくん

    レンジ ありがとな

  • レンジ

    うん

  • 環境音

    ざぁぁん…

  • 環境音

    ざああああん――

  • 環境音

    ぱしぱしぱし…

  • 夕方になって
  • ボクくん

    ん…ふあ…

  • ボクくん

    あえ…おれ、ねてた

  • レンジ

    おはよう

  • ボクくん

    おまえ、なにしてんの

  • レンジ

    スイムくんのせなかにのせてもらってるの!

  • ボクくん

    あいつ、自分の上着…おれにかけやがって…

  • ボクくん

    なんで、そんなにやさしいんだよ…

  • ボクくん

    あまえたくなるじゃんか。

  • ボクくん

    っておい、そいつイルカじゃねえか

  • レンジ

    ボクくんもいっしょにあそぶ?

  • ボクくん

    いや、スコップのハがあたったらたいへんだろ。おまえのダチをきずつけたくねえし。

  • レンジ

    スコップおいて おいでよ。

  • ボクくん

    わりい。それはやだ。

  • レンジ

    どうして?

  • ボクくん

    これは…おれと、おれのとうちゃんの、たったひとつ――の、ツナガリだから…

  • レンジ

    ずっと、もってるもんね

  • レンジ

    とってもたいせつなんだね

  • ボクくん

    ――うん、すごく、たいせつ…。

  • レンジ

    スイムくん!みずでっぽう!

  • 環境音

    ぱしゅっ

  • ボクくん

    わ!わ!おまえ、なにすんの!!

  • レンジ

    スイムくんのみずでっぽう10ぱつよけれたら

  • レンジ

    またあしたボクとあそんで

  • ボクくん

    そ、ん、な

  • ボクくん

    ことっ

  • ボクくん

    どわっ!

  • ボクくん

    しなくてもいいって!!

  • ボクくん

    あした、またあそぼうぜ!!

  • レンジ

    やくそくだよ!

  • レンジ

    ウソつかれるのイヤだから!

  • ボクくん

    !!

  • ボクくん

    ああ!ぜったいあいにくっから!

  • 語り手

    笑い声がビーチに絶えまなく響いた。

  • 余談
  • 語り手

    今、私は久しぶりに海岸通りに来て、カフェテリアでアイスコーヒーを注文し、飲んでいる。

  • 語り手

    ベランダから見える夏は変わらないほど綺麗だ。

  • 語り手

    エメラルドブルーな広い広い海を見た。

  • 語り手

    夏が住んでいたプライベートビーチ。その隣には人が充満しているビーチと連結していた。

  • 語り手

    がんばって崖につかまれば行けるのだ。

    海を泳いで渡るには沖を出てしまうので、大変危険である。

  • 語り手

    崖の上は未開拓の深い森に続いており、一口に言えば、そう簡単に来れる場所ではない。

  • 語り手

    しかし、私は行こうと思う。

  • 語り手

    もしかしたら、また目の前で夏が現れてくれるのではないか、と淡い期待を抱いたからだ。

  • 環境音

    ざぁぁん…ざぁあん…

  • 語り手

    はっ・・・はっ・・・

  • 語り手

    年寄りになったのをイヤでも痛感するよ。

  • 語り手

    …変わらないな。ここは。

  • 環境音

    ざぁぁん…

  • 語り手

    サンゴの森は、色鮮やかに映ることはなかったが

  • 語り手

    たしかに、ここで私と夏は仲良くなった。

  • 語り手

    …記憶はおぼろげだ。

  • 語り手

    自信はないが――

  • 語り手

    もっと素直になれたら「形」に残るほど、夏と触れ合うことができたのだろうか。

  • 環境音

    ざぁぁん…

  • 環境音

    キュイイ…

  • 語り手

    父と良い関係でいられたのだろうか。

  • 語り手

    もし、もう一度父に会えるなら

  • 語り手

    今度は「ウソツキ」をやめたい。

  • 環境音

    ざぁぁん…

  • 環境音

    ざぁぁん…

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