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夜が来た
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語り手
気がつくと、日は暮れて星が見える時間になっていた。
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語り手
上着だけ羽織り、海をずっと眺めていたのだ。
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語り手
ちょっとした大人って気分だ。
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ボクくん
…
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ボクくん
はらへった
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語り手
立ち上がると尻についた砂を払う。
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語り手
スコップにかけていたズボンを取り、叩いて砂を落とす。
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ボクくん
もどろ。
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語り手
海ではバーベキューをしている集団がいたり
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語り手
まだまだ遊び足りていない、子供の集団がいたりもする。
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語り手
あそこではバレーをしている人たちもいる。
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語り手
しかし、どんな1日でも終わりはやってくる。
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ボクくん
また、後で来よう。
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ボクくん
夜遅くなら、ここの海、ひとりじめできんだろッ
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ボクくん
くくく…
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語り手
靴を取り、スコップを砂からぬきとる。ザッと音と共に、スコップの刃跡がくっきり残った。
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語り手
階段に着く頃には、刃跡は波に埋もれて見えなくなるだろう。
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ボクくん
どわっ、あちちっ
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語り手
靴を拾ったが、砂まみれの素足のまま履くことはできない。
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ボクくん
お、あったあった
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語り手
けんけんしながら足洗い場に向かう。
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語り手
長く太陽に照りつけられたコンクリートは、冷めることを知らない。
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ボクくん
…
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語り手
足を丁寧に洗い、スコップも丁寧に洗う。砂がついているズボンで足を拭いている。
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語り手
それ、意味がないけど。
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ボクくん
よし、ショクバにもどっか!
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語り手
ということになった。
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語り手
海岸通りの歩道に入り、またお店や良い男の筋肉を見ることに没頭する。
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ボクくん
あえ。。。おいしそう。。。
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語り手
すっかりご飯の気分の彼は、お店のショーケースの食品サンプルに夢中だ。
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語り手
子供の頃、ショーケースに並んでいる食べ物は本物なのだと思っていた。
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語り手
腐らないのは、毎回店員が入れ替えているからなのだと。
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ボクくん
おなかへったぁ・・・
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ボクくん
はぅぅ…
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語り手
ずがっ、かかっっ、がっ
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語り手
スコップを引きずりながらトボトボと職場に戻る。
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ただいまもどりました
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語り手
職場ではビールやおつまみでテーブルに溢れている。
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語り手
テレビを見ながら笑い合っている父親が
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ボクくん
おい、おやじ
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語り手
昔は好きになれなかった。
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ボクくん
うるせえ、めし!!!
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ボクくん
はらへった!!!!
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語り手
ご飯を作ってほしい。
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語り手
…チャリ。
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ボクくん
…
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ボクくん
いってくる!!!!
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語り手
また、歩くことになった。
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語り手
ムカつくので、父親のビールを奪って飲みながら、コンビニを探した。
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ボクくん
ったく、1万円くらいよこせや。
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語り手
小学生に1万円は贅沢な身分である。
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ボクくん
えっと、タバコください。
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ボクくん
おやのおつかいで
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ボクくん
ありがとう!
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語り手
信じられるだろうか。これが普通の時代だ。
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ボクくん
はっ、ちょろ。ザコテンインが。
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語り手
300円以内で収まる時代だ。
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語り手
トントンとタバコを出して、口つける。ライターを取り出して火をつける。
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ボクくん
…
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語り手
ちょっと火が、こわかった。
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ボクくん
ぷっは~~~うめ~~~~
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語り手
まったく。
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帰宅しました
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ボクくん
あう・・・おなかへった・・・
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ボクくん
とーちゃぁん
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ボクくん
おかねおとしたぁ・・・
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ボクくん
おなかへったぁ・・・
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ボクくん
なんかつくってえ
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ボクくん
とうちゃんのごはんたべたい
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ボクくん
えぐっうっ、するめはやだぁ・・・
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ボクくん
ごはんたべたいよお・・・
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語り手
結局、父にご飯を作ってもらった。
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語り手
野菜炒めだ。
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語り手
一口に言って、美味かった。
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ボクくん
だははは!!おれもマージャンまぜろーー!
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語り手
野菜炒めのおつまみに、ビールが呑むやつなんてあるか。
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語り手
しかし、父も職場の仲間もデロデロでボクを混ぜてくれた。
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ボクくん
ろーーん!
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語り手
王手!
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語り手
それは麻雀じゃねえだろ!
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語り手
そんな笑いが絶えない職場だ。
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語り手
どうせ次の日は、二日酔いで苦しみながら、仕事をするハメになるのにな。
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語り手
楽しければ良いのだ。
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更に夜も更けて
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ボクくん
おしっこ・・・
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ボクくん
やだ、とーちゃんといっしょがいい
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ボクくん
ッ・・・
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ボクくん
あう・・・あたまいたい・・・
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ボクくん
ゆか ぎっぎっなるう
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語り手
本当に夜中に起きるやつがあるか。語り手だって寝たいんだぞ。
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語り手
どうやらおしっこがしたくなったのか、父を叩き起こして一緒に来ている。
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ボクくん
ぼっとんトイレだ・・・
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ボクくん
え、やだ、いかないで
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ボクくん
こわい・・・
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ボクくん
うん する
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語り手
トイレに入った。
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ボクくん
とーちゃんいる?
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ボクくん
――よかった…。
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語り手
長いな。
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語り手
やっと出てきた。
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ボクくん
えっ、なにい~?
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語り手
父がボソボソッと言っていたが、酔っていた頭では聞き取れなかった。
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語り手
「なんでもない」と言われてしまった。
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ボクくん
だひひっ、ひひっ、へんなの~
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ボクくん
あえ、ね、とーちゃんみてー!
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語り手
父の太い腕に指をかける。とっても、小さな手だ。
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語り手
指を窓の外に向けた。
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語り手
・・・流れ星。
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ボクくん
とーちゃん
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ボクくん
とーちゃんながれぼしおねがいした?
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ボクくん
おれしたよー
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ボクくん
おれねー
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ボクくん
とーちゃんとねもっとあそびたいな
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ボクくん
あしたいっぱいあそべますようにって
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ボクくん
おれねーちゃんと3かいねがったよー
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ボクくん
きっとかなうよね
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語り手
きっと叶うはず。
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語り手
子供の頃は願い事が叶うという行為に一生懸命だった。
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語り手
流れ星や占いや、サンタさんのプレゼントとか。
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語り手
誰かが幸せを得るには、誰かが苦労を知らなければならない。
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語り手
それはまだ、わからなかった。
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