海に来た!

  • ボクくん

    お、おお!うおお!!

  • ボクくん

    海だーー!!

  • 語り手

    大きな波の音に反し、なんとおだやかな波か。

  • 語り手

    日に焼けても焦げない砂は、持ち上げるとさらさらと溶ける。

    ボクは周りを見る。ビーチはパラソルで敷き詰められており、たくさんの人がいる。

  • 語り手

    さすがにパラソルを立てて良い場所は決まっているようで、階段から海にかけての砂浜は通れるように広々としている。

  • 語り手

    とりあえず、今は汗を流したい。

  • 語り手

    彼はもう海しか見えていない。

  • 語り手

    階段をかけ下りると砂浜に足を踏み入れた。海に向かうついでに靴を投げ出して

  • ボクくん

    っどらあ!

  • 語り手

    海に飛び込む。

  • ボクくん

    っは、あっ~~~

  • ボクくん

    きもちい~~~っ

  • 語り手

    一気に全身から熱が抜けていく。

  • 語り手

    服のまま飛び込んだために、全身ぐしょ濡れだ。

  • ボクくん

  • 語り手

    さて、しばらく彼が海に熱中している間に

  • 語り手

    当時の観光案内パンフレットが今、私の手にある。

  • 語り手

    少しだけ紹介をしよう。

  • 語り手

    このビーチはこの国いちばんの綺麗な海として知られており

  • 語り手

    夜になっても人が絶えることはないと書かれている。

    海の守り神がいるため、水難事故も起きたことは無いらしい。

  • ボクくん

    おっ、なんだこれ!

  • ボクくん

    すっげえ、きれい・・・

  • 語り手

    ボクはしゃがみこむ。

  • 語り手

    スコップの刃は海で染み込んだ砂浜に埋まる。ボクはスコップの棒部分を首横で支え、貝を見つめた。

  • 語り手

    しかし、すぐに別の何かに目移りする。

    波がボクの足元を濡らし、少しだけ、沈む。足跡を残していく。

  • ボクくん

    あ!カニさんだ!

  • ボクくん

    ――わぁ・・・!

  • 語り手

    ペタペタと砂浜を歩きながら、蟹を追いかけている。

  • ボクくん

    わっ!

  • 語り手

    ポシャッと音を立てて、尻をつく。

  • ボクくん

    あはは!まてー!

  • 語り手

    蟹が波にさらわれていく。あわてて手で真っ赤な生き物をすくってやる。

  • ボクくん

    だははー!つかまえたー!あっ!ででで!

  • 語り手

    皮膚をつねられてあわてて蟹を遠くに飛ばす。

    蟹は水平線に溶けて消えた。

  • ボクくん

    つえーな!

  • 語り手

    まだまだ知らないことがたくさんありすぎる。

  • ボクくん

    おしろつくろ!

  • 語り手

    ふたたびしゃがみこむ。もう彼の服も髪の毛も、肌も砂で張り付いている。

  • ボクくん

    ミタラシおうこくとサンゴおうこくはたいりつしていた!

  • ボクくん

    せんそうだー!

  • 語り手

    ちいさな貝殻に名前をつけて戦争ごっこをしている。

  • ボクくん

    やめてー!わたしのためにあらそわないでー!きゃー!

  • 語り手

    裏声で女の子の声を出しているつもりらしい。隣のカップルが眉をしかめるほどひどかったのだ。

  • ボクくん

    このまちはよごれてしまった。

  • ボクくん

    いまのこのまちにすくいはない。

  • 語り手

    突然立ち上がると、海に近づいて、スコップの刃に海水をためこんだ。

  • ボクくん

    せかいはほろびた。
    もうだれもいきのこらない。

  • 語り手

    そしておもいっきり城や貝殻に海水をぶっかけた。

    貝殻は砂浜に少しだけ埋まり、城は半壊した。

  • ボクくん

    なに・・・たてものがのこった・・・

  • ボクくん

    わたしのちからではまだまだたりないというのか・・・

  • 語り手

    ふたたび海水をもちこんで、同じことを2、3回繰り返したが、貝殻だけは残った。

  • ボクくん

    なぜ・・・だ・・・ひとはほろびぬというのか

  • 語り手

    人の作る神様というものは、いつの時代においてもちっぽけな存在だ。

  • 語り手

    しかし、人という物を作り上げた神様は、やはりとても大切で、大きな存在なのだ。

  • ボクくん

    このセカイはおまえたちにたくす。

  • ボクくん

    そして

  • ボクくん

    おれはうみにかえる。

  • 語り手

    もう、そうしてくれ。はずかしいから。

  • ボクくん

    どりゃーーー!!!

  • 語り手

    再び海に突撃して身体を濡らしている。

  • 語り手

    まったく、小学生というものは不思議なものだ。

  • 語り手

    ひとり遊びをしているだけでも、夕方の時間はあっという間にやってくる。

  • 語り手

    昼の青い空が絶え間なく、ずっと続くものなのだと、それすらも考えることも無く、私は幸せだった。

  • ボクくん

    はーびっしょり。

  • 語り手

    当たり前だ。

  • ボクくん

    ふくかわそ

  • 語り手

    スコップを砂浜にやや斜めに深くつきつけると、服をかけた。

  • 語り手

    おい 全裸かよ

  • ボクくん

    はーーー!きんもちーーー!!

  • 語り手

    近くにいた大人や子供はみんな指して笑っている。

  • 語り手

    場に酔った彼にとって、そんなことを気にかけてもいない。

  • 語り手

    自分が楽しいと思えればよかったし、大の字で砂浜に寝転んで、海風に当たること。

  • 語り手

    どれだけ気持ちが良いか。全身で感じてみたかったのかもしれない。

  • 語り手

    まったく、パンツくらいはきなさいよ。

  • ゆうひがまぶしい
  • ボクくん

  • ボクくん

    かあちゃん

  • 語り手

    汗が目尻から流れた。

  • ボクくん

    とうちゃん

  • ボクくん

    おれとあそんで

  • ボクくん

  • ボクくん

    さびしいよ。

  • 語り手

    大の字で夕焼け空をどれくらいの時間見ていたのだろう。

  • 語り手

    少なくとも、砂と海の匂いがこびりついた服が乾くほどだ。

  • 語り手

    ひとりあそびだけは得意だった。

  • 語り手

    得意になりたかったわけではなかったが。

  • ボクくん

    うみはいろ!

  • 語り手

    また尻まるだしで海に飛び込んだ。

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