時の旅人について

  • ラベンダ

    そっか。魔法は使わないんだね。

  • 語り手

    提案してくれたのにすみません。

  • ラベンダ

    いえいえ。

  • 語り手

    私は今、ラベンダのお店にいる。

  • 語り手

    前にラベンダに提案されたこと。

  • 語り手

    『魔法でレンジと一時的に触れ合うことができる』魔法を使うか、使わないか。

  • 語り手

    結論、私はこの考えを断った。

  • ラベンダ

    でも、どうして断ろうと思ったの?

  • 語り手

    一生見えて、触れ合えるなら魅力的だなとは思ったけど

  • 語り手

    魔法には限りがあるのがわかったから、かな。

  • 語り手

    この件は、魔法の力では痛みを和らげることはできても、長生きできるようにするには難しいこと。

  • 語り手

    これはケドルスが仲良かった叔母を失ったのを隣で見てきたからこそわかったことだった。

  • 語り手

    私としてはレンジとは一生ずっと、見えていたいし、触れ合いたいから。

  • ラベンダ

    そっか。

  • 語り手

    ラベンダはティーカップを口つけて紅茶を飲んでいる。

  • 語り手

    私はクッキーに手をのばし、口に入れる。

  • ラベンダ

    レンジ君のことだけど

  • ラベンダ

    彼の実家のようなところ、アポロンダリ帝国跡地を知っているかな。

  • 語り手

    アポロンダリ帝国――。

  • 語り手

    もうずっと遥か昔に存在していた国だろう?

  • ラベンダ

    うん、で。

  • 語り手

    ラベンダは両手の指をからめて、少し前に身体を出す。

  • ラベンダ

    レンジ君は、その帝国の亡霊と契約をしているの。

  • 語り手

    …契約?

  • 語り手

    縛られている、ということか?

  • ラベンダ

    アポロンダリ帝王がレンジ君に「90年代のはじめと終わりの夏の間だけ、この国に入れる」魔法をかけたんだ。

  • 語り手

    やたら、詳しいのは何故だ?

  • ラベンダ

    んーっと

  • 語り手

    ラベンダは少し間を空ける。

  • ラベンダ

    異空間時間遡行者がひとつの世界に複数いるのは本来はありえないって話をクリスがしたと思う。

  • 語り手

    私は小刻みにうなずく。

  • ラベンダ

    僕と、クリスとケドルスが本来ここに来たのは

  • ラベンダ

    レンジ君をその呪いから解放してあげるためなんだ。

  • 語り手

    ほう?

  • ラベンダ

    アポロンダリ帝王の目的は今のところまだわからないんだけど、

  • ラベンダ

    海で亡くなったタマシイをそこら中かきあつめて、年代ごとに海の守り神として仕分けているんだ。

  • 語り手

    つまり、レンジを解放してあげなければ、一生かけてレンジと一緒にいられることはできない、と。

  • ラベンダ

    そういうことだね。

  • ラベンダ

    んで、レンジ君とアポロンダリ帝王からは異空間時間遡行の能力を消す。

  • ラベンダ

    僕たち、クリスとケドルスは、またそれぞれ違う年代のタマシイを解放しにいく。

  • ラベンダ

    そうすれば、この世界では異空間時間遡行をつかえるのは君だけになり

  • 語り手

    おかしくなったバランスの世界は元通りになるわけだ。

  • 語り手

    しかし、何故、レンジの呪いを解く必要がある?

  • 語り手

    君はレンジの気持ちについては知っているのかい?

  • 語り手

    ラベンダは頷く。

  • ラベンダ

    クリスにおしえてもらった。

  • ラベンダ

    レンジ君は「人間になりたい」んだって。

  • 語り手

    しかし、レンジを解放してしまったら、レンジはタマシイだけになって消えてしまう恐れはないか?

  • 語り手

    それにこの国のバランスを保てていたのはレンジのおかげでもある。

  • 語り手

    おそらく、この国はダメになると思うんだが。

  • 語り手

    既に亡くなった子供だったのははじめて知った。

  • 語り手

    色々わからないことが多すぎる。

  • 語り手

    疑問をまとめて、後で聞いた方が良いと私は思った。

  • ラベンダ

    溺死した人間の肉体はほとんどきれいな状態だから、アポロンダリ帝王はそれを選んで保護してるみたいだね。

  • ラベンダ

    だから、レンジ君は肉体は持ってるんだよ。

  • 語り手

    なるほど。

  • ラベンダ

    僕たちのエゴな考え方としては、レンジ君が望む未来を与えてあげたいんだ。

  • 語り手

    君もケドルスもエゴが好きだな。

  • 語り手

    そういうところが、家族ってわけだ。

  • ラベンダ

    実際、血はつながってるしね…

  • ラベンダ

    それはさておき、ボク君にお願いごとがある。

  • 語り手

    流したな。まあ、今はケドルスのことは関係ないか。

  • 語り手

    クリス、ケドルスと一緒にアポロンダリ帝王をどうにかしろって言いたいのか。

  • ラベンダ

    今まで何度もやってきたけど、僕でもあの頑固おやじの説得はできなかった。

  • ラベンダ

    でも、今回は君がいるから、もしかしたら状況も変わるかも、しれないし…。

  • 語り手

    しょうがない。やるか。

  • 語り手

    レンジのために。

  • ラベンダ

    ありがとう。

  • ラベンダ

  • ラベンダ

    ボクさんは、ここに残って悔いはない?

  • 語り手

    わたし?

  • 語り手

    そうだなあ・・・ボクと私を分けてほしいってくらいだな。

  • ラベンダ

    でも、そうするとあなたは肉体がないから長くはいられなくなる。

  • 語り手

    元々死んでいてもおかしくはないタマシイだからな。おとなしく成仏させてもらうよ。

  • ラベンダ

    …そっか。

  • ラベンダ

    じゃあ、その分けることに関しては僕に任せてほしい。

  • 語り手

    よし、まずはアポロンダリ帝王に説得だな。

  • ラベンダ

    みんなでがんばろうね

  • 語り手

    私は頷いた。

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