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環境音
コンガの音。
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環境音
人のざわめきと
何かを焼いている音。 -
語り手
夕方の時間になると、ビーチの海の家では、普段の倍で人が溢れている。
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語り手
店内に入りきれない場合は、海の家の隣にあるオープンガーデンに案内させられる。
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語り手
ボクたちは店内に入る。
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ボクくん
おーい!ねえちゃーん!
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ボクくん
こっちこっち!
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語り手
煮卵みたいな色になるほど、肌を焼いた金髪のお姉さんだ。
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語り手
主張するがごとく谷間は見えているし、
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語り手
抑えきれない巨乳は――エプロンで支えられているだけでも精一杯という感じだ。
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語り手
ゲイでも巨乳には釘つけになる人もいるのだ。
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語り手
決して巨乳に発情しているわけではない。
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ボクくん
ふたりのせき、あいてない?
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語り手
店員はボクの後ろを見ている。後ろはイチャイチャしているカップルがいる。
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ボクくん
あ、そっか、おまえ おとなにはみえないっていっていたよな。
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ボクくん
――どうしよう。
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語り手
奥からよいぼれおじいちゃんがヨタヨタとボクに近づいてきた。
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語り手
店員に「二人分の席に案内してあげなさい」と声をかけてくれた。
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語り手
店員は慌てておっぱいを揺らしながら、接客をはじめる。
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語り手
なにがなんだかわからない。
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ボクくん
うみがみえるとこなんてラッキーじゃん!
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ボクくん
レンジ!はやくこっちこいよ!
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語り手
レンジという言葉に反応した人がいたが
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語り手
今にしてまとめてみると気づく、ささいなことだ。
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語り手
当時のボクはレンジに糸こんにゃくを食べて欲しいという一心だった。
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波の音。
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ボクくん
やっぱよるはすずしいな
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レンジ
うん
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レンジ
ガードリアくんがたべものぬすみにこないといいけど
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ボクくん
だれそいつ
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レンジ
あそこにいるよ
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ボクくん
カモメじゃんか
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レンジ
ガードリアくーーん
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レンジ
オレのたべないでねー!!
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環境音
ギュアッ
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ボクくん
おれのもとるなよー!
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ボクくん
おれのことばはむしかよ!
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語り手
ボクとレンジは向かい合わせでメニューをにらめっこだ。
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語り手
頼むものは決まってはいても、他の品をついでに覗く癖は直らない。
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レンジ
ねえ どうしてにんげんってごはんたべるの?
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語り手
レンジはメニューをお腹の下敷きにし、前に乗り出して、ボクを見つめている。
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ボクくん
はらへったから。
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ボクくん
はらへりがまんするとつらいから
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レンジ
どれくらいつらいの
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ボクくん
ないて、とうちゃんにすがりついた。
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レンジ
それはたいへんだ
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ボクくん
だははっ
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語り手
店員がしびれを切らして来るまで、レンジと軽い冗談を掛け合った。
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語り手
地元ではない観光客の大人から見たら、ボクが虚空に向かってひとりごとしているように見えるだろう。
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語り手
でも、そんな視線など、こどものボク達は気にもならない。
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語り手
とても、楽しかった。
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注文中
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ボクくん
やっぱダイコンと
ゆでたまごとコンニャクだな。 -
レンジ
おいしい?
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ボクくん
おまえっていつもごはんたべてる?
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レンジ
たまにトモダチとあそぶときおやつたべるよ
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ボクくん
おやつはごはんじゃねえだろ
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ボクくん
まわりをみてみろよ カレーライスとか「ごはん」だぞ
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レンジ
こんどたべてみようかな
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ボクくん
いまたのんでもいいんだぞ
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ボクくん
オレがおごるよ
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レンジ
んーーー
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レンジ
きょうはボクくんといっしょのごはんたべる
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レンジ
だめ?
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ボクくん
――べつにダメっていってねーよ。
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ボクくん
んじゃ、おまえもおなじな。
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レンジ
うん♪
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語り手
しばらくして、おでんの皿を持った店員がやってくる。
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語り手
ボクの前に置かれる。ふた皿分食べると思われたらしい。
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ボクくん
レンジ。
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レンジ
ありがとう いーにおいだね
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ボクくん
っておまえ、はしもったこともねえのかよ
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レンジ
あう?
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語り手
明らかにこれから箸で人を殺しますよって持ち方だ。
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ボクくん
おれのマネをしろ
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語り手
マネをさせるほど完璧な持ち方ではないが。
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レンジ
あう~~むずかしいよう・・・
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レンジ
いぬぐいだめ?
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ボクくん
だめ。
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レンジ
んあ~~う
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ボクくん
そうそう、そのちょうし。
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ボクくん
のみこみはえーな
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語り手
何様だ。
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食べますか!
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レンジ
たまご
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語り手
おでんの具 卵。
定番中の定番だろう。 -
レンジ
ぷるぷるー!きゃははっ
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ボクくん
んっ はふっ! あふっ んっ おいひっ
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語り手
箸で卵を刺し、広げるように割る。
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語り手
じゅわ~と、卵から黄身とおでんの汁がにじみ出る。
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語り手
大人の楽しみ方と言えば、からしに絡みつけて食べるのが定番と言ったところだろう。
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レンジ
ん~~~~おいしい!
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ボクくん
おいしいな!
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レンジ
うん!
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語り手
あつあつの状態でまるごと口に入れ、かちわった時の口に広がるあの感じ。
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語り手
やや堅めのご飯と相性がとても良い。
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語り手
あっという間に卵を食べる二人。
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語り手
くうっ、私もビール片手におつまみにしたい!
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さてお次は
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レンジ
だいこん
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レンジ
ってなに?
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語り手
大根。
おでんの具の中で最強の野菜だ。 -
ボクくん
うみにはえてるワカメやカイソウとにたかんじだ。
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語り手
それは違うだろ。
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レンジ
おやさいか
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ボクくん
そうそう
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レンジ
わーくずれちゃうっ
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レンジ
んや~~~ん もてない
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ボクくん
くっ、だははっ!おまっ、だひっ、なんちゅーっはははっ
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レンジ
もーむずかしいんだもんっ
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語り手
完全に犬喰いだ。
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語り手
煮込みすぎた大根というやつは、箸で持とうとすると崩れやすい。いや、崩れるのだ。
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語り手
しかし、煮込んだ野菜はお肉以上の甘味を引き出す。
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語り手
おでんの汁と大根の水分がとろっとにじみ出ている。
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語り手
やはり堅めのご飯の上に乗せて食べるのが私流だ。
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ボクくん
あふっ
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レンジ
んっ、ふっ、あぐっ
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レンジ
おいしい
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ボクくん
んふっ
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さいごに
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レンジ
ほーっ いーちゃんみたい
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語り手
補足をすると
いーちゃんはイソギンチャクだ。 -
語り手
ボクの好物
糸こんにゃく。 -
ボクくん
おれはくずすのがすきなんだ
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ボクくん
あとはスパゲッティみたいにずるずるーってたべるんだ
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レンジ
まるごとかじってもいい?
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語り手
ダメなんて言うはずはない。
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レンジ
んっ ぐっ、 む。
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レンジ
おいしい…
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ボクくん
あっふ あふい あふっ
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語り手
糸こんにゃくも、こんにゃくも。やはりおでんの具では定番だろう。
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語り手
しかし他の具材と比べて特に語るところはない。
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語り手
からしにつけてまるごと食べるか、少しずつ崩して食べるかでわかれるだろう。
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ボクくん
あーうまかった
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レンジ
おいしかったーー!
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ボクくん
…
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ボクくん
レンジ。
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レンジ
う?
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ボクくん
ありがとな
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レンジ
オレも、きょうはありがとう
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レンジ
とっても、たのしかったよ
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語り手
おでんの汁やとろけた黄身だけが皿に残っている。
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語り手
残りのお金でカレーライスやジュースも頼んでみた。
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語り手
とってもおいしかった。
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語り手
先ほど席を案内してくれたおじいちゃんが、ボクたちの席に近づいた。
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語り手
レンジのいる方向に会釈し、二人分のアイスを置くと、サービスですと言って引き下がった。
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ボクくん
お、おじいちゃん ありがとな!
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レンジ
…
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ボクくん
レンジもありがとう!だって!
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語り手
おじいさんは高らかに笑っていった。
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レンジ
ボクくん
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レンジ
ぼくのきもち
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レンジ
つたえてくれたんだね
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ボクくん
こんなの当たり前だろ
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ボクくん
レンジはおれの
大切な友達だ。 -
レンジ
ありがとう…
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レンジ
あの人ね…ぼくのトモダチだったんだ。
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レンジ
ぼくよりもずっとトシヨリになっちゃったけど
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ボクくん
…見えなくても、見えているか。
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レンジ
う?
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語り手
ダンサーがステージにあがると火のリングをくぐったり、音楽にあわせてリンボーダンスをやっていた。
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語り手
太鼓の音がドコドコとボクの胸に響かせる。
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語り手
とても熱くて、感情が一気に押し寄せて
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ボクくん
アイス、たべようぜ
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レンジ
うん!
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環境音
ざぁぁん…
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環境音
ざぁぁああん…
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語り手
取りとめのない会話をした。
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語り手
大人になると、忘れてしまったものがありすぎる。
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語り手
普段は聞き流してしまう、平凡で、当たり前だった些細な会話の中に
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語り手
貴方の心に想い出は詰まっている。
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