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語り手
ここ最近、激しい雨が降ることが多い。
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ボクの父
うぉ~~い、おちゃ
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ボクくん
あいよ~~
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語り手
天気予報では台風が近づいている、とのことで、
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語り手
昨日のうちに大事なとこの補修を終わらせたため
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語り手
今日と明日はほとんど営業休止みたいなものだ。
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ボクの父
ボク、ナースさん呼んでくれないか
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語り手
突然のことで驚き、振り向いた。
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語り手
雨で霧かかった海をガラス一枚、壁の内側から見つめてぼんやりしていたのだ。
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ボクくん
なに、どっか悪いのか!?
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語り手
父は顔を横にふり、笑いをこらえている。
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ボクの父
いや、ナースちゃんのミニスカの谷間の影がみたくてな!
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ボクくん
はやく退院した方が、俺もナースも助かるかもな。
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語り手
素っ気なく言う。
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語り手
親父はいけずう!って言いながらも、ふとんに潜る。
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語り手
腰はほとんど大丈夫なようだな。
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ボクくん
明後日には退院出来るみたいだし良かったじゃんか。
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ボクの父
もうちょっと入院していても良かったんだけどなあ
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語り手
一昨日、クリスのおじさんから、ぎっくり腰くらった場合の「塗り薬」をいただいたのだ。
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語り手
クリスには申し訳なかったが、そのおじさんに対し、少しだけ半信半疑だった。
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語り手
店の雰囲気もそうだが、胡散臭かったからだ。
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ボクくん
でも、早く治れば、周りの心配もはやく解けるから、かえって良かったんじゃないか?
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ボクくん
…おれも心配だったし。
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語り手
ぼそぼそと、私は床を見つめながら呟いた。
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語り手
親父から名前を呼ばれ、ゆっくりと顔を上げる。
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ボクの父
ありがとうな。
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語り手
抱きしめられた。
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語り手
結局、8月の終わりまで滞在は出来なくなるが、家族も大切だ。
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語り手
仲間も大切だ。
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語り手
やっぱり、さびしいか。
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ボクの父
明後日、退院がてら、菓子折り持って、クリスくんの叔父さんに会いに行かんとな。
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語り手
私は頷いた。
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語り手
余談だが――ここ毎日、ケドルスが、車椅子に乗っているおばあちゃんと一緒にいるのを見かける。
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語り手
2人とも笑顔なところから、
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語り手
幸せそうだなあと伝わってきた。
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語り手
その雰囲気を茶化したくはなかったので
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語り手
なるべく病室内で顔を合わさないようにしたり、
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語り手
仲間のうちでもからかうことも、ケドルスの意外な面も、
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語り手
言わないようにしてみた。
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語り手
別にケドルスに頼まれたからではなく、
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語り手
ケドルスの笑顔を見ていたかったから。
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語り手
クリスとケドルスの二人の関係性については、私以上に二人は、自分自身で距離感をわかっているようにも思える。
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語り手
この場合、触らない方が二人のために良いものだと思い、深入りはしないことにした。
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語り手
レンジの方はどう思っているかはわからないが。
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退院して
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クリス
あ、ボクくんいらっしゃい!
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クリス
えっと、うしろの方は…?
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ボクくん
こいつがおれのおやじ あだっ
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語り手
親父に頭を軽くたたかれた。
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ボクの父
こら!あーっえっと、こいつの父です。
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ボクくん
このこはクリスだよ。
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ボクの父
おお!例の!
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クリス
例のって?
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語り手
クリスは親父との距離を測るかのように問う。
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ボクの父
クリスくんはボクくんの友達だって伺ってたもので!
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ボクくん
そういうこと。
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クリス
あーなるほど、あ、叔父さんいるんで、呼んできますね。
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語り手
クリスは店の扉を開けたまま、中に入る。相変わらず声はハキハキしているため、叔父さんの名前らしき言葉が耳に届いてくる。
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語り手
私と親父はほんの数分ではあったが、店の外で待っていると、パタパタと足音が聞こえ――
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ラベンダ
ごめんなさいね お待ちして。どうぞ、中にお入りください。
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語り手
改めて全体を見ても、初めて聞いた時に想像していたよりもずっと――
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ボクの父
若いな…
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語り手
親父にうなずいた。
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語り手
ラベンダに促され、私たちは店内に入り、夏の熱気を体内から追い出したのだった。
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店内にて
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ラベンダ
腰はどうでしょう。痛みますか?
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ボクの父
全然ですよ。仕事も快調です。あ、これ、お口に合えばと思いまして
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ボクくん
ここのご当地の菓子折りだけどな
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ボクの父
えっと、お名前は?
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ラベンダ
ラベンダです。
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語り手
ラベンダと私の親父は頭を下げあいながらお菓子を渡し、受け取って。
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語り手
ラベンダが作ったおやつと一緒にもりつけて、それをつまみながら、軽く雑談を交わした。
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語り手
当然とは当然なのか、大人には魔法を見せないのか。
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語り手
店内の天井も2階はなくなっていたしなあ。
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ボクの父
それでは、私の方はこれで失礼します。ボクのことをどうぞ、よろしくお願いします。
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語り手
クリスも、ラベンダもうなずいた。
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ボクの父
後でまた車で迎えにくるから、事業所に電話するんだぞ。
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ボクくん
ん。
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語り手
親父が出ていくのを確認すると、ラベンダは戸を閉めて、微笑みながら席につく。
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ラベンダ
想像していた以上にすごく、ボクくんにそっくりだったねぇ
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クリス
でしょ!すっごく良い人だったね!
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ボクくん
よせよ 照れる
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語り手
私は紅茶を飲む。とても良い香りだ。
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語り手
メーカーを聞いたところ、まず、この国、この時代では手に入らないレアな葉っぱのようだ。
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ボクくん
こういうのって、やっぱ魔法使っていろんな時代に行ってるわけ?
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ラベンダ
そうだよぉ
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ボクくん
そういえば今日はレンジとケドルスはいないんだな。
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語り手
今日は小雨だったが、風は強い。
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クリス
ケドルスは多分、病院だろうけど、レンジはこの国の海の見回りだろうね。
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語り手
私はキョトンとクリスを見つめる。クッキーが落ちたのであわてて手で拾い、口に投げた。
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ボクくん
そういや・・・あいつはそういう守り神――だっけ?そんな感じのことをしているんだっけ。
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語り手
何かの本で読み、私は知ったはずだ。図書館にあるだろうか?
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ラベンダ
この台風が近づく日になっても、観光客って不思議なものでねえ、波に乗りたがるサーファーもゼロ、じゃないんだよねぇ
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語り手
ラベンダはティーカップに口をつけながら少し、目を開いてカップの中身を見つめている。
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クリス
レンジはちゃんとヒーローしていてすごいと思う。
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クリス
僕も生身じゃなかったら見回りとかするのに。
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ボクくん
さすがに生身は無謀だよな。身体能力もないし。
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ボクくん
あっ、わりい
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語り手
クリスは首をふりながら笑っている。ラベンダはクリスを見つめている。とても、やさしそうだ。
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クリス
でも、本当にその通りでさ
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クリス
無謀と勇気を履き違えないようにって思いつつも
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クリス
身体はムズムズしちゃうんだよね
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クリス
まだまだ僕にはむずかしいかも。
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語り手
クリスは頭をかきながらまゆをひそめて笑っている。
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語り手
笑える内容ではなかったが、笑ってあげた方が気まずくはないか・・・?
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語り手
ごめん、クリス。
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少し時間が過ぎ
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ボクくん
そういえば、どうして大人には魔法を見せて、おれには見せてくれたんだ?
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クリス
だって、ボクくん。精神年齢の割には結構ファンシーなんだもん。
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ボクくん
ははは・・・・あ?
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語り手
精神年齢の割には?
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語り手
時計の針の刻む音が耳にはっきり聞こえる。
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語り手
急に背筋が寒くなった。
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語り手
私が58歳の老人で、ボクの体を借りてこの世をさまよっている話は
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語り手
クリスにはまだ、していない。
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ラベンダ
ね。
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語り手
ラベンダは少し前のめりに私に近づく。
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ラベンダ
あなた、魔法が、つかえるでしょ。
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ラベンダ
しかも、そこそこ魔力が高めの。
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ラベンダ
平均50代くらいの精神魔力かな?
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語り手
言葉が出てこなかった。
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クリス
そんな、ビクビクしなくて大丈夫だよ。
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クリス
ラベンダもうちょっと言い方考えてよ、ボクくん怖がってる。
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ラベンダ
え!?
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ラベンダ
あ、ごめんなさいね 気に障ったようで・・・。
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ボクくん
いや、あの、その。
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語り手
どう言葉を返せばいいんだ?
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語り手
私の頭はパニックだった。
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ラベンダ
別に悪いとか良いとか、そういう話じゃなくて
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ラベンダ
貴方がレンジ君のことを見えない理由を教えたくて
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語り手
ラベンダは私を見据えたまま語りかけてくる。
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語り手
ボクにではなく、ワタシに、だ。
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ラベンダ
もう、ほとんど確信はしてるとは思うけど、レンジ君には特殊な魔法がかかっているんだ。
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ボクくん
…時間遡行の魔法か?
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ラベンダ
少し訂正すると、異空間の時間遡行。
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クリス
えっとね、時間だけじゃなくて、いろんな同じ世界を行き来できる魔法なんだ。
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ボクくん
なんとなく、わかる。
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ボクくん
つまり時間が戻ったのではなくて
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ボクくん
特定の時間の世界に来ているだけ、ってことか。
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ボクくん
いろんなってどういうこと?
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クリス
えっと、んーパラレルってわけでもなくて
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ラベンダ
えっとねぇ、こう言えばわかりやすいかな。
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ラベンダ
100個地球があり
それぞれ100個分の同じ生き方をしている。
100人のボクくんがいるの。 -
ラベンダ
基本、何か異なる動きをしない限り、絶対に未来が変わることはない。
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ボクくん
ふむ。
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クリス
その100個のどれかに、ボクくんとレンジは「たまたま」同じ世界で出逢ってる状態なんだ。
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ボクくん
なるほどなあ・・・
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語り手
きみたちにもわかってもらえただろうか?
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ボクくん
おれが持つ精神魔力ってやつ?それも異空間時間遡行に関係しているのか?
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ラベンダ
長く生きるほど、悔いの残らない人生をした人や、そうじゃない人がいる。
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ラベンダ
「戻りたい」という気持ち、「やり直したい」という強い気持ちが
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ラベンダ
貴方の潜在していた魔力が開花されたってことなんだぁ。
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クリス
でも、本来は自己満足で終わるんだけどね。
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ボクくん
どういうことだ?
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クリス
同じ世界に「別の世界の記憶を持っている」人は本人以外はいないはずなんだよね。
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ボクくん
レンジの想いとオレの想いが一致したってこと?
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クリス
ボクくんの本来の目的ってなに?
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ボクくん
親父と仲良くなることだな。
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ラベンダ
僕が考える原因としては
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ラベンダ
レンジ君はボクくんを引き寄せるために大人になったボクくんのタマシイも持ってきてしまった。
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ラベンダ
すごく酷な言い方をするけど、元々はレンジ君の望みが原因で
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ラベンダ
貴方が来てしまい、ボクくんはレンジ君と触れ合うことができなくなってしまった、ということ。
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ボクくん
なんとなくだったけど、なんとなくじゃなくなったな。
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ボクくん
でも、突破口は見えてきたんだぜ。
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語り手
クリスは微笑んでいる。彼もやっぱりわかってはいたのか。
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ボクくん
おれが大人から子供に戻っていけば、レンジと触れ合えるということ。
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ラベンダ
なるほど
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ラベンダ
でも、もうちょっと簡単に触れ合える方法がある。
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ラベンダ
僕の補助魔法で「触れ合えるようにできる」ということ。
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ボクくん
な、え、まじ!?
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クリス
ラベンダの魔法はね炎が雪に近づいても溶けないようにしたりとか、雷に当たっても死なないように、とか。
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クリス
ケガした人を治すこともできるんだ。
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ラベンダ
軽いケガだけだけどね。
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ラベンダ
医学に詳しいわけでもないから。
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ラベンダ
どうかな?台風が落ち着いた頃にでもレンジくんを連れてきて、姿を見せるようにしてあげるよ。
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語り手
それで、わざわざ遠回しに話題を持ち込んできたのか。
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語り手
本題はこれだったのか。
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語り手
しかし、ここまで来て楽な方向に逃げても良いのだろうか。
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語り手
私はともかく、責任をおそらく感じているだろうレンジの気持ちは、どうなるんだろうか?
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ラベンダ
姿が見えるのはこの国に僕がいるだけだけどね、夏が終わったらお店畳んで旅に出ちゃうし。
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ボクくん
そ、それは
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ボクくん
…少し、考えさせてくれないか。
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ラベンダ
うん。わかった。
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語り手
夜中、考えをずっとまとめてみた。
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語り手
魔法というものは長く生きた分だけ潜在魔力が貯まっていく。
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語り手
魔法物でおなじみの禁忌というものはなく
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語り手
お金を作ることも、人の気持ちも変えることができたり、人を殺すことも、生き返らせることもできる。
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語り手
ただ、生半端な知識と努力では通常不可能とされている。
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語り手
レンジと私は異空間時間遡行という魔法が使える。
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語り手
レンジが私を引き寄せた。
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語り手
それは私に逢いたかったからか?
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語り手
それとも、何か理由でもあるのだろうか?
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語り手
「姿を見せられることも触れ合うこともできる」魔法。
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語り手
それに頼れば、もうあと数日間しかいられないこの島で、レンジと触れ合うことができる。
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語り手
レンジもいいよーって言えば、それでいいのか?
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語り手
この努力は私たちにとってすべて、無駄だったのか?
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語り手
わからない…。
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