世界観の話

  • 語り手

    車を走らせる音が聞こえた。いつのまにか眠ってしまっていたのだ。

  • 語り手

    カーラジオからは交通情報が流れている。

  • 語り手

    私は車窓の外を開け、カモメが飛び交う港町と、青い空と大きな白い雲が広がっているのを見た。

  • 語り手

    窓の外から流れてくる音は

  • 語り手

    カモメの声や、ストリートを歩く人々の話し声、そして夏の音。

  • 語り手

    きみは

  • 語り手

    今も変わらない夏で居てくれているのだろうか。

  • 語り手

    レンジとボク。

    世界観の話。

  • ・・・・
  • 語り手

    199×年の夏。
    セミの声、バイクの音。

    俺は白いペンキで屋根を塗っていた。

  • ボクくん

    うし、もうすこし――

  • ボクくん

    よし、

  • ボクくん

    おーい!おやじー!屋根のペンキ塗り!おわったぞー!

  • 語り手

    俺はトタン小屋の屋根の上で声を張り上げる。下で補修作業している人。それが俺の親父だ。

  • ボクくん

    おー今そっち行く。

  • ボクくん

    …、っしょ

  • ボクくん

    汗だくなのはお互い様だろ、親父なんかシャツが透けて、肌が見えてんじゃねえか

  • ボクくん

    昼飯買ってきてやるよ。金くれ。

  • ボクくん

    ん。

  • ボクくん

    よっしゃ、行ってくっから。

  • ボクくん

    うっせ、ガキじゃねえんだからポッケに入れた金は、落とさねえよ

  • 語り手

    ジャラジャラと小銭の音を鳴らし、クリーム色に敷き詰められた、石レンガの道を走り出す。

  • 語り手

    俺がペンキ塗りをしていたこの辺一帯は、似た建物でぎっしりと詰まっている。

  • 語り手

    青い建物の影は、気温は変わらないはずなのに、不思議と涼しさを感じさせた。

  • 語り手

    やがて、密集されてできた影がぷつっと途切れると、熱気が体中を吹き付けた。

  • ボクくん

    あっつ…

  • ボクくん

    あっ、すんません。

  • ボクくん

    ここは相変わらず人多いな…

  • ボクくん

    あ、おっと。

  • ボクくん

    スコップ落とすとこだったぜ。

  • 語り手

    広場に出ると、たくさんの観光客や住民で溢れている。真ん中には小さな穴がたくさんあり、そこから湧き出た水で遊ぶ人もいる。

  • 語り手

    近づくと太陽の曙光できらめいた水しぶきが、服や髪に染み込み、しっとりさせる。

  • ボクくん

    っは~~…きもち。

  • 語り手

    噴水の近くでは深く帽子をかぶり、ギターで弾き語りをしている人と、マイクを握って歌っている女性がいたり

  • 語り手

    あそこでは、足が長いピエロが風船を配っていたりする。

  • ボクくん

    んあ、やべ、店行かなきゃ。

  • 語り手

    俺は愛用しているサンドイッチ専門店に向かっていた。この街に訪れるたびに愛用していたお店だ。

  • 語り手

    人気なお店のため、今日でも、ギラギラに照りつける空の下、行列は絶えない。

  • ボクくん

    雨の日の方が少ねえよなあ、やっぱ。

  • ボクくん

    げっ、すげーー並んでる…

  • レンジ

    おー!おー!ボクくーん!

  • ボクくん

    …げ、あいつ。じはんきの前で何してんだ。

  • 語り手

    この街の自販機の高さは、子供の身長で買いに行くにはやや不便なのだ。

  • ボクくん

    なにがほしいわけ?

  • レンジ

    え!えーーっとね!

  • ボクくん

    ん。

  • 語り手

    スコップを短めに持ち、先を長くすると、ボタンに押し付けた。

  • 語り手

    ガシャコンと音を慣らし、ポカリスエットをレンジに渡す。

  • レンジ

    あえ

  • レンジ

    まだなんも言ってないよー!

  • ボクくん

    お前が言わなくてもポカリが良いって言うだろうが。

  • レンジ

    んーーーそんなことないよ コーラ飲みたい気分かもしれないでしょ!

  • ボクくん

    それはなし。コーラはおれが飲むから。

  • 語り手

    ガシャコン

  • ボクくん

    コーラ、飲むのか?

  • レンジ

    え、大丈夫だよ。

  • ボクくん

    ポカリが良かったから嬉しい、だろ?

  • レンジ

    もーー!さきよみしないで!

  • レンジ

  • レンジ

    ボクくん ありがとう

  • ボクくん

    …あっそ。

  • 語り手

    彼が先に歩く。夏は、ほんの少しだけ後ろにそれて歩く。

  • 語り手

    これが、いつものふたり。

  • ボクくん

    どーいたしまして。

  • レンジ

    えへへ

  • レンジ

    サンドイッチ屋に並ぶってことは、これからひるめしだ!

  • ボクくん

    …さーてどうでしょう。おれの考えてることがわかるかな?

  • レンジ

    わかりまっせーーん!

  • ボクくん

    はは。

  • 語り手

    俺と夏が話している姿は、夏を信じる者には二人に見えているだろう。

  • 語り手

    ここにきたばかりや、心が通じ合えないやつには「ひとりごと」しているように見えるだろう。

  • 語り手

    夏が近づいてくる。

  • 語り手

    隣に並ぶ。

  • ボクくん

    ――そう。

    それだけでも、おれは

  • ボクくん

    うれしい。

  • ボクくん

    今年は少しでも

  • 語り手

    夏(きみ)の
    そばにいたい。

  • ボクくん

    あーえっと、チーズ&ハムベーコンサンドイッチを…

  • ボクくん

    3個お願いします。

  • 語り手

    今年の夏はとても、暑かった。

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