クリスとボク

  • 語り手

    午前中仕事をして汗だくだった。

  • 語り手

    昼飯は仕事仲間と筒を挟んで流し素麺だ。

  • 語り手

    のどから食道へと素麺が通っていく。

  • 語り手

    素麺を取った後、氷も一緒に添えたくなるものだ。

  • 語り手

    流している水が曙光できらきらと輝いている。

  • 語り手

    仕事には遊びの要素も必要だ。

  • ・・・
  • レンジ

    ねーボクくん

  • レンジ

    きょうもだめ?

  • 語り手

    すぐに海に向かうより、

  • 語り手

    なんとなく読書をしたい気分になったのだ。

  • 語り手

    ぶらぶらと、海岸通りの店のガラスケースを眺めながら、

  • 語り手

    展望図書館へ続く石レンガの道を歩く。

  • レンジ

    あーん まってよー!

  • レンジ

    んもーぼくをおいてかないで!!

  • ボクくん

    なーもー暑いんだよ~~

  • 語り手

    おでこのバンダナは、とっくにぐしょぬれだ。

  • 語り手

    スコップも持つのもめんどくさい。

  • 語り手

    じりじりと太陽は私の肌を焼き、追い詰める。

  • 語り手

    まったく、勘弁して欲しいものだ。

  • 語り手

    ――展望台が見えてきた。

  • 語り手

    …なんとなく

  • ボクくん

    レンジ。

  • レンジ

    !!!!!

  • 語り手

    名前を呼ぶ。

  • レンジ

    いるよ!ぼく!ここにいるよ!

  • ボクくん

    …。

  • ボクくん

    おれのそばから離れるなよ。

  • レンジ

    !!

  • レンジ

    うん!!!!

  • 語り手

    展望台に向かって歩き出した。

  • 語り手

    いる。

  • 語り手

    そんな気がしたのだ。

  • ・・・
  • 語り手

    扉を開けると、涼しい風が身体に吹き付け、外に漏れていく。

  • 語り手

    少し痛いくらいだ。

  • レンジ

    ごほんよむの?

  • レンジ

    えほんのコーナーいこ!

  • 語り手

    さて、文化コーナーにでも寄るか。

  • レンジ

    あーん!そっちはおとなむけのコーナーなのー!

  • レンジ

    ぼくもじきらーーい!

  • 語り手

    ニスが張った階段の手すりにつかまりながら、二階を上る。

  • レンジ

    わー!おさかなさんがおそらでおよいでるよー!

  • レンジ

    ねー!ボクくん!すごいねー!

  • ボクくん

    しかし、何度みても天井の魚のガラス張り綺麗だな――

  • ボクくん

    レイアウトの参考になるな。

  • レンジ

    レイアウトってなにー

  • レンジ

    あーん もーまってー

  • 語り手

    さて

  • 語り手

    海洋生物でも調べてみようかな

  • 語り手

    背表紙を指でなぞって確かめていく――

  • ボクくん

    んお、海底神殿――

  • レンジ

    あ、いたっ

  • レンジ

    なにかみつけた?

  • 語り手

    本を指で抜き取り、パラパラとめくる。

  • 語り手

    アポロンダリ帝国

  • 語り手

    XXX年

  • 語り手

    大地震による自然災害――津波に巻き込まれて、海底神殿と化す――

  • 語り手

    帰宅して読み返しても、どうしてアポロンダリ帝国という文字に

  • 語り手

    興味が惹かれたのかはよくわかっていない。

  • レンジ

    ボクくん

  • レンジ

    ねーなんのほんよんでるのー

  • レンジ

    ぶー

  • 語り手

    挿し画像は写真ではなく手描きなのが時代の古さを感じ取れる。

  • 語り手

    当時使用されていた物はここの図書館にあるのがわかった。

  • 語り手

    この時期に展示物として公開されているらしい。

  • 語り手

    見に行く価値はあるだろう。

  • 語り手

    それはともかく、この海岸通りの海底にそれがあるということは――

  • 語り手

    元々、この国は高い山頂にあったということになる。

  • 語り手

    死者のタマシイが眠る場所――

  • 語り手

    そういえば、レンジは「幽霊」は見えるのだろうか?

  • レンジ

    ボクくんのーほん

  • レンジ

    よくわかんなーいなー

  • レンジ

    どんなほんなのかなー

  • クリス

    あれっ、レンジ!

  • ボクくん

    んおっ!?

  • 語り手

    レンジの名前を呼ぶ声がして、本から視線をはずし、顔をあげた。

  • クリス

    めずらしいね ここにいるなんて

  • クリス

    文化コーナーに興味があるの?

  • 語り手

    全体的に黄色に包まれた少年だ。私とレンジより見た目は少し幼い。

  • クリス

    なあ、後で砂浜でバレーしようよ。

  • クリス

    きみもくる?

  • ボクくん

    おっえ、っおれ!?

  • クリス

    うん レンジもくるでしょ?

  • ボクくん

    …レンジ――

  • 語り手

    そばにいてくれたんだ。

  • 語り手

    子供の近くにいると、レンジの傾向がわかりやすい。

  • クリス

    15時集合だから、俺も時間潰しで本読みに来たんだ。

  • クリス

    海洋生物についてレポート書きたくてさ

  • ボクくん

    あっ、なら、これを読むといい――

  • 語り手

    私は本を少年に渡す。

  • クリス

    わー!ありがとう♪

  • クリス

    俺もここに座って読んでいい?

  • クリス

    えっと――、あ、俺クリスって言うんだ。

  • ボクくん

    おっ、おれはボクだ。

  • クリス

    僕君?

  • ボクくん

    ボクでいいよ。君は合わないから。

  • クリス

    でも、レンジは君付けだよねー

  • クリス

    どうしたの?レンジ。

  • ボクくん

    …。

  • ボクくん

    レンジ。退屈ならクリスについて行って大丈夫だぞ。

  • ボクくん

    ここのコーナーは難しい本が多いから。

  • クリス

    絵本コーナーならおもしろい本いっぱいあると思うよ。

  • クリス

    一緒に行こう?

  • 語り手

    もどかしい。

  • 語り手

    言葉がわかれば付き添えるのに。

  • 語り手

    気持ちがわからない…。

  • ・・・
  • クリス

    へえ、お父さんの仕事の手伝いでここに来たんだ。

  • クリス

    俺も仕事でここに来たんだ。

  • ボクくん

    ほお、何の仕事をされてるんですか?

  • ボクくん

    おっと――

  • 語り手

    口調が安定しなくなってきた。おちつけ、俺。

  • クリス

    …えっと、おじいちゃんが園芸とアクセサリーの販売をしているから

  • クリス

    午前中はお手伝いしてるんだ。

  • ボクくん

    ははは 仲間だな。

  • クリス

    そうだねー!

  • クリス

    レンジさっきからどうしたのほっぺふくらませて

  • ボクくん

    …。

  • ボクくん

    二人とも、何か飲むか?

  • ボクくん

    おごりたい気分なんだ。

  • クリス

    え?いいの?

  • ボクくん

    全然OK 何が飲みたい?

  • クリス

    じゃあ 俺コークがいいな。

  • クリス

    え!?レンジもコーラがいいの!?

  • ボクくん

    わかった。行ってくる。

  • 語り手

    よし、誘導完了だ。

  • 語り手

    クリスには悪いが通達係りになってもらおう。

  • クリス

  • クリス

    いってらっしゃい

タップで続きを読む