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語り手
展望図書館の冷気に当てられながら、私とクリスは読書に耽っていた。
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ボクくん
くあ…う。
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語り手
お盆も過ぎ、夏の中盤に差し掛かった。
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語り手
仕事も大詰めというところで、私が帰らなければいけない時も近づいてきていた。
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語り手
なんとか話をつけて、夏休みの間だけ、ここにいることはできないか、おやじに相談を持ちかけるつもりだ。
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クリス
ねえ、ボクくん
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ボクくん
んあ?なに?
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クリス
ボクくんは将来どんな夢を持ってる?
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語り手
カチカチとグランドファザーロックの刻む音がする。
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語り手
外ではかすかに波の音。
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ボクくん
おれは大工かなあ
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語り手
魚模様の天窓から漏れる光が
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語り手
きらきらとほこりを黄金の金に変えている。
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クリス
大工かーおうちつくるの?
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ボクくん
そうだな
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語り手
もう設計する方は飽きたし
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語り手
昔の私が本当になりたかった職業へ就くために、がんばりたい。
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語り手
私が未来人であることから、説明しないといけなくなるので、そこらへんは言う必要はないと思った。
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クリス
なんかボクくんって大人だよね
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クリス
やっぱリアルな夢を持つのは必要なのかなあ…。
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語り手
めずらしい。
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語り手
今日はやけに気分が沈んでいるようだ。
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クリス
たまに、昔誰かに言われたことがぶりかえって気が沈むことってない?
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語り手
あったかもしれない…が、覚えていない。
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語り手
返答に時間をかけてしまうとこも、自分が経験を積みすぎて、はっきりと言えないダメなとこだ。
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クリス
子供じみた夢を持つってやっぱだめなのかな。
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ボクくん
いや、その考えは少し違うんじゃないか。
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ボクくん
正義の味方になるって色々あるだろう?
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ボクくん
警察官とか、特撮の役者になるとか
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語り手
これは話していいものか。
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ボクくん
あと数十年したら、クリスの言うアメコミヒーローだって、居て当たり前になるかもしれないぞ。
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語り手
実際に実在しはじめる頃には、私が興味を失ってからのような気がした。
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語り手
毎年当たり前のように蜘蛛男やアバンジャーズ等のヒーローものが映画化されるのは、この9X年代より、少し先の話だ。
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クリス
ボクくんと話すと落ち着くんだ。
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ボクくん
そっか。
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クリス
ケドルスなんて、あれだもん。
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ボクくん
なははっ
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語り手
クリスは少し考えはじめた。
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語り手
図書館内は誰かが歩く音、抑えた息遣いも聞こえてくる。
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クリス
そっかぁ、演じる方のヒーローになるのも、ありなのかあ・・・。
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語り手
クリスはおもむろにそう言う。
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ボクくん
大切なのは、自分が今、何をしたいか、どうしたいのか、自分の考えを持つことだよ。
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ボクくん
そうすれば未来は見えてくると思う。
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クリス
そっかあ
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語り手
本の表紙に手を置いて、切ない表情を一瞬、した――気がした。
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語り手
私の方を振り向くとニッコリと笑った。
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クリス
ぼく、がんばるね。
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クリス
ボクくんも自分のしたいこと、いっぱいしてね。
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語り手
もちろんだ。
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語り手
私はうなずいた。
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語り手
後に、クリスの家庭環境は悪く、叔母に預けられて暮らしていることが本人との触れ合いで少しずつわかっていく。
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語り手
両親からも将来の夢を否定されたクリスは自信を喪失し、見失っている最中だったのだろう。
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語り手
たとえ、それがどれだけ幼い夢だったとしても、
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語り手
見方を変えればいろんな職業に就けることを提示し、救うことができる。
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語り手
大人になると一番欲していた肯定の言葉は薄れていき、子供に対し夢のない発言をしてしまいがちになると思う。
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語り手
クリスは薄れてしまった私の童心を呼びもどしてくれる。
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語り手
とっても大切な友達だ。
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