素直になれない

  • 環境音

    ざぁぁああんん――

  • 環境音

    ざぁぁああんん…

  • レンジ

    あ!

  • レンジ

    ボクくーーん!

  • レンジ

    シュクダイおわったのー?

  • 語り手

    レンジは大きく手を振っている。

  • 語り手

    レンジのまわりには複数の子供がいて、ボクを見ている人もいたり

  • 語り手

    砂浜をつくったりとワイワイよろしくやっているようだ。

  • ボクくん

  • 語り手

    ボクは砂浜に続くコンクリートの階段の上で、レンジを見つめた。

  • 語り手

    ――どうして

  • 語り手

    時は過ぎ去っていくのだろう。

  • レンジ

    ボクくーん!

  • 語り手

    空に浮かんだ雲は、ボクの場所に陰を作る。

  • 語り手

    レンジはきらきらと輝く砂浜の上でボクを見ている。

  • ボクくん

    レンジ。

  • レンジ

    え?なに?

  • レンジ

    そっちいくよ!

  • ボクくん

    もうくるな。

  • 語り手

    レンジの足が止まる。

  • 語り手

    何度思い返しても

  • レンジ

    …ボクくん?

  • 語り手

    レンジのあの時の顔は、

  • 語り手

    私の心を締め付ける。

  • ボクくん

    おれは、あした、いえにかえる。

  • レンジ

  • レンジ

    じゃあ、あそぼうよ

  • レンジ

    ぼくとあそぼうよ

  • 語り手

    ボクは首を横に振る。

  • 語り手

    周りの友達もボクに声をかける。

  • 語り手

    遊んであげなよ

  • 語り手

    しかし、周りの声かけが逆にボクの神経に障った。

  • ボクくん

    もう、おまえとはあそばない。

  • 語り手

    レンジの目が涙で揺れている。

  • 語り手

    眉毛をしかめて、ボクに近寄る。

  • ボクくん

    くるなつってんだろうがっっ!!

  • レンジ

    ボクくんがきめることじゃない!

  • レンジ

    ボクくんがきめることじゃないよ!!

  • 語り手

    レンジがボクの腕をつかむ。

  • 語り手

    ガシャンッとスコップが落ちて

  • 語り手

    階段を転がって、

  • 語り手

    砂浜にとしゃっと沈む。

  • 語り手

    周りにいる人たちは、訝しげな目でボクを素通りする。

  • 語り手

    ボクだけ。

  • ボクくん

    はなせ

  • レンジ

    いやだよ

  • レンジ

    ぼく、なにかした?

  • レンジ

    ボクくんをキズつけるようなこと、なにかした?

  • レンジ

    なにかいった?

  • 語り手

    ボクはレンジと顔を合わせない。

  • 語り手

    ボクは眉をしかめて、おもむろに口を開くと

  • ボクくん

    なにもしてねえよ…

  • 語り手

    ぽつっと呟く。

  • レンジ

    おわかれはわらってするんだよ

  • ボクくん

  • レンジ

    こんなおわかれはやだよ

  • ボクくん

    おれは

  • 語り手

    レンジの手が

  • 語り手

    ボクの手をするすると包み込む。

  • レンジ

    ボクくん スコップとってくるね

  • レンジ

    ここにいてね

  • 語り手

    ぎゅっと一瞬、つかみ

  • 語り手

    すっと離れた。

  • 語り手

    レンジはスコップに向かう。

  • レンジ

    ボクくんっ

  • 語り手

    レンジはスコップを握り、後ろを振り向く。

  • 語り手

    ボクは後ずさり、走った。

  • レンジ

    ボクくんっっ

  • 語り手

    レンジは後を追いかけようとしていたと思う。

  • 語り手

    しかし、その日の海岸通りの人気は最多、最悪で。

  • 語り手

    人に埋もれたボクにレンジは追いつけなかったと思う。

  • ・・・
  • 語り手

    伝えたいことがたくさんあった。

  • 語り手

    伝えられなかったことが多かった。

  • 語り手

    好きになればなるほど、失うことが怖いのに

  • 語り手

    好きになることを止められなかった。

  • ボクくん

  • ボクくん

    おれ、なにしてんだろう

  • 語り手

    父にも、レンジにも

  • 語り手

    素直になれなくて

  • 語り手

    ひとりで街をブラついている。

  • 語り手

    はじめて過ごす無駄な時間。

  • 語り手

    いつの日だって夏は傍にいてくれた。

  • ボクくん

    これでよかったんだ。

  • 語り手

    自分は正しいと言い聞かせるように、呟く。

  • ボクくん

    お互い、好きなんだとわかる前に

  • ボクくん

    お別れするのが良いんだ。

  • ボクくん

    だって、おれが大人になったら…

  • ボクくん

  • 語り手

    本当にそれで良いのか?

  • ボクくん

    おれが大人になったら、もうおまえと、遊べなくなるじゃんか…

  • 語り手

    涙が出そうになったのを、あわてて袖で乱暴に顔を拭く。

  • 語り手

    両腕で顔を隠したまま空を見上げた。

  • 語り手

    人はおかまいなしに流れる。

  • 語り手

    人も、車も。

  • 語り手

    手に残っていたはずの、ぬくもりも。

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